――長年フォントに携わっているお二人ですが、ここまでフォントに人生を捧げている理由は何でしょうか。
ダン氏:愛しているからですね(笑)。すごく好き(笑)。デザインとしてのタイポグラフィは昔からこよなく愛してきました。タイポグラフィには機能的な部分もあれば、その表現力が問われるところでもあり、力強かったり、あるいは微妙なところがあったりしますよね。
ケン氏:34年前、私は日本語の特にライティングシステムに強く興味をかきたてられ、そこから日本語文字セットとエンコーディングに興味をもつようになりました。ライティングシステムに興味をもったのは、それが複雑だからです。日本語は漢字、ひらがな、カタカナ、さらにはアルファベットも使います。
――なるほど。ケン氏が日本語に触れることになったきっかけは何でしょうか。
ケン氏:アメリカ人のよくあるパターンとしては、日本のアニメから入るというのがありますよね。でも自分は違います。すごくパーソナルな話をすると、そもそもの成り行きは高校卒業後に陸軍の訓練を受けたところから始まります。そのときの仕事がインテリゲーター、捕虜を尋問する尋問官です。実際の肩書きはHuman Intelligence Collectorで、相手の情報を引き出し、収集する役割でした。
尋問を行う人間は訓練を受けるのと同時に語学学校にも通います。そこで学んだのはロシア語で、47週間のコースを受け、毎日6時間勉強しました。訓練を修了した後、大学に進学して言語学を専攻したのですが、単位取得のためには1年間に非ヨーロッパ言語を1つ勉強しなくてはいけませんでした。
元々学んでいたロシア語はヨーロッパ系の言語なのでカウントされません。そこで、アラビア語と日本語に絞って、1985年の夏、それぞれの言語の本を読んで過ごすことにしました。ただ、アラビア語は言語のパターンをすぐに把握できてしまった。文字の書き方さえ学べばあとは丸暗記でなんとかなると思いました。
ところが日本語はパターンを理解するのにずいぶん時間がかかったんです。たとえば漢字には音読みと訓読みという2つのパターンがありますよね。そういうこともあって自分に試練を課そうと、1年間日本語を学ぶことを決意しました。結果的には成績も残せて楽しく学べたので、今もそれが続いているという感じです。
日本語を学んでいるときはまだ陸軍に所属していたので、アラビア語を続けていたらその5年後に中東で起きた湾岸戦争に行くことになっていたかもしれません。ちなみにアニメはそれほど好きではありませんが、怪獣映画は好きです。ゴジラとガメラがいいですね(笑)。
ダン氏:このチームを作ったとき、デジタルフォントデザインなんていう仕事はほとんど存在していませんでしたが、ケンのように我々のチームメンバーはみんな入社した理由は面白いですし、1人1人に一風変わった背景がありますね。
――お二人のフォントの関わりがよくわかりました。もしよければ、一番好きなフォントを教えてください。
ダン氏:1つには決められませんが、好きなフォントはこうして自分の体に刻んでいます。たとえばCalypso、Ingeborg、Cooper Blackとかですね。
ケン氏:私は源ノ角ゴシックですね。25年前からずっと温めてきたフォントですので、やはり思い入れがあります。
――二人にとっていいフォント、美しいフォントとはどういうものでしょうか。
ダン氏:その質問に対する答えは、私はないと思っています。いいフォントというのは、どこかで何かしらいいパフォーマンスを発揮するものだと思いますが、それはどのフォントにも言えることです。フォントソフトウェアで何がいいか、というのなら答えられるんですが。
ケン氏:技術的な面でいいフォントソフトウェアというのは、プリンターを壊さないことですね(笑)。画面上でデザイナーの意図した通りの見栄えになること、単にフォントを書体として認識するだけでなく、きちんと言語として認識できるのが、優れたフォントソフトウェアであると言えると思います。仕事上、他の会社が作ったフォントの点検作業もしていますので、どこのとは言いませんが、そこでよく問題は見つけますよ(笑)。
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