「消防車だ」──遠くで響くサイレンを聞いて、2歳の息子が言った。その音は、ダウンタウンから聞こえていた。その約12時間前、ケンタッキー州ルイビルの男性David McAteeさんが警官に撃たれて死亡した場所だ。
私と子どもたちは自宅の裏庭にいた。ここは郊外の安全な地域だ。だが、悲劇というものは独自の法則で演じられるものだ。私の妻Lindseyは、近所の誰よりも、そして白人である夫の私よりも強く恐れ、悲しみ、怒った。彼女は(ジョギング中に射殺された)Ahmaud Arberyさんと同じランナーであり、(警官に誤って射殺された)Breonna Taylorさんと同じ女性であり、McAteeさんやGeorge Floydさんを含む警官に殺された多数の無実の人々と同じ黒人なのだ。
この数週間、Lindseyは多くの人々と同様に、自分の思いをFacebookが運営するInstagramでシェアしてきた。彼女はInstagramを友人と繋がり、イベントに参加するのに便利なツールだと感じている。
人種問題に関する複雑な抗議運動が急速に発展する中、TwitterとFacebookはメッセージを整えて拡散するのに便利ではあるが、厄介な問題も起きている。これらのプラットフォームでは、誤情報や不正確な情報を急速に拡散することも可能で、こうした情報が歴史的に重要な現在の局面におけるメッセージを損なう危険がある。
ソーシャルメディアは、革命を後押しするのと同じくらい抑制することもできる。幸いなことに、私たちにはソーシャルメディアの影響をポジティブに保つための強い力がある。意志を持ちさえすれば。
Lindseyと私は、2016年の大統領選でDonald Trump候補の支持者が圧倒的多数だった南部パブテスト派の中心地に住んでおり、体系的人種差別の存在に懐疑的な友人や知人に差別について説明することがよくある。今では説明が楽になった。テーマごとの具体的なネタに事欠かないからだ。
奴隷制、南北戦争後のいわゆる「リコンストラクション」、南部地方の人種差別的ないわゆる「ジム・クロウ法」、米連邦捜査局(FBI)による公民権運動指導者らの標的化と暗殺、合法的な住宅差別、(不当に有罪判決を受けた黒人男性を含む)大量投獄、人種隔離教育、そしてもちろん、現在進行形の警察による黒人への暴行など、人種差別は米国に深く織り込まれている。この国は建国当初から、有色人種、特に黒人に対し敵対的であり、現在もそうだ。
人種差別のありかたも、それに対抗するツールも、ここ数年で変わってきている。だが、ソーシャルメディアほど、社会闘争の世界規模をはっきり浮き彫りにするツールは他にはない。
Rain or shine, #LouisvilleProtests continue down Broadway for #BreonnaTaylor and #DavidMcAtee. pic.twitter.com/txMdv9nKb5
— Rae Hodge (@RaeHodge) June 5, 2020
雨でも晴れでも、亡くなったBreonna TaylorさんとDavid McAteeさんを悼むルイビルでの抗議デモは続く。(米CNETのRae Hodge記者によるツイート)
数十億人のための情報源であるTwitter、Facebook、Instagramなどのプラットフォームがなければ、最近の香港やレバノン、約10年前の「アラブの春」のような大規模な抗議活動の実現を想像するのは難しい。
だが、時代は変わりつつある。
民主主義監視機関であるFreedom Houseによる報告書「Freedom on the Net Report 2019」は、ソーシャルメディアが世界の政治情勢に及ぼす影響について、ディストピア的な予想を示した。「(2019年だけでも)24カ国で選挙期間中、国家あるいは非国家の関係者が世論を歪める目的で情報手段を採用した」という。
2020年がましになるとは思えない。カーネギーメロン大学のあるコンピューターサイエンスの教授が最近、抗議活動関連のツイートを調査したところ、それらのツイートを投稿したユーザーの30〜49%はボットである可能性が高かった。また、6月初めの時点でTwitterでのトレンドの多くは陰謀論に関するものだった。
At a time when there's a huge need and demand for credible info about what's going on, Twitter's trending topics are even more of a tire fire than usual. Almost all the top U.S. trends related to the protests today are either conspiracy theories or misinformation. pic.twitter.com/RHnU1AB7nu
— Will Oremus (@WillOremus) June 1, 2020
何が起きているか把握するための信頼できる情報が強く求められている時に、Twitterのトレンドはいつもよりひどいことになっている。今日、米国のトレンドになっている抗議運動関連のトピックのほとんどすべてが陰謀論か偽情報だ。(OneZeroのライターWill Oremus氏のツイート)
Twitterだけではない。Facebookは近年、2016年の米大統領選や英国の欧州連合(EU)離脱、意図せずミャンマーの大量虐殺を助長したことまで、多数の事件で物議を醸している。今も、Facebookの最高経営責任者(CEO)Mark Zuckerberg氏は、暴力を助長する完全に間違った政治的な投稿を表示し続けると主張する。この主張と、Facebook上で政治広告以外の広告のファクトチェックを続けることは、驚くほどの倫理的矛盾を示している。
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