CNET Japanで2019年も「Appleニュース一気読み」を毎週連載し、新製品をレビューしてきた松村太郎がお届けするApple製品の選び方ガイドシリーズ。
2019年も残すところ少し。クリスマスに向けて、デジタル製品を手に入れようとされている方も多いのではないだろうか。そこでお届けするのが、今回の「Appleホリデーガイド2019」。製品カテゴリごとの選び方をお届けする。
iPhone編、第2回のMac編、第3回目のiPad編、4回目のApple Watchに続く第5回目はオーディオだ。
特に日本では2019年、Appleブランドのオーディオ製品が数多くリリースされた年だった。AirPodsの第二世代、そして10月末に突如登場したAirPods Pro、そして日本未導入だったホームスピーカーのHomePodと、3つの新製品が登場した。
AirPodsは日本のみならず、世界中で人気だ。日本ではiPhoneに次いで最も販売台数が多いApple製品となっているし、米国ではサイバーマンデーを通じて300万台を販売したとのデータもある。Appleのオーディオ製品としては、iPodと同等か、短期間で見ればすでにそれ以上の「現象」となっているのが、2016年に発表された完全ワイヤレスヘッドホンなのだ。
今回の結論は素早い。在庫がなく少し待たされたとしても、AirPods Proを手に入れるべきだ。
AirPods自体は非常に気に入っていて、初代のバッテリーがへたってきたタイミングでAirPods第二世代が登場して買い換えてしまったが、AirPods Proを体験すると、AirPodsだけでなく、周囲にあるノイズキャンセリングヘッドホンを吹き飛ばすような体験だった。
きっちりとしたノイズキャンセル機能と、他の同様の製品にはない、5g台という極めて軽い装着感。そして痛くならないシリコンのイヤーチップによるしっかりとしたフィット。中低音域も先代から比べてから満足できるレベルで厚くなっている。2019年末の段階で、AirPodsを選ぶ理由は、個人的には見いだせなくなった。
AirPodsが2016年に登場したとき、ワイヤレスチップW1が搭載され、バッテリー効率の最大化、ペアリング作業の簡略化といったBluetoothヘッドホンにまつわる問題解決を行い、ケースで充電するアイディアによってバッテリー持続時間まで改善した。
その後、WチップはApple Watchに搭載されながら発展し、2019年モデルのApple Watch Series 5には第3世代目となるW3チップが搭載されている。しかしAirPods第二世代以降は、ヘッドホンチップH1を搭載し、AirPods ProやBeats製品にも引き継がれている。
AirPodsの刷新の時にH1チップに変わっても、その機能などの変化を見出すことはできなかった。しかし同じH1チップを搭載するAirPods ProとBeats Solo Proが2つのマイクを用いて瞬時に処理するノイズキャンセリング機能や、耳の中の音の反響を検出して音質を調整するアダプティブエコライザを実現した。
H1チップのポテンシャルの高さが、ここに来て発揮された格好だ。
H1チップ搭載は、とにかく遅延の少ないオーディオ処理が、ノイズキャンセリングにしても、外部音取り込みモードにしても重要なのだ。マイクで拾った音を処理して打ち消す音を再生するか、マイクで拾った音をそのまま再生するかの違いでしかなく、どちらも遅れるとノイズキャンセルの性能が落ちたり、視覚と聴覚のズレを認識したりすることになる。
ちなみに、H1チップ搭載のヘッドホンには、耳の中に向いたマイクも用意されており、耳の中の残ノイズまで拾って打ち消すノイズキャンセリング機能、あるいは前述のアダプティブエコライザ機能に活用される。これらも、マイクから入った音を素早く処理するという、H1チップに求められる低遅延処理という点で共通している。
AirPods Proは正直ここ最近で最も驚いたガジェットだった。個人的第2位はApple Watch Series 5で、現在Appleはウェアラブル部門を思い切り攻めているという印象を強く持っている。
しかしその他の製品でも、Appleのオーディオ技術は光る。iPhone 11シリーズに搭載された空間オーディオだ。AirPods Proの前に、iPhoneのオーディオに、実は驚かされた。
iPhoneには2つのスピーカーが備わっているが、横長に構えると、自分の前に小さなサラウンド空間ができあがり、映像作品を見ていると上手い距離感を見つければ、後ろを音が横切るような、そんなバーチャルサラウンド体験を楽しめる。
Appleに聞くと、これは「サイコアコースティック」という技術を活用しており、単純に左右のチャンネルを左右のスピーカーから再生するのではなく、音の成分を分析して、左右の振り分けやタイミングを可変させながら、あたかもたくさんのスピーカーに囲まれているように、人の耳をだますのだという。
同じような体験を、MacBook Pro 16インチモデルでもした。そもそも、向かい合わせに搭載して振動を打ち消し合う特許技術で実装された2つのウーハーによって、低音がしっかりとした品のいいサウンドが、ノートPCから奏でられていたのである。
iPhoneの時に同様の説明を受けていたため、MacBookの説明時にも「同じアイデアか?」と質問したところ、Appleの担当者は「そうだ」と答えた。すでに、空間オーディオの実装はAppleのスタンダードとなっており、今後も各種製品に搭載されていくことになるはずだ。
Appleのオーディオ製品として日本でも2019年に発売されたHomePodは、Siriに対応するスピーカーだ。あくまでホームオーディオ製品として位置づけており、あえて「スマートスピーカー」としてAmazon EchoやGoogle Nest Homeとの競合を避けている。
HomePodは、7つのツイーターと1つのウーハーを備え、1台でもステレオ再生を実現する。さらに6つのマイクを用いてその空間に最適なサラウンドに自動調整する。A8チップが内蔵されており、加速度センサーが本体の動きを検出するごとに、キャリブレーションが行われるという。
この説明を聞いたときにも、必ずしも右チャンネルの音が右側に出力されるわけではない、と話していた。主題となる音と背景の音を分離し、できるだけ部屋の多くの部分が最適なリスニングポジションになるよう音場を設計する。
HomePodを2台ペアリングした場合でも、同様だ。1台の時より音の拡がりをもたらすことができるが、ここでも、右チャンネルは右のHomePodとは限らないという。
そしてAirPlayで複数の部屋に同じ音楽を流す場面でも、遅延なく音が再生される仕組みだ。例えばMacBook Proのミュージックアプリから、リビングルームのApple TV、ダイニングテーブルのHomePod、書斎のSonos Oneに同じ音楽を流せるる。AirPlay 2対応スピーカーなら、Appleのデバイスでなくても、仲間に加えられる。
2019年、Appleの音を操る技術を存分に見せつけられた1年だった。しかしこの技術は、Appleが推している拡張現実、AR体験にとっても重要だ。
現在ディスプレイの中の拡張現実が中心となっているが、AirPods Proのようなデバイスが普及すればするほど、「音のAR」の世界が拡がっていく可能性があるからだ。
例えば、AirPods Proを装着している人を駅の中でナビゲートする際、単に「次の通路を右です」と言うだけでなく、正しい方向に向かうとビープ音が近くなる、間違っていると遠くなる、といった設計をすることで、画面なしで寄り直感的かつ確実なナビゲーションを実現できる。
2020年も、Appleのオーディオ技術から目が離せないが、その体験のためにも、AirPods Proは2019年のうちにぜひ試してみて欲しい製品だ。
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