スタートアップのエコシステムづくりを目指す神戸市では、海外に挑戦する若者たちを支援する「起業家育成海外派遣プログラム」を実施している。2020年は2月末から3月にかけて、米国シリコンバレーと東アフリカのルワンダ共和国に、学生を中心とした計33名を派遣。その成果を発表する報告会が3月28日に神戸市で開催された。ただし、新型コロナウイルスの感染拡大防止のため、無観客のライブ配信という形で実施した。
シリコンバレーを1週間訪問する「Be an Innovator for yourself in Silicon Valley」は2015年から5年連続で開催され、前回までに計80名が参加している。現地企業やコミュニティとの交流を通じて、社会課題の解決に必要なデザインシンキングや起業家のマインドセットを学ぶことが目的だ。ワークショップやレクチャーなどの運営は、現地の教育系NPO法人VIAが担当する。今回は中学生から大学生まで19名が参加した。
一方、IT立国として急成長し“アフリカの奇跡”と呼ばれる東アフリカのルワンダを2週間訪れる「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」は、現地の文化や経済を理解するビジネス視察をした後、そこで見つかった課題を解決するアイデアやビジネスモデルを企画し、プロトタイプを作成・検証するプログラムだ。2019年から2年連続で開催され、今回は高校生2名、大学生7名、社会人5名が参加した。
両プログラムとも、現地訪問だけではなく事前研修と帰国後の報告会までを一つのプログラムとしている。参加費はルワンダが11万円、シリコンバレーが7万円で現地宿泊費は含まれるが、渡航費や食事などの実費は自己負担となる。参加者は申し込み書類とオンライン面談によって選出されるが、神戸市に在住していなくてもプログラムに興味がある若者であれば誰でも応募できる。
報告会は新型コロナウィルス対策のため時間を短縮し、各プログラムから3件ずつ発表された。シリコンバレー組はキャリアデザインについて、ルワンダ組は滞在中に企画したビジネスプランを発表した。
シリコンバレーの参加者で最年少の大嶋紅桃さんは、都内の中高一貫学校に通う3年生で、ジェンダーなどの社会課題や起業に関する部活に入っていることがきっかけで、本プログラムに参加した。新型コロナウィルスの影響で予定したスケジュールが変更されたり、差別発言を受けたり、いろいろと大変な思いもしたが、1週間で多くの気づきがあったという。
「多様性があると思っていたアメリカでも日本と同じようにいろいろな問題があり、課題解決に向けて日本でできることを探っていきたい。以前から興味があったLGBTQの関係者と話す機会もあり、問題で傷つく人を救う活動をしたいと改めて思った」と振り返った。
亜細亜大学の森永窓花さんは参加した気づきとして、自分が生まれ育った神戸とシリコンバレーがそれぞれ持つ多様性に注目。神戸市を、グローバルな価値観について考え、若者や社会にイノベーションを起こしたい人たちが集まる場にしていきたいと話す。
第一学院高等学校でプログラミングを学ぶ野崎智弘さんは、最先端のテクノロジーに触れることで、自分の将来の目標を見つけるために参加。さまざまな企業を訪問したり現地の人たちと話をする中で、自分の弱みを強みに変えられることに気づいたという。「ビジネスの途中でも進む道を変えるのは普通だということや、分野を超えた多角的な視点を持つのも大事だということが学びになった」と今回の成果を語った。
アフリカでの起業体験プログラムの舞台となったルワンダは、1994年に国民の1割以上が犠牲になったジェノサイドから26年が経ち、現在は治安が非常によくなっている。また、ジェンダー・ギャップ指数は世界で4位にランクイン(日本は114位)するなど女性が活躍している国でもある。参加者はそうした現状に加え、現地のスタートアップを訪問したり、地元のシングルマザーとワークショップを開催するなど、リアルな体験を元にビジネスプランを考えた。
沖縄クリスチャンスクールインターナショナルから参加した高校生の山田果凛さんは、現地の子どもたちの貧困を目の当たりにしたことからルワンダの伝統工芸「イミゴンゴ」のアクセサリーを現地のシングルマザーに制作してもらい、日本で販売するビジネスプランを提案。同じプログラムに参加した早稲田大学の大下直樹さんに協力してもらい、成果報告会の2日前にクラウドファウンディング「高校生がアフリカ貧困層の子供を救う!伝統工芸をRe:Designして新たな価値へ」をスタートさせた。クオリティの高い商品を現地で作る環境も含めた現実的なプランが発表され、ほかの参加者たちを驚かせた。
郁文館グローバル高校の永野理佐さんは、現地の衛生環境向上と収入にもつながる手作り石けんのビジネスを提案した。材料に使用するルワンダの植物から作ったオリジナルのアロマオイルを、現地のシングルマザーたちと作る経験もしている。さらに、アフリカの布で折り鶴のイヤリングを作り、それを世界中に留学する友だちを通じてオンラインで販売するアイデアも提案。2024年12月には世界中を回ってルワンダに笑顔を届けに戻ることを宣言し、会場から大きな拍手が贈られた。
北海道大学大学院の渡邊大輝さんは札幌からオンラインで、キリロム工科大学東京事務所長の有澤和歌子さんと一緒に「Kobe Flamingo Company」という会社を立ち上げるプランを発表した。ルワンダで仕事のない人たちを助けている起業家とパートナーシップを組み、ここにしかないオリジナルアロマオイルを販売する。さらに現地のデザイナーと組んだ服を販売するなど、神戸からルワンダのファッションを発信することも検討している。
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