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渋谷をニューヨークにも負けない“強い都市”に--行政を劇的にデジタル化した立役者

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2019年09月18日 08時00分
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 数多くのベンチャーやスタートアップ、IT企業が続々と集まり、日本の最新トレンドが生まれ、さらには若者カルチャーの発信基地ともなっている東京・渋谷。強烈なダイナミズムが常に感じられるそんな街を、ある意味制御する役割を担うのが行政の中心である渋谷区役所だ。

渋谷区副区長の澤田伸氏
渋谷区副区長の澤田伸氏

 この渋谷区に2015年10月、広告会社や投資ファンドなど民間企業での経験豊富な澤田伸氏が副区長として就任した。同氏はそれまでに培ったデータ分析やデジタルマーケティングのノウハウを生かし、渋谷区の行政のデジタル化を強力に推進。2019年1月に新庁舎が完成したのを機に、すべての職員のPCをMicrosoft Surfaceに変え、BYOD(Bring your own device)やフリーアドレスも導入するなど、業務環境を大幅に刷新した。

 最先端を走る街である渋谷の行政の変化にはどのような意味や理由があるのか、澤田氏に話を聞いた。

渋谷をデジタライズの「一丁目一番地」にする

ーー渋谷区の副区長として、具体的にどういった業務をされているのでしょうか。

 渋谷区役所のCIO(Chief Information Officer)やCISO(Chief Information Security Officer)として、すべての情報戦略や情報セキュリティに対する執行責任を持っています。情報通信やテクノロジーについて、最終意思決定者は僕ということになります。

 業務のデジタライズというのは今や当たり前の話です。しかもパブリックセクター(公的機関)である我々がデジタライゼーションを一丁目一番地として進めていかない限り、地域社会を持続的に成長させることが困難になってきている。これはもう確度の高いことで、それをいかに早く、いかに本気で取り組むかということが時代の要請として求められています。

ーー自治体自身が積極的にデジタル化を進めることで、地域としての成長を促すわけですね。

 地方都市でもAIやRPA(Robotic Process Automation)の導入はどんどん進んでいます。けれども、地方都市と政令指定都市、そして東京とではその意味合いはそれぞれ違うんです。なぜなら、地方は合理化が中心的な目的であることが多く、我々は持続的成長や可能性創造を主眼としているからです。

 世界的潮流として、都市間競争が激しくなってきています。国同士の競争じゃなくて、都市間の競争ですね。たとえば英国と日本が戦っているのではなくて、東京対ロンドンとか、東京対上海とか。ありとあらゆる国が、オープンイノベーション、スタートアップエコシステム、スマートシティといった領域で激しく競い合っています。

 僕らは当然ながら渋谷という都市は、都市間競争のなかでロンドン、パリやニューヨークと伍するような強いコミュニティ、つまりシビックロイヤルティを有していると思っています。そのための成長を止めず、むしろ成長を加速するような街にならなきゃいけない、というのが区長の思いでもあり、その仕組みや計画作るのが僕の仕事です。

ーーそうした強い都市を作るうえで、いまフォーカスしていることはありますか。

 数年前からずっと言われていることですが、パブリックセクターこそパブリックセクターサイドだけで議論を進めるべきではありません。オープンセクターやクロスセクターと呼ばれるように、まさに産官学民が連携して、みんなで地域社会のアジェンダを共有し、地域社会のビジョンを作り、実現に向けた計画策定に多様な人材を取り込んで連携していくのが、一番重要と思っています。それが渋谷区としての基本構想です。

 その部分については、どの街よりも渋谷は対話を重視しているし、地域としても多様性や寛容性をすごく大切にしている。渋谷は「ちがいをちからに変える街。渋谷区」をビジョンとしていますから、それに向かって、今日よりも明日、今年よりも来年へと、持続的に成長させていくことが重要だと思っています。

ーー渋谷は以前からIT企業の多い街でした。近年は「SHIBUYA BIT VALLEY」のようにテック企業が主導するイベントが毎年開催されていたり、以前渋谷にオフィスのあったGoogleの日本法人が現在の六本木から戻ってくるといった話もあります。渋谷区はIT企業の誘致に熱心なのでしょうか。

