シャープは、2020年3月期(2019年4月~2020年3月)連結業績を発表した。売上高は前年比5.4%減の2兆2712億円、営業利益は37.3%減の527億円、経常利益は19.5%減の555億円、当期純利益は71.8%減の209億円となった。
シャープの代表取締役兼副社長執行役員の野村勝明氏は、「第1四半期から第3四半期まで想定通りに推移したが、第4四半期は、新型コロナウイルスの世界的な流行により、非常に厳しい事業環境となった。だが、着実にトランスフォーメーションを推進していることもあり、こうした状況下でも通期の最終黒字を確保した。現在、こうした情勢変化への柔軟な対応を進めるとともに、8K+5GとAIoTをテコに、新規市場や新規事業領域での取り組みを推進している」と総括した。
なお、新型コロナウイルスの影響は、売上高で約1780億円、営業利益で約360億円となった。そのほか、退職給付金で約80億円の影響があった。
新型コロナウイルスの影響について野村副社長は、「世界的な物流の混乱や在宅勤務の拡大に伴う機器設置の影響があった。中国やASEANの工場が低稼働となったことで、国内向けの商材を確保できなかった影響や、3月後半に一部量販店が営業を取りやめた影響で、通信や白物家電、テレビ、PCに影響があった。中国では販売店の営業停止や外出規制、工場の稼働停止などの影響があり、テレビや白物家電の販売が減少した。ASEANではマレーシアやフィリピン、インドネシアなどで外出制限や経済活動制限が実施され、テレビや白物家電、ビジネスソリューションなどの売上げに影響が出た。欧州や米州では、ビジネスソリューションで、コピーボリュームやサービス売上げが減少したほか、欧州ではテレビ、米州では白物家電で影響があった」と地域別の影響を話した。
続けて「デバイスでは、自社や納入先の工場が稼働停止や低稼働となったことから、2月以降、車載向けやスマホ向けの販売に大きな影響が出た。サプライチェーンについては、段階的に正常化しつつあるが、コストダウンや経費削減など、さらなる体質強化を進め、独自技術を活用し、自動調理鍋の『ホットクック』や料理キット宅配サービスの『ヘルシオデリ』、PCやビジネス向け大型ディスプレイ、ビジネスコミュニケーションサービスなど、新たな需要が見込まれる新たな生活様式をサポートする製品、サービスの強化や創出に取り組む。そして、こうした取り組みに固執することなく、実体経済の変化をタイムリーに捉えて、状況に応じた柔軟な対応に努める」とした。
2月には中国の生産拠点での稼働低下、物流の混乱、販売ダウンが影響。3月中旬以降は、生産が回復してきたが、特定顧客向けや車載向けなど、顧客の都合で販売ができない状況が発生。4月に入ってからの生産については、一部地域を除いて戻ってきているが、販売状況は厳しいと述べた。
セグメント別業績では、スマートライフの売上高が前年比4.7%減の8562億円、営業利益は26.3%増の397億円。白物家電は、海外でエアコンや冷蔵庫、洗濯機が伸張し、国内では消費増税の影響があり、増収となった。デバイス事業は新型コロナウイルスの影響があり減収になったという。新型コロナウイルスの影響は、売上高でマイナス360億円、営業利益でマイナス70億円となった。
8Kエコシステムの売上高は前年比11.9%減の1兆1572億円、営業利益は68.5%減の149億円。ディスプレイデバイスでは、PCやタブレット向けのパネルが伸張したが、スマホ向けや車載向けが減収となった。テレビは中国や国内で減収となり、前年度を下回った。新型コロナウイルスの影響は、売上高でマイナス1100億円、営業利益でマイナス210億円となった。
ICTは、売上高が前年比27.3%増の3575億円、営業利益が3.0%減の202億円。キャリアの料金体系の変更もあり、通信事業は前年度実績を下回ったが、IoT事業が伸張。Dynabookを連結化した成果もあった。Dynabookはすべての四半期で黒字になったという。新型コロナウイルスの影響は、売上高でマイナス320億円、営業利益でマイナス80億円となった。なお、新型コロナウイルスの影響により、棚卸資産は213億円増加し、2947億円になったという。
