「オープンイノベーションごっこ」にしないために--“デジタルネイティブ企業”が求める大企業との共創 - (page 2)

オープンイノベーションの文脈は「合理的」

 オープンイノベーションは言葉ばかり先行しているといったところであるが、辻氏は「オープンイノベーションの文脈は合理的」と語る。何故なら、大企業で新規事業を起こそうとすると、様々な問題があって難しいうえ、大きな収益があるビジネスを回していかなければならない。そこで、「オープンイノベーションで100のベンチャーに投資して、その中から上がってくるベンチャーと一緒にやるというのは、大企業として合理的な仕組み。オープンイノベーションは互いにとって意味がある」というわけだ。

 ところで、大企業であるマイクロソフトは、どうオープンイノベーションに取り組んでいるのか。高宮氏の「なぜ本気でベンチャーにコミットメントしているのか」という問いかけに対して岡氏は、クラウドが売り上げの大半になったという同社のビジネス環境の変化を挙げる。「クラウドを突き詰めるにはセリングではなく事業開発が重要になる。事業開発のためにはお客様の課題を聞く必要があるが、多くの経営者がデジタルトランスフォーメーション(DX)について知りたがる」のだという。

 そこで、「顧客からサポートしてほしいというときに、必ずデジタルネイティブの知見がないと先に進めない。それをエンプラ部門の人たちもよくわかっている。そこで社内をあげて支援しないと生き残れないという気持ちでやっている」と岡氏は説明する。

 そのマイクロソフトの顧客層でもある日本の旧来の企業が、本当の意味でDXを起こすにはどういう要素が必要か。高宮氏は、「出来上がっているルーチンを回す人材と、社内で新規事業をつくる人材は違う。切り離してトップが守ってあげること」と指摘する。また、「10打席で1〜2打席当たればいいというベンチャーと同じ発想でまわしていくのが大事」とする。

デジタライゼーションの進め方は泥臭くて愚直なもの

 豊田氏は、自らが活動する医療業界はデジタル化が遅れている業界の1つと明かし、問題点として、「段階を踏まずにいきなり100を目指そうとしている」ことを挙げる。例えば医療現場ではビッグデータを使ってAIを活用して分析して創薬に生かそうなどという話が出るが、「そもそもビッグデータというものがない。ちゃんと使えるデータというものがなく、現場とレセプトで違う病名がついていたりする」のだという。


メドレー 代表取締役医師の豊田剛一郎氏

 「デジタルは無限の可能性がある一方で、進め方はものすごく泥臭くて愚直。だからこそ最速でPDCAを回して結果を最速で出そうとする。変なデジタル万能という幻想がある」(豊田氏)。

 辻氏は、DXに成功している大企業は、「デジタル責任者が強い力を持っていて、既存事業と結びつけるのがうまい。社長が苦手ならそういう人を使うなど役割分担することがエンタープライズの成功パターン」と語る。

 そしてデジタル変革は、自社の社内改革という話ではない。グローバルで勝負していくための視点も必要だ。ただし、ソフトやデジタルで完結する領域は日本は負けているので、勝負すべきは、「暗黙知、すり合わせでやってきたオペレーションの卓越性のデジタル化」と高宮氏はいう。

 ディスラプターが新しい市場を取るのというのがデジタルビジネスの定説になっているが、「ベンチャーが1社で力んでも限界がある。日本の中で日の丸連合を作って対峙していったほうがいい」(高宮氏)。これが、エンタープライズ企業とデジタルネイティブ企業が付き合う際のキーワードといえそうだ。

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