企業はいつブロックチェーンを活用すべき?

企業はいつブロックチェーンを活用すべきか--数年先を見越す“向き合い方”(後編) - (page 2)

呂相吾(Sun Asterisk)2019年09月05日 09時00分

 ブロックチェーンは、さまざまな取引を自動で処理するスマートコントラクトという技術が用いられます。この技術により、これまで人手と時間のかかっていた細かな処理を自動化できる可能性があります。

 一例として、ビジネスで発生する金銭のやり取りを考えてみます。海外をまたいだ取引や、複雑な商流の場合、処理が多く時間のかかるケースがあるでしょう。いわゆる「月末締めの翌月払い」などもその一つです。

 しかし、スマートコントラクトを活用すれば、全世界対応で処理が自動化されるので、間違いなくスピードは上がるでしょう。また、人の作業が減るために、これまで発生していた人件費やコストが減ります。それは、企業の新たなBPR(Business Process Re-engineering)とも言えます。

 バックエンド、効率化などの文脈でのブロックチェーンの活用としては、「取引の公正化」と「処理の高速化」の2軸がまず考えられます。

企業にとって大きな意味を持つ「トークン」

 それ以外に、ブロックチェーンはさらに大きなメリットを企業にもたらすと思っています。具体的には、企業が独自のコミュニティや経済圏を作ることができる点です。

 ブロックチェーンの特徴の一つに「トークン」があります。トークンとは、ブロックチェーン上で発行できるもので、ユーザー同士がトークンを交換したり、トークンを渡して何かを受け取ったりすることができます。昨今話題になった暗号通貨は資産をトークン化した物です。

 また、先ほど触れた個人データも、ユーザー同士のコミュニケーションをトークン化することで、価値交換のツールになり得ます。

 企業は独自でトークンを発行し、消費者やユーザーのコミュニティや経済圏を形成することができます。現状ではさまざまな法の問題も関わりますが、一旦それを度外視して説明します。

 たとえばSNSのサービスを展開する企業が、独自のトークンを発行する。すると、ユーザーはトークンを使ったコミュニケーションを行うようになります。この時点でコミュニティが形成され、SNS上でのユーザーのアクションに応じてトークンを与えるなど、お金とは違う自由な価値の乗せ方ができます。

 さらにサービス自体が盛り上がり、ユーザーが増え、コミュニケーションが活発になれば、トークン自体の価値も上がっていきます。自社の株が上がるように、自社のトークンが価値を持っていくのです。

現状では、ブロックチェーンは高いリテラシーとビジネス力が必要

 これらは「トークンエコノミー」と呼ばれ注目を集めています。国内では、LINEがトークンエコノミーを中心とした、ユーザーにもインセンティブが回る持続的なサービス設計を発表しています。今後、企業が消費者のコミュニティ形成をする上で、ブロックチェーンのトークン技術はきわめて有効になるでしょう。逆に言えば、コミュニティを作る会社と作らない会社では、経済格差が出る可能性があります。

 ブロックチェーンの活用方法としてはこうした使い方が考えられ、それはそのまま企業メリットになります。

 では、「今すぐブロックチェーンに張るべきか」というと、難しい部分があります。現状ではブロックチェーンは高いリテラシーとビジネス力が必要です。

 ブロックチェーンをビジネスで活用する場合、技術的には、まずイーサリアムやハイパーレッジャーなどチェーンの選定から始まり、次にどういう価値をトークン化するのか、どこまで分散型で構築するのか、などのアーキテクチャ設計のノウハウが必要となります。

 また、ブロックチェーンを活用する上で避けて通れないのが、仮想通貨交換業などの法規制を遵守しつつも、新しいビジネスの芽を見つけ出さなければならないと言えます。

 実際にビジネスユースに耐えうるレベルでブロックチェーンを使った高速処理を行いつつ、トークンの発行を行う作業はかなり難易度が高く、きちんと扱える企業は、実は国内でも数えるほどしかありません。技術的な参入障壁が高く、その分、コストもかさみます。

 そういった大きなコストがある一方で、世の中ではブロックチェーンでのビジネスモデルが確立されておらず、高いコストに対してリターンが見合わないと言えます。これが偽らざる現状でが、この技術には大きな可能性が秘められている、と多くの人が考えています。

ある瞬間に「使わないことがマイナス」となる

 それでも、ブロックチェーンが持つ可能性や意義は大きいと思います。インターネットのあり方を進化させる革新的な技術であることは、間違いないからです。

 マーケティングにおいて、「ゲイン」と「ペイン」という考え方があります。ゲインとは、ユーザーがより大きくしたい要素、求めるメリットで、ペインとはなるべく減らしたい要素と言えます。

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