野村副社長は、「2019年度は最終黒字を確保したが、厳しい状況は続いている。環境の変化に対応した柔軟な事業経営を行うとともに、トランスフォーメーションを継続し、業績の回復、財務体質の改善、株主価値の向上を図る。また、技術、リソースを積極的に活用することで、製品やサービス、医療物資を提供し、社会に貢献する」と述べた。
一方、2021年3月期通期の業績見通しについて、野村副社長兼CFOは、「新型コロナウイルス感染症の動向を予測することが困難な状況であることから、2021年3月期第1四半期の業績が明らかとなる2020年8月を目処に開示する予定である」とした。
「各国では経済活動への制限が緩和される動きがある。営業外損益などは予想しにくく、不透明感が続くものの、緩和の流れが続けば本業が回復する。売上高と営業利益は、2020年度上期に、2019年度下期を上回り、2020年度下期には2019年度上期を上回る。2020年度通期では、2019年度を上回る見通しである。2020年第1四半期も、2019年度第4四半期よりも改善するだろう。シャープの生産活動も段階的に回復しており、顧客ニーズの変化にも適切に対応した取り組みを進めている」と述べた。
スマートライフについては、「白物家電は、販売や設置工事など、事業活動の制限が続くことになるが、消費者ニーズを的確に捉えており、在宅需要を背景に、調理家電や空気清浄機が、需要を取り込んでいる。また、eコマース向けの販売強化や、ローカルフィット家電の拡充を進めている。デバイスはスマホ需要を注視する必要がある」とした。
8Kエコシステムでは、「ディスプレイでは、車載向けの不透明感が継続するが、テレワークの拡大に伴い、PCやタブレット、医療機器向けのディスプレイの引き合いが増えている。ビジネスソリューションでは、在宅勤務やテレワークの拡大により、営業活動が制限されており、サービスも低調に推移している。テレビ事業は消費の落ち込みは懸念しているが、5月および6月に、8Kテレビや4Kテレビのほか、当社初の有機ELテレビを投入する予定であり、これにより、シェア向上を図る。また、eコマース向けの販売を強化している」と述べた。
ICTに関しては、「通信事業は販売活動の制限や市況の低迷は続くとみているが、5Gは下期以降の伸びが大きくなるとみている。Dynabookは、テレワークの需要を確実に取り込み、IoT事業では在宅需要を取り込んだeコマースビジネスの強化を図っている」と語った。
なお、同社では、戴正呉会長兼社長が、代表取締役会長執行役員兼CEOに就任し、野村勝明副社長が、代表取締役社長執行役員兼COOに就任する社長人事を発表した。2020年6月25日に開催予定の定時株主総会および取締役会で決定する。なお、石田佳久取締役副社長執行役員は退任し、シャープを退く。
会見において、野村副社長は社長就任の抱負について言及。「新型コロナウイルスの影響で、2020年3月期第4四半期は減収減益となり、赤字になった。2017年3月期第2四半期に鴻海がシャープに出資したときには赤字だったが、これを第3四半期には黒字化した。そのときには、戴氏が社長兼CEOで、私が副社長兼COOという体制だった。もう一度、その体制で、しっかりとタッグを組んで立て直す」としたほか、「新型コロナウイルスの感染拡大により、当面、厳しい事業環境が続くことになる。原点に戻って、One Sharpで厳しい環境を乗り越えたい。既存事業だけでなく、8K+5G、AIoTをテコに新規事業の創出を図ることで、しっかりと伸ばしたい」とした。
野村副社長に、社長就任の打診があったのは2020年3月下旬で、「シャープで育ってきた者として、この難局に、しっかりと対応してやっていこうと考えて、就任要請を受けた」と述べた。石田副社長の退任理由は、「一身上の都合」と説明した。
ジャパンディスプレイ白山工場の買収については、「顧客からの要請があったこと、東証一部の上場企業として日本の社会への貢献につながること、液晶技術のパイオニアであり、リーダーとして、高付加価値の製品を作り続けていく必要があると考えて取得を検討している。業績への影響、リスクなどの観点から慎重に検討を進めている段階だ。詳細な内容は話せない」と述べた。
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