スタートアップのための特許講座

AI技術を「特許出願」する理由、しない理由

大谷 寛(弁理士)2016年08月02日 09時00分
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 IoTやブロックチェーンと並んで、次の大きなトレンドである人工知能(AI)。AIを活用した新規事業についての報道を見ない日がないと言っていいほど、注目を集めています。

 各社が先を競ってこの領域に進出している以上、激しい競争が待っていることは不可避です。各事業領域で生き残り、成功できるのは数社に留まるでしょうから、一歩先に取り組みを始めた企業が、いかにその優位性を保つのかは死活問題です。

 大企業の事例として、たとえばNECがAI技術を活用した未知のサイバー攻撃の自動検知に取り組んでいます。PC、サーバなどシステム全体の動作状態(プログラムの起動、ファイルへのアクセス、通信など)から定常状態を学習し、定常状態と現在のシステムの動きをリアルタイムに比較・分析することで、定常状態から外れた場合の検知を可能とする技術です。

 現在、多くのサイバー攻撃対策は、それぞれの手法に応じて対策を取っているのに対し、攻撃を受けたシステムの振る舞いに着目することで、まったく新しい未知の攻撃に対しても異常を検知できます。

 そしてNECは、このAIのアルゴリズムは「社外秘」として特許出願はしていないとのことです(「人工知能で『未知のサーバ攻撃』をあぶりだせ」、日経ビジネスONLINE、2016.7.11)。

アルゴリズム

 確かに「社外秘」としてアルゴリズムを機密管理して、自社技術の優位性を維持することはできます。と同時に、ここで大切になるのは、自社技術を機密管理したとして、他社が同様の技術を見出すまでにどの程度の時間があるのかという視点です。1年でしょうか。あるいは3年、5年でしょうか。

 現時点では他社にない先進的な技術を開発したとしても、1年で他社が類似技術を見出すことができそうであれば、「社外秘」としての管理ではなく、特許出願をした方がよいでしょう。特許出願をすると、その内容が出願日から1年半で公開されることとなります。しかし、特許出願しなくても、結局、他社が類似技術を使うようになるのであれば、積極的に公開して、出願から20年間の権利である特許権の取得を図るのが合理的です。

 猶予が2~3年の場合はどうでしょうか。ここは微妙なラインとなりますね。特許出願を選べば、少し早い1年半で公開されるので、短期的には「社外秘」とした方が優位性の持続期間は長くなります。たとえば3年間「社外秘」を守り切れば3年後には優位性の軸足が次の新たな技術に移っているという開発ロードマップであるとすると、機密管理を徹底するというのも有効な選択肢です。

 他社が5年間は類似技術または代替技術を見出すことができないと見込めるのであれば、「社外秘」としての管理が有効となる可能性はさらに高まります。

 一般にソフトウェアのアルゴリズムの詳細は、他社がその技術を用いていても発見することが困難で、特許権の行使も困難であることから、特許出願には向いていないと言われます。しかし、それも抽象度の問題で、今のようにAIがさまざまな事業領域に影響を与え始めている変革期においては、抽象度の高い、広い範囲でアルゴリズムについて特許権を取得できるケースが少なくないでしょう。

 AIを活用する他社がそのことを強みとするのであれば、外部に対してどのようなAIを活用することで強みを築いているのかを説明をすることは避けられないため、実は、他社が用いている技術の概要を知ることはできます。

 「アルゴリズムだから特許出願しない」という単純な整理ではなく、機密管理するとしたら優位性をどれだけ保つことができるのか、特許出願するとしたらどの程度広い範囲で権利取得の見込みがあるか。そういった観点から、自社のAI技術の価値を最大化するための知財戦略を検討してみてはいかがでしょうか。

 ご質問がありましたらTwitterで。

大谷 寛(おおたに かん)

大野総合法律事務所

弁理士

2003年 慶應義塾大学理工学部卒業。2005年 ハーバード大学大学院博士課程中退(応用物理学修士)。2014年 2015年 主要業界誌二誌 Managing IP 及び Intellectual Asset Management により、特許分野で各国を代表する専門家の一人に選ばれる。

専門は、電子デバイス・通信・ソフトウェア分野を中心とした特許紛争・国内外特許出願と、スタートアップ・ベンチャー企業のIP戦略実行支援。

Twitter @kan_otani

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