——案件ごとの目利きにおいては、どういった点が「投資の決め手」になるのでしょうか。最近投資された事例を挙げて、教えていただけますか?
国内の事例ですと、2018年にクロスロケーションズという、スマートフォン経由で取得できる位置情報を活用したロケーションベース広告やロケーションインテリジェンス等の、位置情報ソリューションを展開する会社に投資しました。
この会社は、Near(ニアー)という、世界最大規模のロケーションインテリジェンスプラットフォームを提供している、シンガポール企業の日本事業のスピンオフでした。同じ領域を手がける他社とも比較したのですが、「NTTグループの事業との補完性」や「日本でのアセットや販売スキームをすでに保有している」ことが決め手となって、投資に至りました。
——2019年の投資先は、3分の2が海外企業でしたが、海外の事例についてはいかがでしょうか?
海外の事例ですと、Realeyes(リアルアイズ)という、人の顔を撮影して表情から感情を定量的に測定する、感情認識の技術を開発するイギリスの会社に、2019年に投資しました。投資の決め手となったのは、「サービスとして完成している」という点です。
要素技術だけを開発している会社だと、協業のために一手間も二手間もかかってしまいます。ですが、この会社では、ウェブサイトにアクセスして、動画ファイルをアップロードすれば、感情の解析データが送られてくるというサービスがクラウド上に完成していたため、即座に協業を開始することができました。
一般的なVCであれば、要素技術だけであっても、それが光っていれば十分投資対象になり得ますが、我々はCVCですので、「協業のしやすさ」という評価軸が、どうしても入ってきます。
——なるほど。CVCとしてのポートフォリオ管理や「協業のしやすさ」、VCの観点から見ても「投資の旨味」があるかどうか、絶妙なバランス感覚で投資先を決定されている印象です。海外のスタートアップも無数にありますが、文化や言語など様々な違いもある中で、どのように投資先を発掘しているのでしょう。
我々がカバーしているのは、北米、イスラエル、欧州、東南アジアの4地域ですが、地域ごとに取り組みの歴史や、投資のやり方も異なります。現地に支店がなく出張ベースでカバーする場合には、現地のVCやコンサルタントとのコネクションを大切にしています。ファンズオブファンズ型のVCにアクセスするなど、効率の良さも大事ですね。
——今後は、中長期的にどのような投資をしていきたいと考えていますか?
これまで過去に5つファンドを作って12年に渡って投資活動を続けてきたので、今後も継続して業界に貢献することを本当に大事にしたいですね。そういう意味では、流行りや目立つところに花火みたいに投資するのではなく、バランスよく“堅実な投資”をしていきたいです。
また、投資のバリエーションも増やしていきたいですね。いまは、協業をしっかりと描ける案件への投資が中心ですが、代表の稲川が「ファスト・フォロワー(Fast Follower)戦略」と呼んでいるように、「直近で協業はないけれど、これは絶対にくるよね」といった分野にも、投資を増やしていきたいと考えています。
NTTドコモ・ベンチャーズは、NTTグループとスタートアップコミュニティとの最前線にいる立場です。水先案内人というか、トレンドを我々がいち早くキャッチして、NTTグループ内で発信していく、今後はそんな動きも増やしていく必要があると思っています。
——その中で、矢島さんは今後どのような役割を担っていくのでしょうか。
私の役割としては、やはりこれまでのCVCとVCで培った投資経験を生かして、「投資家目線での目利き力」をNTTドコモ・ベンチャーズ全体としてさらに強化していきたいと思っています。NTTドコモ・ベンチャーズには、CVCとしての歴史に裏付けされた「組織知」があって、これは大きな財産であり強みですが、各投資担当者個人としての投資スキル蓄積も非常に重要です。その強化に注力したいと思います。
メンバーからは、「矢島さんに案件を持っていくと、あれもだめこれもだめと指摘が入って、死屍累々ですよ」なんて、冗談交じりに言われることもありますが(笑)、2019年のスタートアップ投資は過去最多となる30件を記録しました。その中で、クオリティをしっかりとコントロールしていくことが、自分のバリューだと思っています。
——最後にスタートアップの皆さんへ、一言お願いします。
我々は投資のみならず、協業の窓口でもあるということをお伝えしたいですね。我々は、日々本当にいろいろなスタートアップの皆さんと接していますが、「残念ながら投資は難しそうだけど、協業の可能性はありそう」という場合は積極的にNTTグループ各企業に紹介し、お繋ぎするようにしています。その結果、実際に協業に至ることも決して少なくありません。
状況に応じて投資というツールも活用しつつ、スタートアップ企業さんとNTTグループの双方にとってメリットがある協業関係を築けたらとても嬉しいです。
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