育成と共創の現状--イノベーション人材に必要な研究者的思考と技術とは - (page 2)

フレームワークや型に収めるのではなく、そこからいかに脱出できるか

――今回のイベントはイノベーション人材というテーマで開催されているが、イノベーション人材の定義はビジネスサイドのイノベーションもあれば、多田さんのような先端研究を行い、まだ世にないようなものや仕組みを作り出す方もいて、さまざまなくくりがある。それぞれの育成において異なる役割を持っているが、その違いは。

児玉氏 「日本のビジネスは長い期間、過去の成功事例をいかにきちんとトレースし、しっかり改善するかが、成功の鍵という時期を過ごしてきた。しかし、Googleやマイクロソフト、Facebookみたいな成功事例を見て、過去の成功事例からだけでは新たな利益を産むことが難しいと感じて、危機感をもった人がG’s ACADEMYへ来ているように感じる。

オープンイノベーションの支援
オープンイノベーションの支援

――プログラミングを学び、何かビジネスをやってみたい人たちに対して、どういった役割を担っているのか。

児玉氏 プログラミングを学ぶ方はイノベーションを起こしたい、と思っている人が多い。ただ、イノベーションをフレームワークや1つの型のように捉えるのではなく、そこからいかに柔軟な思考で脱出できるかを支援している。

 特にビジネスを柔軟に考えるためには、商売の基本に戻ることが必要。「ものを作って、作ったものを売る」という基本だ。例えば松下幸之助氏は自分で電球を作ったし、本田宗一郎氏は自分でエンジンを作った。プログラミングでビジネスをする、モノづくりをするというのはこれと同じ。商売の全体像を身体で理解できるので、発想も柔軟になる。

 しかし、どちらか片方しかできなくても、会社員としてはある程度成功できてしまう。その辺に、漠然と違和感を覚えた方が、自らG’s ACADEMYへ来て、人生をかけてやりたいことを言語化し、自分で「つくる/うる」を両方やってみる。そうすることで柔軟な思考や新たな視点や視座を手に入れられると感じている。

――イノベーションにおけるアカデミックや研究者の立ち位置、またそういった人たちはどういった人材なのか。

多田氏 アカデミアの研究者は、思考は深いが考えが狭くて柔軟性がないと一般に思われがちだが、そんなことは全くない。逆に、柔軟性がなければ尖った研究はできない。特に数理科学の研究者は論理的思考に優れ、先入観を持たないという意味では、いろんな分野で活躍できる。ただ、アカデミアの研究者は社会における、面白くて挑戦的な問題に触れる機会が少なかったのも事実なので、そういう機会をもっと増やす必要がある。

――先端研究とビジネスサイドのニーズが接近したことによって、研究者の方もコラボレーションがしやすくなってきているのか。

多田氏 ビジネスサイドのニーズが高まっていることは事実だが、アカデミアの研究者がそれに触れる機会が少ないこと、企業側はアカデミアのどの研究者にコンタクトすれば良いかわからないこと、の両方の問題があり、日本では真の意味でのコラボレーションが難しかった。iTHEMSではアカデミア側からこの橋渡しを積極的に行いたいと考えている。

学術的研究の推進
学術的研究の推進

――大企業とコラボレーションしているが、大企業とスタートアップの相性と問題も色々あると聞くが。

児玉氏 スタートアップと大企業の相性問題がなぜ起こるのかと言うと、スタートアップは作って売るということの両方をやっている。しかし大企業側は創る人と売る人が別。特に創る人への文化的な理解がないと、齟齬が起こりやすい。

 本来イノベーションは非連続的なもののため、過去の経験を活かすよりも、新しい知識や思考技術との出会いを求めていく姿勢が重要だが、その点がまだしっかり準備できていないケースが多く見られるす。G’s ACADEMYで新規事業や起業した人たちは自分でモノづくりをするので、「ものを創る人・研究する人たちを実体験からリスペクトできている」という点は共通している。頭の使い方の違いに最初は驚く、自分もやればできるという気づきもある。

――気づきというのは、違いの中から生まれてくるのか。

児玉氏 多田先生もおっしゃったように、あるものに対して好きな人が集まっていることにすごく納得がいく。起業家も同じで、好きなこと以外ではほぼ成功しない。我々は投資もしているが、ベンチャーを審査する際に重視しているのは、どれくらい好きかということ。結局そういう頭の使い方になる。

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