アルヒが住宅ローンによる不正利用の撲滅に乗り出した。活用するのは、7万件に及ぶ住宅ローン審査データとAI。不正に利用される疑いのある申込みを数秒で検知するシステム「ARUHI ホークアイ1.0」を12月25日から本格稼働する。
「フラット35」などの住宅ローンは居住用のみに適用され、投資用物件に使用することはできない。しかし金利が安いため、居住用とみせかけて申し込む不正利用が存在していた。アルヒではフラット35の不正使用の疑いについて、報道のあった5月の段階で不正使用がないことについて明言。同時に、AIを活用したリスク管理システムの運用開始を明らかにしており、それがARUHI ホークアイ1.0にあたる。
「元々社内でAIをどう活用するかという議論をしており、いくつかある活用例の中の一つとして『ホークアイ1.0』のコンセプトがあった。その後フラット35不正疑惑の問題が持ち上がり、優先順位をあげて取り組むことになった」とアルヒ 執行役員 CTO 企画本部長の宮脇訓晴氏はきっかけを話す。
従来、不正使用の見極めは社内の審査担当者が目視で行っていた。しかし件数が多く、チェック箇所も多岐に渡る。アルヒではホークアイ1.0で一次チェックをすることで、疑いのある案件を判定してフラグをつけ、さらに審査担当者がその部分をチェックする二重構造を採用。1件あたり約2秒で判定ができ、人によるチェック対象案件を導入前と比較して3分の1まで絞り込める。
AIエンジンには、金融機関とのコラボ経験を持つHEROZの「HEROZ Kishin」を使用。過去の審査案件約7万件のデータを学習させ、開発したという。開発期間は約6カ月。「AIが不正と検知したものと、人間が不正と判断するケースを一致させるのが当初は難しかった。AIが判定したものを答え合わせ的に社内の審査担当者が確認する、というテストを何度も繰り返すことで精度を高めた」(アルヒ 企画本部シニアアソシエイトの大場麻未氏)と、試行錯誤を繰り返した。
不正使用は、職場への通勤時間が現住所からかかる時間の数倍になる、4人家族なのに1Kに引っ越すなど、通勤時間や居住面積などを元に割り出しており、その理由はさまざま。「特徴的な例はあげられるが、転勤が決まっているから遠くに引っ越した、単身赴任になったなど、パターンはいくつもあり一概には言えない。そのため人の手は必ず必要になる。ホークアイ1.0は審査担当者をサポートするもの。すべての案件をイチからすべてチェックするのではなく、見極めるべき場所のピックアップに貢献できると思っている」(宮脇氏)と、審査担当者とともに不正案件を抽出する環境づくりを目指す。
課題は、新たな不正手口の学習だ。「浜田(アルヒ 代表取締役会長兼社長CEO兼COOの浜田宏氏)も話している通り、不正の手口は常に新しくなるもの。学習させたデータベースは過去のものなので、さらに新しい手口を学習させていく必要がある。HEROZとともに、新しいデータベースづくりをし続けなければいけない」(宮脇氏)と、今後の展開を話す。
ホークアイ1.0は、2020年度からほかの金融機関への導入も見据える。それにより、不正検知能力が向上し、加速することに期待を寄せる。宮脇氏は「AIは、複雑なものを簡単にピックアップするといった作業に向いている。今後も同様の領域で社内の適応分野を議論し、取り入れていきたい」とAIを使った新たな展開も検討している。
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