使い放題の内容が異なる理由は、ネットワーク整備戦略の違いにあるといえよう。実際、ソフトバンクは2021年末に、5Gの人口カバー率90%超を目指している。一方のドコモとKDDIは、2022年度末までに5Gの基地局を2万局設置し、それによって4Gに匹敵するエリアでの利用を可能にするとしており、広範囲で5Gが使えるようになる時期は大きく異なっている。
なぜ、ソフトバンクが早期に広範囲をカバーできるのかというと、それは広いエリアをカバーしやすい4Gの周波数帯を、5Gと共用する「ダイナミックスペクトラムシェアリング」(DSS)という技術の活用を視野に入れているためだ。5G向けに割り当てられた周波数帯は広範囲をカバーするのに向いていない。そこで、ソフトバンクは広範囲をカバーしやすい4G向けの周波数帯を活用することで、一気に5Gのエリアを広げようとしているわけだ。
だが、5Gの特徴の1つである「高速大容量通信」を実現するには、周波数帯域の幅が広い、5G向けに割り当てられた周波数帯を使う必要があり、DSSを使っても現在の4G以上の高速大容量化は見込みにくい。そこで他の2社は時間はかかるものの、高速大容量通信に適した5Gの周波数帯を用いた基地局を多数設置することで、広範囲をカバーする計画を立てている。
そのため、ドコモとKDDIは、5Gのエリア整備が進めば大容量通信に耐えられると踏んで、多少限定的な要素があるとはいえデータ通信し放題の導入に踏み切ったといえる。一方、ソフトバンクは早期のエリアカバーを重視した結果、データ通信し放題は見送ったといえるのではないだろうか。
ただし、3社ともサービス開始当初の5Gエリアは“点”、つまり非常に限られた場所や施設しかカバーできておらず、広範囲で5Gが利用できるようになるのは少なくとも1年先となってしまいそうだ。その影響を受けるのが、5Gを活用したコンテンツ展開である。
各社とも5Gのサービス開始に合わせて、XR技術や多視点映像を活用した映像配信、クラウドゲーミングなどのコンテンツサービスに力を入れているが、その多くはすでに4G向けとして提供されているものに近い。もちろん、5Gの高速大容量通信によって利用が快適になるサービスも多いが、5Gの特性をフルに生かした内容とは言い難い。
その理由としては、5Gのキラーとなるサービスが生まれていないことも挙げられるが、より大きいのはエリアの狭さであり、当面は多くの人が5Gのサービスに契約しても、実際は4Gで通信する頻度が高くなる。そのため、5Gスマートフォン向けにサービスを提供するより、むしろ5Gが使える場所に来てもらうことに力を注いでいる様子も見られる。
特にその傾向が強いのがKDDIだ。同社は5Gの提供開始に合わせて、アニメ「攻殻機動隊SAC_2045」とコラボレーションし、5Gを活用したイベントを東京・渋谷で実施する。また7月に開業するライブハウス「Zepp Haneda(TOKYO)」でも、5Gの基地局を設置することでライブ体験をよりリッチなものにする取り組みを推し進めていくとしている。それだけに新型コロナウイルスの影響で、5Gのサービス開始当初からそうしたイベントを展開できなかったのは悔やまれるだろう。
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