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渋谷をニューヨークにも負けない“強い都市”に--行政を劇的にデジタル化した立役者 - (page 2)

藤井涼 (編集部) 日沼諭史2019年09月18日 08時00分
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「すべての選択肢」を用意した新庁舎の労働環境

ーー澤田さんはもともとは民間企業出身ですが、実際のところ、渋谷区役所の人たちの働き方はいかがですか。

 公務員は、勤勉で非常に緻密に仕事する能力を持っている。なのに、誰でもできるような数字の打ち込みや計算業務を、本当にエース級の人材がやっているんですよ。これは税の無駄遣いかもしれません。

 テクノロジーだけではできないこと、たとえば0を1にする創造的な仕事や、人間にしかできない難易度の高い複雑な課題解決を自らリードしていく、もしくはお客様の本当の課題の根幹を知るとか、子どもたちの教育の将来の可能性を議論するとか……。そういうところにしっかり時間を割くためには、誰でもできる仕事に忙殺されていてはだめなんですよね。

ーーそれはもったいないですね。

 だから、誰でもできる仕事はできるだけ機械化するとか、アウトソースするとか、そういう選択肢も用意しています。でも決めるのは事業部門でやりなさいと。すべてを強制的に、型にはめるのではなく、自分たちで考えて意志決定するプロセスを僕は非常に重要視しているんです。そのあたりは次世代を担う若手職員やミドルマネジメント層を中心にどんどん進めています。

渋谷区の新庁舎
渋谷区の新庁舎

ーー2019年1月に庁舎が新しくなりましたが、2015年からこれまで、どのように業務環境が変わったのでしょうか。

 環境整備については、僕が2015年10月に着任してプロジェクトを組成しました。その頃はオンプレで、セキュリティばかり気にして、ユーザビリティが非常に低く、業務生産性を引き上げるには問題が多々ありました。PCを情報システム部門が一括管理していて、席を移動するには使うPC配置設定を個別に行う必要があり、しかもそれに1〜2カ月もかかっていた。仕事にならなかったですね。今はもうそんな業務は当然ありませんが。

 とにかく業務環境をしっかり作ってあげないといい仕事ができません。いい仕事をするということは、地域社会の成長のために、地域社会の課題を解決するために、住民であるお客様の問題を1つでも多く解決するために、最適な業務環境を提供するのがCIOである僕の役割ですから。そのための投資を計画的かつ積極的に行ってきました。

 ですので、ありとあらゆる業務環境を職員に提供しています。BYODやモバイルワークでやりたい人はやってください。フリーアドレスでやりたいなら自分でどんどん席を変えてくださいと言っています。でも、僕は強制なんか1つもしていません。つまり、自分でその日1日の仕事を最も早く、最も質高く、最も生産性高くできる場所とやり方を、自分でその日に選んでやってくださいと。選択肢は用意しました、技術実装もできています、ということなんです。

 今後は行政ではいままでなかった発想で、BYOD上でBIツールのアクセス環境を提供し、ドラッグ&ドロップでデータ分析ができるようになります。いつでもデータ分析ができる環境がこの秋から始まります。ロボティクス技術も、導入できる業務には全部に入れていこうとサポートしています。保育園の入園審査も、720時間の時間セーブをAIが自動化します。これにより1週間程度早く審査結果をお客様にフィードバックできるようになります。

ーー徹底したIT化ですね。

 IT投資っていうのは、必ずROI、リターンが数字で説明できるんです。僕たちは1時間当たりの人件費などの一般管理費もフルコスト算出してKPIを設定していますし、コピー出力のための複合機を刷新することによって、コピー出力のスピード向上も全部KPI設定しています。そこまで細かく緻密にやっている。公務員は緻密ですからそういうことは得意ですよ(笑)。ノウハウや計算方法を教えるだけで、すごく精緻に対応してくれます。

 Microsoft Teamsを使って、すべての所管ごと、個人ごとのTeamsにおいて1対1で使っているか、1対Nで使っているかを全部ログ解析して可視化しています。公表はしませんけど、組織内や組織間のコミュニケーションのあり方を全部見ています。それによってアドバイスの仕方とか、人のマッチングが良くないとか、この方向でしかコミュニケーションが行われていない、などがわかります。これってテクノロジーだからこそできることです。今まで気付かなかった問題点が見えるようになることで、組織のパフォーマンスを上げることが可能になるのです。

ーー2015年当時と比べて、区民にとっての明らかな変化を挙げるとすると、何がありますか。

 2年前からLINE上にチャットボットを導入して、24時間365日、お客様のお問い合わせを受けています。おそらく地方公共団体で最も早くチャットボットを導入したのが渋谷区ですね。2020年の春からは主要な手続きもLINE上で実行できるようになります。認証方法もLINEの新しいソリューションを使うので、どんどん利便性を向上させていく予定です。

