寿司テレポーテーションは、東京にある高級寿司店店長が寿司を握るとデータ化されて、インターネットを介して離れた場所へ届き、出力されたものは高級寿司店と同様の美味しい寿司が食べられるというもの。
もちろん現在は空想の世界だが、精度は高くないものの、すでに既存の技術で形状や食感、味、色、栄養素をデータ化は可能で、それを「food base」と呼んでいる食のデーベースに保存。そのデータを、インターネットを介して転送し、ダウンロードして出力できる3Dプリンターができれば、料理は転送可能になるのでは、という発想だ。
榊氏は「もともとデザイナーで、CMYKの4原色を使ってデザインをしていた。そんなCMYKを別のものに置き換えられないかと考えたのが、味の4原色SSSB(Sweet Sour Salty Bitter)。この発想をもとに、フード用のインクジェットプリンターを購入。インクカートリッジに、醤油や砂糖水、お酢、お酒を入れ、大豆ベースの紙に寿司の写真のCMYK値を変えて出力。すると、プログラミングによって味が変わることがわかった。決して美味しくはなかったけれど、味は転送できることを発見した瞬間」と、このプロジェクトを思いついたきっかけを語った。
次に思いついたのが、紙を重ねると実際食べられるようになるのでは、ということ。これは3Dプリンターを活用すればと考えた。こうして、各分野に知見のある大学教授を巻き込んでいって、このプロジェクトは動き出したのである。
食をデータ化して転送するには、基準フォーマットが必要ということで、.CUBEを考案した。SXSW 2018でデモしたピクセル状を積み上げるのは難しいということで、3×3センチぐらいのキューブで食を作ることに。データとしては、食感や味、香り、温度、栄養素、積層数、積層順、積層比率、出力形状で、これらを組み合わせプログラミングすることで、いろんな食が再現可能ではないかと考えている。
データをゼロからつくるのは難しいので、フードキューブクリエイターが、foodbaseにデータをアップすると、みんながダウンロードしてプリンターで出力できる仕組みも用意。すでにプリンター構造に関しては特許申請中とのことだ。将来的には、料理をつくる側とダウンロードして食べる側をつなぐプラットフォーマーとして機能することを期待している。
現在計画しているのが「超未来体験型レストラン」だ。「食のシンギュラリティはここから始まったというような場所にしたい」と語る榊氏は、食がデータ化されてインターネットにつながったときどうなるか、大きく2つ予測している。1つは、食は「世界中の人々」とつながること。ここでつくったものが、離れた場所で食べられる、これまでと違ったコミュニティーが生まれる。
もう1つは、食は「個人の体内」とつながること。不足栄養素や腸内細菌のデータをとって食をパーソナライズしていく。そんな世界が体験できる「寿司シンギュラリティ東京」というレストラン型イベントを作ろうとしており、2020年頃のオープンを目指している。
OPEN MEALSがやっていることは、これまでの1社でR&Dするのとはまったく違い、まず、さまざまな制約を無視して、飛躍的な未来構想のアイデアを考える。そして、そのアイデアを、専門家に現状の技術でどのくらい実現可能か取材し、それをもとに未来構想をリアルにビジュアライズ化。それを、広く世の中に発信して、その構想に魅力があれば、実現に必要な技術と人が外から集まってくる。企業や産業を超えて共創R&Dが始まり、同時にマーケットも共創する。こうすれば、前例のない未来産業を作り出せるとした。
「認知が広がることで、産業の垣根を超えたさまざまな分野の人達が集まってきている。そのゆえに、このプロジェクトが勢いよく動き出しているポイント」と榊氏。食×データ化の未来として「食のデータ化により食産業をアップデートするような、新たなエコシステムが生まれつつあると感じている。我々はクリエイティブなので、デザインやビジュアライズの力を使って、より多くの人にこんな世界が来るかもというニーズや気づきを与えることが役割」と語った。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
パナソニックのV2H蓄電システムで創る
エコなのに快適な未来の住宅環境