朝日インタラクティブは2月18~19日の両日、年次イベント「CNET Japan Live 2020」を開催した。今回のテーマは、「企業成長に欠かせないイノベーションの起こし方」。
2月19日、資生堂 R&I戦略部 R&I戦略G マネージャーの中西裕子氏はCNET Japan Live 2020おいて、「オープンイノベーションプログラムfibonaの概要とその活動」と題し講演した。
「fibona」は、資生堂R&I戦略部が中心となり、社外との接点から新たなイノベーションを起こすプログラム。その拠点は新たに建設された資生堂グローバルイノベーションセンター「S/PARK」だ。資生堂はどのようなコンセプトで、オープンイノベーションプログラムに取り組んでいるのか。
中西氏は資生堂に入社後、スキンケアプロダクトの処方開発に関する研究に携わったのち、「人の触感とスキンケア物性値の関係」の研究を担当した。その頃、「研究のテーマを決めることが、技術発だけではいけないのでは」と社内で声が挙がっていたという。
「お客様が使うものを開発しているので、人や社会全体を見て研究テーマや研究領域を定めてはどうかという指示があった。そのプロジェクトのリーダーをすることになり、キャリアの大きな転機となった」と中西氏は振り返る。
中西氏は、年間100名以上のお客様にインタビューや訪問を繰り返して、新たな商品やサービス、研究のアイデアを考え、そのアイデアを実現するための研究を企画することを3年ほど行った。その後、研究戦略を行うようになり、3~5年後のトレンドの予想から、その頃の人のインサイトに合わせた化粧品や美容に関するコンセプトを作成。それに合わせて社内の技術をどう利用するか、またオープンイノベーションの文脈で社外技術の取り入れについても担当している。
「資生堂は”美”という価値観とは切っては切れない関係性にあり、その点を重視している。美的価値観がなくても生きていけるが、それは豊かではない。私は(美的価値観に)正解があるわけではないところが気に入っており、オープンイノベーションのしがいがあると捉えている。また、美の文脈で”should"や"must"が消えてもっと個人が自由に生きられる社会を作りたいと考えている」(中西氏)。
資生堂は「BEAUTY INNOVATIONS FOR A BETTER WORLD(ビューティーイノベーションでより良い世界を)」というミッションを掲げている会社だ。「ミッションではビューティーはこれだと定義していない。あらゆる文脈でビューティーイノベーションは考えられるので、そういうものであふれる世界を作っていきたいと考えている」と中西氏は説明する。
資生堂は創業から約150年。現在は日本よりも海外の売り上げが高く、売上高、営業利益、純利益ともに過去最高を記録するような状況だ。中西氏が所属する研究所は100年以上前に開設された。2019年、横浜・みなとみらい地区に資生堂グローバルイノベーションセンター「S/PARK」をオープンした。S/PARKは、"Place to Encounter Inspirations of Beauty(美のインスピレーションに出会う場所)"をコンセプトにしている。
S/PARK設立の理由について中西氏は、「資生堂は化粧品の"技術開発"に力を入れている会社だ。IFSCC(国際化粧品技術者会連盟)で獲得しているアワードの数が断トツに高い。ただ、今はお客様のダイバーシティが広がっている。そして、永遠の美とは何か、きれいになるためには世界を汚していいのかといった社会的な価値観の変化もある。また、デジタルのテクノロジーとどうコラボレーションしていくか。これらの課題認識があり、問題解決を加速するために以前の研究所が手狭になった」と述べた。
S/PARKはこれまでの研究所とは異なり、「多様な知と人の融合」をコンセプトにしている。お客様、流通、異業種、サプライヤー、外部研究機関とのコラボレーションをもっと盛んにしていく。
「1、2階では実験的な取り組みをしている」と中西氏は語る。S/PARK Cafeは資生堂パーラーの監修としてカフェを開いている。野菜中心をコンセプトにしており、上階の研究所で得られた知見を織り込んだスイーツが食べられる。S/PARK Beauty Barは、研究員とお客様が触れ合う場所として、研究員がお客様のための処方箋を考えて「マイコスメ」を提供している。S/PARK Museumは化粧品に用いられている技術がわかりやすく展示されている。
S/PARK Studioは、「アクティブビューティー」をコンセプトにしているスタジオだ。「弊社のランニングチームのOGがランニングのプログラムを提供している。また、ランニングの振る舞いや立ち姿勢を研究している研究員もいるので、そのプログラムを提供している。ランニングステーションもある」と中西氏は説明した。
3、4階には社内外とコラボレーションできるスペースを備えている。「ラボ、オフィス環境、ホールの設備がある。ここへの引っ越しは多様な知と人の融合という面でターニングポイントとなった」(中西氏)。
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