キャプション

 渋谷区ではお客様の要求水準が年々高くなってきています。住宅費を中心に生活コストが高い場所ですし、子育て関連だけでも多くの課題が山積しています。生活コストの高い渋谷区をわざわざ選んでいただいている。それに報いるためにも、その要求水準にできるだけ早期に応えられる行政でなければいけません。だからこそ、顧客満足度を引き上げるために僕らはさまざまな新しい政策立案をして、事業投資を実行していくのです。

 僕らはお客様の定量的な意識調査も実施していて、毎年、顧客満足度を主要事業で確認しています。イベントの参加意向や阻害要因を確認するなどの調査だけでなく、渋谷区基本構想ビジョンの認知度や理解度なども継続的な把握に努めています。

ーーその中で見えてきている課題などはあるでしょうか。

 お客様、つまり渋谷区民の声を僕たちは本当に聞いているのか、という課題がありますね。大半の方はサイレントマジョリティなわけです。自分たちの商品やサービスがどう評価されているのかは、サイレントマジョリティの評価こそ重要です。ある公共施設を新しく建て替えましょうというときに、今使っている人の声だけを聞いて対応すると高効率で付加価値の高い施設にはなりません。当該施設を使っていない人の、使わない理由を集めて、もっと愛される使いたくなる場所にしよう、という発想が必要なんです。

 これは使っている人のコストを、使っていない人の税で補っている状況ですよね。その施設の経営状況がどのようなものなのか。これからはその説明をわかりやすく、難しい言葉を使わずインフォグラフィックスなどで可視化したり、動画を作ったりして伝えようと思います。まさに渋谷区のダッシュボード作りですよね。渋谷区の経営状況や建て替える施設のコスト構造はこうなっていますよ、というのものを多くの人に理解してもらえるようにしたいですね。

ーーたしかに、渋谷区の公式サイトにはインフォグラフィック入っていたりして、行政のウェブサイトらしくないモダンさがあります。

 渋谷区は行政情報のフルライン化を目指しているんです。自分たちの住んでいる街のウェブサイトにアクセスしたことはありますか、もしくは自分たちの街のビジョンやアクティビティを知っていますか。ほとんどの方は知らないのではないかと思います。だから、僕らはウェブサイトをスマートフォンファーストに変え、ウェブブラウザで見たときのデザインを統一しながら、動画を入れたり、サーチエンジン主導型のUI/UXを導入しました。いちいちナビゲーションなんか作らなくてもいいと思いましたし、本当は検索窓だけにしたかった。

 基本的にはコンテンツはもう動画中心にしたいんです。今後はAIなどを活用して誰でも動画が簡単に作れる仕組みを使って、職員が内製で動画コンテンツを作れるようにしたいと考えています。あとは地域のコミュニティメディアとコンテンツ連携もしています。どこそこに新しいカフェができました、みたいな情報を「SHIBUYA WORLD NEWS」として定常的に発信しています。

新庁舎では渋谷区のエネルギー消費量などを大きなディスプレイに表示している
新庁舎では渋谷区のエネルギー消費量などを大きなディスプレイに表示している

 行政だからこそ、街の情報ポータルとしての機能を発揮した方が良いでしょうと。様々なオウンドメディアのセッション数も徐々に増えてきています。今はもうPVの7割がスマートフォンですね。渋谷区公式のFacebook、Twitter、LINE、Instagramでターゲットごとにコンテンツを出し分けるという最適化もしています。今やFacebookもInstagramも、23区のアカウントの中ではフォロワー数がナンバーワンです。これをたった1年程度で実現しました。

 できることは惜しみなく投入します。すべてのオンライン・オフライン、ソーシャルメディアを含めてフルラインで渋谷区の情報を最適化して出す。それとは別に防災フェスや区民フェス、おとなりサンデーのようなリアルイベントも徹底的に重視し、お客様の体験価値を高めていく。その中でネットワーキングし、エンゲージメントが生まれ、エンパワーメントしていく……そういうプロセスも積極的に回しています。

 渋谷には大企業もあれば、成長過程の意欲的なスタートアップが沢山いて、クリエイターやコンテンツ産業、交流できる拠点やイベント・カンファレンスなどが国内トップクラスであるわけですから、僕たちは本当に恵まれた環境にいる。これを活かさない手はないですよね。

ーーそれだけのことをやっていると他の自治体から相談されることもあるのではないでしょうか。

 新庁舎ができたことで、国内外いろいろな都市から視察に来られますね。最近では名古屋市役所の視察団がいらっしゃいましたが、渋谷区が進めている街づくりプロジェクトの「渋谷をつなげる30人」と同じように、名古屋市では「ナゴヤをつなげる30人」というのを立ち上げるそうです。これは、20年後のその都市の未来像を実現するために、課題解決を進めるクロスセクターリーダーを育成するという目的で、テクノロジーとともに人作りも同時に図るという取り組みです。

 なぜ、こういう取り組みをするのかというと、日本の将来にはなんとなく暗雲が漂っていますよね。超高齢化社会とか、人口減少とか、社会保障問題とか、なんとなく明るくないムードがあります。それを払拭するためにも、みんなで力を合わせて、生産性を高め、GDPを持続的に伸張して、高まる社会保障制度を維持していかなければなりません。

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