神戸市と渋谷区が「官民連携」をダイナミックに進める狙い--寺﨑副市長と澤田副区長に聞く - (page 2)

「都市間競争」はグローバルで繰り広げられている

ーー神戸市はこれまで、海外の大手ベンチャーファンドである500 StartupsやFacebook Japanと自治体として初めて提携したほか、NTTドコモや楽天などの国内大手企業とも次々と連携しています。どのように、この意思決定の早さを実現しているのでしょうか。また、企業誘致もされていますが、特にどのような企業を求めていますか。

寺﨑氏:久元神戸市長が申し上げているように、「スピード感を持って取り組もう」というトップの姿勢が大きいですね。500 Startupsとの提携は、見方を変えれば市民生活と関係がない取り組みを税金で進めているように見えますが、膨大な宣伝効果があります。また、Urban Innovation KOBEでは、神戸医療産業都市と組んでヘルスケアプログラムを実行しますが、これもトップの強い信念が必要でした。

 誘致企業にこだわりはありませんが、できればクリエイティブな企業を希望します。たとえば、渋谷区とコラボレーションしたりして、六甲山で美しい景色を見たり、美味しい神戸ビーフを食べたりしながら、普段は神戸で働くといった企業なども誘致したいですね。

澤田氏:それは私が行きます(笑)。これからは都市間連携が重要なります。たとえば、渋谷のスタートアップ企業が、神戸市で社会実証できるような拠点ラボを共同で作るなど、都市と都市が向き合えば日本の成長に大きく貢献できると思います。

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ーー澤田さんは昨年(2019年9月掲載)のインタビューで、今後は「国 対 国」ではなく「都市 対 都市」の競争になるとお話されていました。改めてそのお考えをお聞かせください。

澤田氏:長谷部健渋谷区長は、渋谷区をロンドン、パリ、ニューヨークと並ぶ、世界に誇れるような「成熟した国際都市」にしたいという基本構想を掲げてきました。シティプライドで世界の主要都市と対等にもしくはそれ以上の都市を目指す、壮大なビジョンです。

 スタートアップ市場もそうですが、激烈な都市間競争はグローバルで繰り広げられています。イスラエルのテルアビブにおけるスタートアップの熱量は非常に高く、アムステルダムやストックホルムなどでは、東京以上にスタートアップが成長しています。国という単位ではスピードがどうしてもきめ細かく都市やエリアごとにセグメントしたサービスを創出するには無理がありますし、また1つの拠点だけに注力することは難しくなります。

 であれば、首長の政策能力で大きく変革できる都市単位の方が動きやすいでしょう。国内の都市間で人口や税源を奪い合いだけでは、国全体の生産性を引き上げることはできません。国外から成長に資する投資を促進するための都市の環境整備が急務です。都市政策をオープンセクターで実行すれば、それがシビックプライドにつながり、ひいては渋谷区や神戸市に住み続けたいという強いマインド形成になります。

ーー渋谷はGoogleに代表されるIT企業が集まり「渋谷ビットバレー」という呼称も生まれました。また「渋谷をつなげる30人」など、多様なバックグラウンドの人たちを巻き込んでいる印象があります。

澤田氏:渋谷区には未来を常に創造しようという人たちを応援する都市であるということが強みになっています。一般論として過去の大きな成功体験はイノベーションをブロックする可能性が高いと認識されていますが、イノベーションとは既存の仕組みや価値観を否定したり壊すことから生み出される可能性があると確信しています。

 社会は常に変化しています。パブリックセクターである我々が変化しないのでは、地域社会に負をもたらすのではないかと危惧しています。だからこそ、民間企業と同等いやそれ以上にスピーディーに変化し、新しい価値創造を積極的に進めていくべきです。スタートアップの方々と話すと常に新しい学びがありますし、私は自身の経験や思考になかった、彼らの構想力にとても魅力を感じています。

渋谷区 副区長の澤田伸氏
渋谷区 副区長の澤田伸氏

ーー神戸市と500 Startupsによる2019年のアクセラレーションプログラムは、200社を超える応募企業のうち約半数が海外企業だったそうですね。また、2〜3月にかけて実施するルワンダ共和国起業体験プログラム「KOBE STARTUP AFRICA in Rwanda」もそうですが、なぜ積極的に海外ともコラボレーションするのでしょうか。

寺﨑氏:神戸は国際的に開かれた街なので、国際感覚を常々磨いてきました。アフリカは中国が先行進出し、日本が立ち遅れている地域です。彼らに「負けないぞ」という意味も込めて、アフリカには今後も注力する予定です。

 そのほかの国ではインドですね。今、インドの方々が米国に入りにくくなっているので、1つのチャンスだと捉えています。神戸市には昔からインド人のコミュニティもお寺もあるので、アプローチを重ねてきました。他方でベトナム人の増加数も神戸が日本一。ベトナムの方々に神戸市で起業してもらえればいいですね。当然、我々も支援政策を用意し、国際都市として認知することに注力していきます。

ーー最後に、官民連携の切り口で今後の展望を聞かせてください。たとえば、担当者はやる気があっても現場の役所職員との温度差があるという話はよく聞きますが、実際に神戸市と渋谷区の職員の皆さんの意識はいかがでしょうか。

寺﨑氏:行政がやり方を変えるときは説明責任を求められますが、本来は変えないことに説明を問われるべきでしょう。どうしても「間違えてはいけない」という思いに捕らわれ、前年の手法を踏襲してしまうんですね。

 そこで、我々は市長直下に「つなぐ課」を設置しました。たとえば引きこもり対策であれば、ヒアリングを経て担当部署へ渡すという仕組みです。やはり通訳のように行政と現場の言葉を変換する仕組みが必要です。来年は「つなぐラボ」として規模を拡大し、マインドセットの変化に努めます。

澤田氏:渋谷区では、任期付き職員という雇用形態で民間人財の採用を増やしています。やはり経験者を採用した方が早いですから。私も区長も民間企業出身ですが、職員に思いを伝えるのに少なからず苦労してきました。

 そこで心掛けたのが組織のフラット化です。行政組織は縦に強く、ガバナンス面では有効ですが、クリエイティビティやコラボレーションという観点ではそれが弱みになることがあります。そのため最初の1年は、3日に1回は職員たちと飲んでいました。荒療治をしないと、区長の任期はあっという間に終わります。4年間やってきましたが、まだ道半ばですね。それでも組織を牽引するのはトップ20%の人財です。彼・彼女らがクリエイティブ思考で柔軟な発想力を持てば、組織の変化は半ば成功したと同じ。60%はフォロワー層として、その後ろに自然とキャッチアップしてくれると思っています。

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モデレーターを務めたCNET Japan編集長の藤井涼

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