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女優のいとうまい子さんが「ロボット開発者」に転身したワケ--超高齢社会に技術で挑む

藤井涼 (編集部) 安蔵靖志2020年02月20日 09時00分
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 女優やタレントなどマルチに活躍する、元アイドル歌手のいとうまい子さんが、ロボット開発者に転身していることをご存知だろうか。2019年1月には、AIによって超高齢社会などの課題解決に挑むエクサウィザーズのフェローにも就任している。

いとうまい子さん
ロボット開発者のいとうまい子さん

 人生100年時代において健康寿命を延ばすためには予防医学が重要なことから、「ロコモティブシンドローム(運動器症候群)」と呼ばれる運動機能不全を防ぐロボットのプロトタイプを開発し、国際ロボット展に出展するなど、精力的に活動しているといういとうさん。

 そんな彼女に、予防医学に着目したきっかけや、ロボット開発に携わることになった経緯、自身の考えるテクノロジーが社会に果たす役割などを聞いた。

予防医学への興味からロボット開発へ

——いとうさんは女優としてだけでなく、テレビ制作会社の社長としても活躍されていますが、なぜそこからロボット開発者に転身されたのでしょうか。

 最初のきっかけは、文部科学省主催のとあるお仕事でした。「病気になったら医者に行けば良い」という日本の素晴らしい保険制度に甘えていたら、国の財政は圧迫するし、人生100年時代を健康な身体で楽しく生きるのは難しい時代がやってきていることは明白です。まずは自分自身で身を守ることを目標にすることが重要だと思っていましたので、予防医学を学べる良い方法はないかなと考えていました。

 それと並行して、芸能活動が25年を過ぎたころから、自分の恵まれた環境は周りのすべての人のお陰で成り立っていることを意識するようになりまして、お世話になった方々への恩返しがしたい!と、考えるようになったのです。でも私は18歳で芸能界に入ったため恩返しできる知識も教養もなかったので、大学で学んで恩返しできる土台作りがしたい、という気持ちも重なり大学に入りました。

 大学(早稲田大学の人間科学部)では予防医学関連の単位を取っていて、最初はロボットに関する単位などは全然ありませんでした。でも3年生でゼミを取る時に予防医学の先生が退官されることになり、履修もできないしゼミも選べないことになってしまったのです。そこで同級生に相談したら、ロボット工学の先生はすごく人気があっていいですよと教えてもらいました。

 それまでロボットには全然関わっていなかったのですが、これからはロボットの時代が来ると思っていましたし、予防医学とロボットを融合させたらいいのではないかと思って、先生のところへゼミ所属のお願いに行きました。

 その先生は私が入学する時の面接官で、「あなたは予防医学をやりたいと言っていたのにどうしてロボットをやりたいのですか?」と聞かれたのですが、そこで伝えたのは「予防医療はロボットを使うことでさらに発展できるはずだ」と。とは言え、実はプログラミングの講義は履修していたものの、ロボットに対する知識はほとんどなかったのです。

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 大学に入ってから2年間勉強してきたとしても、そんなに大したことはできません。でも私にはロボットやプログラムに詳しい友人が何人もいるので、いざとなればみんなの力を借りていいものができると思いますと説得し、ロボット工学のゼミに所属させいただきました。

——そういう経緯だったのですね。では、実際にどういったテーマを研究されたのでしょう。

 ゼミに入った時、四国の整形外科の先生が入ってこられたのですが、その先生が「ロコモティブシンドローム」(日本整形外科学会が2007年に提唱した概念で、「運動器の障害」により「要介護になる」リスクの高い状態になることを表す)をロボットで解決したいという話をされていたのです。当初、私は人と同じことを研究したくないと思っていたので、別のことを考えていたのですが、調べてみたところ、これからの日本にとって重要な社会問題だというのが分かり、私もロボットでロコモティブシンドロームを解決しようと決めました。

 そして、その先生とは別の、ロコモティブシンドロームを予防するロボットを開発していきました。ところが私が卒業するまでに、自分自身が納得するまでの形にたどり着くことはできず、自分に納得出来ない状況だったのですが、そんな中、ある人との出会いもあり、大学院まで行ってもっと突き詰めていこうと思ったのです。

——大学院への進学を決めるきっかけとなった「ある人」とは?

