次の大きなトレンドである人工知能(AI)を活用した新規事業に各社が取り組む中で、AIに必要となるデータを巡り風向きが変わりつつあります。透明性(transparency)の視点です。
2016年の米国大統領選挙においてフェイクニュースを拡散させたとしてFacebookが強い批判を浴びました。Facebookは大量のユーザーデータを活用したターゲット広告で大きな収益を上げていますが、根拠が必ずしも定かでない政治広告が有権者に向けて発信されたと報じられています。2020年の次の大統領選が近づく中で、Facebookと同様に広く用いられているSNSのTwitterはCEOのジャック・ドーシー氏が政治広告をすべて禁止すると発表しました。
We’ve made the decision to stop all political advertising on Twitter globally. We believe political message reach should be earned, not bought. Why? A few reasons…
— jack (@jack) October 30, 2019
ここで直接的に問題となっているのは、拡散される情報の確からしさであるものの、透明性を求める声は広告技術、検索技術などにおいていかにデータが処理されているかというアルゴリズムに広がりつつあります。「AI」の一言で自分のデータがどのように用いられるのか、どのようにして自分に向けて情報が発信されたのかがブラックボックスになってしまうことへの不安です。
AIに透明性が求められていくとすれば、実は、各企業の特許戦略に計り知れない影響を与えます。一般にソフトウェアのアルゴリズムの詳細は、他社がその技術を用いていても発見することが困難で、特許権の行使も困難であることから、特許出願には向いていないと言われます。したがって、いかに外部から立証可能な抽象度で特許権を取得できるかが問題となります(第18回)。
しかしながら、企業は自社が開発したAIのアルゴリズムについて開示することが透明性の一環として求められるとしたら、景色は一変します。ソフトウェアの特許化で常に論点となってきた他社による無断使用の発見可能性はもはや問題とならなくなるのです。
今回、投票行動に影響を与える政治広告が発端となっているように、AIがどのような目的に使用されるかによって求められる透明性は異なるでしょう。今後様々な議論が重ねられていくことと思いますが、21世紀の石油とも呼ばれるデータの活用を巡って競争が激化していく今後、特許戦略も改めて考え直す必要がありそうですね。
大谷 寛(おおたに かん)
弁理士
2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2006-2011年 谷・阿部特許事務所 。2011-2012年 アンダーソン・毛利・友常法律事務所。2012-2016年大野総合法律事務所。2017年 六本木通り特許事務所設立。
2016年12月 株式会社オークファン社外取締役就任。
2017年4月-2019年3月 日本弁理士会関東支部中小企業ベンチャー支援委員会ベンチャー部会長。
2019年4月 ベンチャー知財研究会主宰。
2014年以降、主要業界誌にて日本を代表する特許の専門家として選ばれる。
事業を左右する特許商標などの知財形成をスタートアップの限られたリソースの中で実現することに注力する。
Twitter @kan_otani
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