 我々自身が主導して誘致しているわけではありません。我々が誘致しようと思っても、再開発事業者じゃないですし、税制優遇政策をコントロールすることはできない。民間企業が民間企業の開発に基づいて、みなさんが渋谷を選んでいただいているのです。これは行政が意図しているのではなく、渋谷という街がもっている寛容性とか、カオス感とか、若い人がたくさん集まるとか、ストリートカルチャーといったものが、IT人材を惹きつけているんじゃないかと思います。それ自体が一種のエコシステムになっているのかもしれませんね。

“渋谷を再びビットバレーにする”ことを目的に2018年に発足した「SHIBUYA BIT VALLEY」(2018年9月に撮影)
“渋谷を再びビットバレーにする”ことを目的に2018年に発足した「SHIBUYA BIT VALLEY」。中央に立っているのが渋谷区長の長谷部健氏(2018年9月に撮影)

 コワーキングスペースがたくさんできて、スタートアップ企業が集まり、スタートアップと大企業の交流が日常的に起きています。これって誰かが設計して作っているわけじゃない。僕のところにも世界中からオープンイノベーションを推進している関係者が提案に来られますけど、渋谷に拠点を構えるというのは一種の世界的な潮流になっているかもしれません。

 世界中の都市でパブリックセクターがオープンイノベーション拠点を開設していますが、そうした機関が「アジアに出てくるなら今は渋谷だ」って指名するんですよ。「東京」じゃなく「渋谷」に出てこなければ意味がないと、そういうご指名を受けているのは非常にうれしいですね。

ーーなぜ、それほどまでに企業は渋谷に惹きつけられるのでしょう。

 民間企業が渋谷に集まるのは、渋谷に成長に資するエネルギーがあるからではないでしょうか。渋谷には働きやすさとか、多様な人材、デジタルノマドを惹きつけるようなカルチャーがある。ただし、ゴミや騒音の問題、安全に対する課題があるのも事実で、そういったものをみんなで連携して解決していかないと、魅力的な人材をいつまでも惹きつけていられる街にはなりません。

 民間企業が、自社収益が伸びるからということではなくて、地域社会の成長に基づいて自分たちも成長するというようなシンクロナイゼーションが起きることがわかっているから、ここにいるんじゃないのかなと思います。渋谷が成長することが自分たちの成長につながっている、自分たちが成長することで渋谷が成長する、ということですね。

 地域社会がもっている可能性に向けて、ともに手を携えてみんなで共創していけるような街。若者が来るとエンパワーメントされるというか、勇気をもらって何かできるんじゃないかという、そういう雰囲気が渋谷にはあるんじゃないでしょうか。ここだったら遠慮なく裏路地のビストロに行って、そこで初めての人と会話ができるような雰囲気がある。しかも、そこで仕事の話をして、ビジネスが生まれるってことがもう当たり前に、毎日のようにあるわけです。

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 いろんなワークショップやカンファレンスも無料で行けるものがたくさんあるから、いつでも誰とでも繋がれるし、出会えるし、化学反応を起こせる。そういう環境が渋谷の1つのカルチャーになっていますよね。

ーー渋谷区として、民間企業との連携も増やしているのでしょうか。

 ビジネスって、だいたいは誰かの課題を解決するものじゃないですか。行政も住民であるお客様の課題を解決するという点では同じはずですが、今まで民間企業とはあまり連携ができていませんでした。お互いに素晴らしいリソースをもっているのに、もったいないですよね。そういうところでコラボレーションしたり、互いにベクトルを合わせていけることを、渋谷という街の強みにしなきゃいけないなと思っています。

 こういう動きを「民間的な発想だ」とか、「民間は利益最優先の話をしてくるんだ」というように揶揄する公務員はたくさんいると思いますが、この21世紀に民間だからどうだとか、行政だからどうだとか、そういう文脈で物事を語っている人たちは変革に取り残されると思います。だから行政も大きく変わらないといけない。

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