ソニーのSA-Z1とともに、もう1つ注目するアクティブスピーカーがある。それがフィンランドに本社を持つGENELEC(ジェネレック)のアクティブスピーカーだ。
ジェネレックは、レコーディングスタジオなどで数多く使われているモニタースピーカーのトップブランド。日本でもキングレコードやビクターエンタテインメントのスタジオで使われており、最近ではテレビ局や映像プロダクションなどの現場にも数多く導入されている。
業務用の取り扱いがほとんどだったが、2017年にジェネレックジャパンを設立。日本国内でも民生用オーディオ向けにアクティブスピーカーが発売された。6月に開催された「OTOTEN AUDIO・VISUAL FESTIVAL 2019」でデモを実施したところ、会場が満席になる人気ぶり。コンパクトだが、朗々たる低音が鳴り響き、リーチが近い。モニタースピーカーがベースのため、癖っぽさがなく音楽のワクワク感がストレートに感じられた。
以前から面白いメーカーだと思っていたが、先日本社を伺う機会があり、音の秘密を聞いてみた。元々オーディオマニアだった、Ilpo Martikainen(イルポ・マルティカイネン)氏とTopi Partanen(トッピ・パルタネン)氏が学生時代に立ち上げた会社で、設立は1978年。ある日放送局からアクティブスピーカーの注文があり、作ったところ大変評判が良かったという。
アクティブスピーカーは、通常のスピーカーに比べ、プリアンプから小電力信号が届き、小電力のままウーファーとトゥイターに帯域を分けパワーアンプで駆動する仕組み。音のリニアリティに優れる。アンプとスピーカーユニットの間で最適にマッチングができる。音質の良さから、今ではアクティブではないモニタースピーカーを見つけるのが難しいくらいプロフェッショナルの現場に浸透している。
業務用として高い評価を得ているジェネレックのスピーカーだけに、一般向けでのクオリティも折り紙付き。スタジオモニターとして使われているということは、音楽の音がこれによって作られたスピーカーということ。音が作られる現場で使われている、まさにスピーカーが自宅で聴ける。アンプとスピーカーの組み合わせるという楽しみは減ってしまうが、それを突き抜けるほど音がいい。また場所をとらず、デスクトップで楽しめることも長所だ。
音質は滑らかで、放射特性に優れる。その理由の1つは、角を丸く仕上げたエンクロージャーの形状。音波の伝送がよく、部屋で聴く場所での違いが非常に少なく、音場的には目の前で音が広がる。
ジェネレックのスピーカーは音の拡散性がよく、スピーカー間のつながりも緊密なので、ホームシアター用スピーカーとしても使用が可能だ。広がり感に加え、音の密度も上がるので、ハイクオリティなホームシアターが楽しめるだろう。現在開発中のEthernetケーブルに電力と音声信号をデジタルで送信する技術が実用化されれば、シンプルなインストールが可能になる。
もう1つ優れているのは、DSPを使い、部屋とのマッチングを実現する技術。いくらスピーカーが良くても、部屋の音響特性によって音は左右される。そこで、ジェネレックでは、部屋の特性をマイクで測定し、逆位相の音をかけることで、希望する音のレスポンスが得られるDSP技術GLM (Genelec Loudspeaker Manager)ソフトウェアと自動キャリブレーション・システムAutoCalを持つ。
同様の技術はAVアンプなどにも搭載されており、さほど珍しい機能ではないが、ジェネレックが優れているのは、「部屋の特性を活かした」音場を作り出しているところ。多くの補正技術では、最終的にフラットな特性を目指しているが、ジェネレックではその部屋のキャラクターは残しながら是正するという高い技術を持つ。
私自身、なぜモニタースピーカーから音楽的な音が聞こえるのか不思議だったが、ジェネレックの技術者に聞いたところ、元の音源に音楽が入っているのだから、正確に出せば音楽的な部分が表現されるのは当たり前とのこと。無色透明な音を標榜し、音の中に入っているエッセンスをモニター的に出す。モニタースピーカーのあり方はそういうことだと気づいた。途中で加えず、引かず、生成りの音の中に音楽が聴けるという、新しい体験だった。
このように、アクティブスピーカーは新しい時代に突入した。ソニーはテクノロジーとイノベーションで新たな形を生み出し、ジェネレックはスピーカー技術の本道を徹底的に追求。開発の経緯は対照的だ。音もソニーは情報量がとても豊か、一方、ジェネレックはナチュラルな音調で拡散力に優れている。新しいオーディオ体験の1つとして、アクティブスピーカーをぜひ一度体験しよう。
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