当時の様子を「クックパシャッド」を生み出したメンバーの1人、サッポロビール 生産技術本部 製造部 マネージャー 保坂将志氏は次のように振り返る。「われわれは飲みニケーションが得意だが、2人だと軽いコミュニケーション構築は難しく、チームによっては意思疎通に問題があったチームも出てきた」。
もう1人のメンバーである同社技術知財戦略部 マネージャー 河内隼太郎氏と共に、さまざまなアイデアを出し合ったが、そこに共通していたのは「妻への愛情」だった。共働き夫婦における男性が料理参画することで妻の家事負担軽減を実現するため、夫婦で料理家事を共有することを軸に外部パートナーの公募に至る。そこに参画したのが、さまざまなビジネスに音声UIソリューションを提供するオトナル 代表取締役社長の八木太亮氏。
当初は音声UIを用いた家庭の食材在庫を夫婦で共有するサービスを2019年2月開催のアイデアブラッシュアップで披露したところ、前述のとおり5チームに選出されたものの、討議のファシリテートやプレゼンテーションまで八木氏に頼り、事務局から強く叱咤される。
2019年7月のビジコン本番に向けて、サムライインキュベート Enterprise Group, Senior Manager 宿輪大地氏がメンターとして合流。世の夫婦に対して家事負担に関するアンケートを実施し、夫向け料理教室の開催と、調味料を自宅マンションで購入できるBtoCサービスを2019年5月の中間発表で披露した。
ところが、今度は担当役員から「家事負担軽減という課題が置いてけぼり。経営陣が期待した家庭データの取得もできなくなった」と叱咤を受ける。本番まで残すところ約2カ月。ゼロスタートとなった保坂・河内両名は役員に対して、二次選考会時の期待ポイントや家庭の課題について意見を求め、翌週にはチーム全体で「自分の妻を助ける」という当初のアイデアに立ち戻った。
最終発表時前夜22時に保坂氏は寝ていた妻を起こしてプレゼンテーションを行った。起こした件については怒られたものの内容は褒められ、実際に事業化挑戦権を得た2チームのうちの1つとなった。クックパシャッドと、各種クラフトビールとおつまみの定期配送サービス「ふたりのみ」が選ばれた。
ここでクックパシャッドの概要を紹介したい。冷蔵庫の中身を撮影してチャット送付すると、食材在庫からレシピと購入すべき食材をチャットで提案するサービスである。多くの読者諸氏は深層学習を用いた画像認識で食材を判断すると思われるが、この時点で教師画像もチューニング済みの画像解析技術を持ち合わせておらず、社内モニターを対象とした実証試験では保坂・河内両名の人力によって食材を判定していた。
2019年9月に行った実証試験(被験者数は23名)では、「朝6時から作業開始したものの、ユーザー全員にレシピ提案をできずに夜を迎えてしまった」(河内氏)が、試験者の9割が利用を希望した。今後、レシピの組み合わせを自動生成するレシピリコメンドエンジンの搭載や、ヘッドウォータースの「SyncLect」を使った画像解析技術も組み合わせ、2020年夏にベータ版のローンチを迎える予定。「料理に関する一連の行動をシームレスにつなげられるようなサービスを目指したい。食材在庫の管理とレシピ提案だけにとどまらず、上流の店舗やEC、下流の調味料やレシピ、スマート調理器具との連携も進めたい」(河内氏)とビジネスエコシステムの構築を目指す熱い思いを述べた。
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