松橋氏は「おっしゃる通り難しくまさにトライ中だが、我々は複数の機能を1つのチームで担い、最終的にいずれかで成果が出ればよしとしている。具体的には、事業の立ち上げ、社内カルチャーの変容、社外情報を社内に持ち込み共感者や次の挑戦者を増やすこと。1つの指標で評価しないようにしている」と、多様性をもって対応しているとのこと。
浅野氏は「チャレンジしたことで得た知見や経験、まして失敗からの学びを、どうやって会社のものにするか、そこまでを仕事にしないといけないだろうと思う。例えばクラウドファンディングは弊社初の経験だったが、社内のさまざまな部署から質問があった。『新規事業推進部は、会社にとって有意義な部署だ』と思ってもらえるよう、自らの積極的な発信も大切なのでは」と発信力を重視しているという。
一方、北川氏は「細かくフェーズを切って、失敗と成功の定義をはっきりさせ、事業の現況や打ち手の理由を、ちゃんと説明できる状態にして可視化し、経営会議という公式な場で、認識をそろえることがすごく大事だと思う。そうでなければ、能力不足だった、努力不足だった、と個人に対しての邪推が生まれてしまう」と内々にせず公式な場を持つことで、正当な評価を得られるようにしている。
「チャレンジングな尖った人が、煙たがられたり、排除されたりすることも、取材の中ではたくさん見聞きして来た。どうしたらよいのか?」との問いについては、「うちでも結構あるけれど、ある程度守ってあげる人を1人は作るようにしている。私自身も自称アクセラレーターとして、何かやりたいけれど予算がないという人のメンタリングや、一緒に事業をやっていくような伴走をして、できるだけそういう人と議論をするようにしている」(松橋氏)と、人に寄り添える体制を確保しているとのこと。
北川氏は「既存事業に影響があれば軋轢が出て当然だが、『会社の未来の礎を作りたい』という背景が、認知されていないことが多い。失敗しても『ナイストライだったね』を言われるよう、認識を合わせていくことが重要。我々は、Office365の社内SNSのような機能を活用し、草の根での地道な啓蒙活動を行っている」とし、「ナイストライ」といえる環境づくりをシステムも含め推進している。
浅野氏も「弊社でもFacebookが提供している『Workplace』を導入して、日頃の活動報告も含め、メンバーの役割や成果を見せていくよう気をつけている。新規事業には、本業の将来的な危機に備えて、本質的に変わるマインドを作る役割もある。企業として一番大事な部分を全員に理解してもらえれば、尖ったことも見方が変わってくるのでは」と環境作りをして、新規事業にチャレンジする人々をサポート。活動報告など、目に見える形で共有しているという。
最後に「事業評価と人材評価で最も必要なこと」について聞くと、松橋氏は「我々の独特な方法の1つに、フォーマットを決めない、同じことを繰り返さない、というのがある。形を決めないことが、我々の1つのスタイルだが、少しずつ変えていければ、社内は徐々に変わっていく。2〜3年かけて実現しつつ、そのなかで大きなものが生まれる、というアプローチしかないのかなと思う」とコメント。
「失敗成功に関わらず、『ナイストライ』と言われにいく努力はすごく大事。何の領域に挑戦し、どのような成果や財産を会社に残しているのか、事実を社内に啓蒙しながら、なおかつ誰かに貢献することが必要。新規事業をやる側もこうした意識を持つべき」(北川氏)とした。
浅野氏は「新規事業に取り組む意義を、評価する側もされる側も、正しく理解して行動することが必要。アントレプレナーではなく、あえてイントレプレナーである意味を、定義していく努力がとても大切なのでは」とイントレプレナーの重要性について説いた。
モデレーターの別井氏は、パネリストの総括コメントを受け、「新規事業は、胆力や熱意が必要だと説かれるケースが多いが、評価についてはまだ定まっていない」と指摘。事業評価や人材評価を確立することもまた、新規事業といえるのではないかと問題提起した上で、「カルチャーやマインドといったキーワードが、今日は多く聞かれた。新しいことをやるのは素晴らしいことだ、ということを企業文化にするべきだし、これは日本の文化にもするべきだと私は思っている」白熱した議論をこう締めくくった。
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