 国際ロボット展で早稲田大学のブースを出し、私が開発したロボットを展示しました。その時にたまたま神戸の旭光電機という会社の方が通りかかって、「すごくいいことをやっているから、もしこの先も続けるなら協力させてほしい」と言われたのです。

 でも当時大学4年生で、大学院まで行くことは全く考えていませんでしたし、大学院のことも全く知りませんでした。そこで大学院にはどうやったら行けるのか先生に相談したところ、推薦で行けることが分かったので進学し、それから旭光電機さんと一緒にロコモティブシンドロームを予防するというコンセプトで「ロコピョン」というロボットを初めて作ったのです。

 また、修士課程の2年目にロコピョンを国際ロボット展で展示して、来場される方に説明していたら、エクサウィザーズの春田さん(取締役会長の春田真氏)がたまたま通りかかったようで、その時のことを覚えていらっしゃって、エクサで一緒に開発をしませんか?声をかけていただき、ここ(フェロー就任)まで繋がりました。

高齢者のスクワットをサポートして筋力低下を防ぐ

——いとうさんが開発しているロコピョンでは、どのようなことができますか。

 これは高齢者のスクワット運動をアシストするロボットです。なぜスクワットなのかというと、高齢者はどんどん筋力が衰えていって、数年後には寝たきりや要介護に陥ることが多いのです。筋力が弱ると歩くことが不自由になってしまうため、整形外科の先生は自宅でスクワットをやってくださいと指導するのですが、それでも1カ月後に検診すると全然やっていなくて、どんどん筋力が落ちてしまうということがあるそうです。

 そこで日本整形外科学会は、医学療法士などが高齢者に電話して一緒にスクワットする「ロコモコール」というものを提唱しました。実際にスクワットをしているのとしていないのでは明らかに筋肉量が違うというデータも出ているのですが、1人の人が1人の高齢者に電話するというのは無理があります。それをロボットが代替すればいいのではないかというのが最初の経緯です。ロボットにいろいろな機能を持たせるという考え方もありますが、これはスクワットだけに特化しています。

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 しかも、本人の意志と関係なく、決めた時間に強制的にやらせるという形にして、実際に高齢者の方に2カ月間貸し出してテストしていただいたところ、筋力を維持もしくは強化できるという結果が出ました。

——どのような仕組みでスクワットをさせているのでしょうか。

 決めた時刻になると「スクワットの時間ですよ、来てください」と呼び出すのです。来ないとずっと呼び出すので、うるさくてしょうがないから行きますよね?(笑)。そうするとセンサーが検知して「じゃあスクワットやりましょう、何回やりますか?」と聞きます。やってもらうことが大事なので、今日は元気だから10回とか、面倒くさいから3回など、本人の希望回数をロボットに言うと、その回数だけロボットも一緒にスクワットをするというものです。

——それは面白いアプローチですね。最初のロコピョンは旭光電機と共同開発し、現在はエクサウィザーズと共同で次世代ロコピョンを開発しているそうですね。

 そうです。初代ロコピョンは、センサーで人を検知したら一緒にスクワットをやるという簡単なロボットでしたが、エクサウィザーズはAIに強い開発者集団なので、AIを取り入れた形で開発を進めているところです。

 「スクワットをする」ことはもちろんですが、重要なのは「正しいスクワットをする」ことです。間違ったスクワットをすることでひざを痛めてしまい、寝たきりになってしまうとしたら本末転倒ですよね。そこでカメラで人の動きを読み取って正しい動きかどうかを分析し、間違っていれば「このように動いてください」などと伝えて、正しいスクワットをやっていただくというのを取り入れようとしています。エクサウィザーズの技術があって初めて成り立ちそうだなと思っています。

——現在、開発はどのような状況ですか?

 (2019年12月の)国際ロボット展では外付けカメラと大きなモニターを使って展示しましたが、ロボット単体でもちゃんとできるように開発を進めている状況です。

国際ロボット展で説明するいとうさん
国際ロボット展で説明するいとうさん

——以前から国際ロボット展で展示されているとのことですが、来場者からの反応はいかがでしたか?

 「今すぐ発売してほしいです」とか「田舎の親に贈りたいです」といった言葉をたくさんいただきました。「前も(国際ロボット展で)見ましたよ」とか、「まだ研究続けていたのですね、早く発売してください」など、たくさん声をかけていただいています。とても嬉しく、本当にありがたいです。多くの方に恩返しをしたいと思っているのに、逆に、いつも励まされて応援して頂いてばかりで、なかなか恩返しにたどり着けなくて、感謝するばかりです。

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