まず、別井が「新規事業にGOが出たらまず事業計画を立てるが、その際の計画や目標の作り方について」聞くと、松橋氏は「予算取得の関係もあるので、約3年での投資回収を目安に事業計画を立てる。しかし、ケースバイケースだ。例えば、即払い給与サービスのターゲットは、日本中の報酬の受取り方を変えるという『行動変容』。売上貢献は小さいが、利用企業が増えてATM事業拡大に寄与する可能性に、経営には賭けてもらった」と具体例を挙げて答えた。
一方、北川氏は「2019年度、新規事業を判断するフレームワークを作り直した。既存事業と比較されてしまうと、特に規模の比較で、本来のKPIではない売上にコミットしなければならなくなってしまうたためだ。今は、シードからアーリーまでのステップをかなり細かく切って事業を進めている。通常の百貨店事業の物差しと、新規事業の育ち方は全く異なる」と既存事業と切り分けている考えを示した。
浅野氏も本業と新規事業との立ち位置について「約5年スパンで計画は立てるが、最初から分かっていたら本業でやればよい。なぜ、あえて本業と同じメーカーとして新規事業をやるのか。プロジェクトの意義を整理することが大事だ。意義は、財務効果上は表れないが、例えば、新しいハードのネットワーク構築、従来とは異なる生産方式のテクノロジーを使ったものづくりの経験などは、将来的にLIXILに取り込むことで大きな財務効果を生む可能性がある」とコメントした。
次に「数字に表れない価値を、認めてもらうようにするポイントは?」と問うと、松橋氏は「PoCで停止した新規事業の例になるが、テレビ放送などの広告換算量で一定の成果があった際、チャレンジし続ける会社で働きたいという人が増える副次効果があった。『外部が認めると内部も認める』ということを続けるのは効果的」と副次的効果について説明。
北川氏は「PoCの期間を小さく切り、事実を積み重ねること。新規事業に対する判断は、個人として馴染みがあるかないかに左右されがち。事実以上に強い判断要素はない」とし、事実をベースにした判断をしているとした。また、浅野氏は、「Makuakeさんのクラウドファウンディングを利用して新規事業を立ち上げた際は、技術への高評価が広まることで、逆にオファーが増えたという実績もある」とクラウドファンディングの活用が、外部に向けての発信材料になったとコメントした。
さらに事業評価について、どこでするのか、また、事業継続を断念するという判断は、誰が、どの組織が、どうやってしているのか?については、「新規事業は、ピボットすれば生き残れてしまう。最初の段階で抜け道を探すことはしないで、最初にプロジェクトマネージャーに、この結果が出なかったら止めると宣言してもらっている。実際に止めたプロジェクトもある」(浅野氏)とした。
北川氏は「シードの段階では、小さなPoCを短期間で行い、2〜3回無理が生じたら事業部内で止める。事業をもう少し育てていこうというアーリーの段階では、経営会議にかけて、事業継続性を判断している」とシード期とアーリー期で判断が異なる現状について明かした。
松橋氏は「社内で手を挙げた人のユニットが検討途中で止める場合は、我々のチームが社内で報告する。座組みによるためセオリーはないが、起案者が“だめかな”と思うタイミングで、寄り添いながら再生プランと畳むプランを一緒に考え、基本的には起案者が判断する」起案者と寄り添い進めていく形をとっているとした。
続けて「起案者だけが、『まだ失敗していない』と思い続けた場合は?」と尋ねると、「もうちょっとやってもらうが、外部の人の声をインプットし、再考してもらう」(松橋氏)とのこと。北川氏も「外部の声は大事。内部から言うと角も立つ。我々も、事業判断のフレームワークを作り直した際、外部の専門家や有識者の力を借りた。客観的な意見や指摘があったからできた」とし、外部の声を取り入れることがポイントのようだ。
このほか、「自分でVCから資金調達してみると、きついけど分かりやすい」、「大企業に入ると意外に少ないが、ボコボコにされる経験は大事」など、自らが外部と接触することで、成長につなげるといった意見も目立った。議題は次のテーマ「人材の評価」へと移った。
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