「ASMR」という言葉を聞いたことはあるだろうか。ASMRとは「Autonomous Sensory Meridian Response」の略語で、日本語では「自律感覚絶頂反応」などと訳される。頭文字をとってそのまま「エーエスエムアール」と読む。
ASMRは、2010年に米国のジェニファー・アレンさんが使い始めた言葉だ。ASMR音を聞くと、脳がとろけるような感覚を抱き、リラックスしたり心地よくなると言われており、SNSなどで若者を中心に人気が高まっている。
AMFの「JC・JK流行語大賞2019年上半期」(2019年7月)の「コトバ部門」でも「ASMR」は1位となっている。ASMRとは何か。なぜ高校生たちはそのような音を聞くのか、使い方と効用について解説したい。
「ASMRと言われるものを聞いたが、むしろ不快だった」という人は少なくない。それは、ASMRは人によって好き嫌いが大きく分かれるためだ。またASMRには様々な種類が存在し、人によって好むものが違うのも特徴だ。
つまり、自分がリラックスする音がその人にとってのASMRとなるので、いくつかの種類を聞いただけで「自分には合わない」と判断するのは早計かもしれない。興味がある人は、YouTubeやInstagramで「ASMR」で検索してみると簡単に見つかる。試しに聞いてみるのもいいだろう。
シャンプー音、囁き声、耳かき音、野菜などをカットする音、机などをタッピングする音、スライムをかきまわしたりたらしたりする音などが代表的なものだ。Instagramで「#asmr」は730万件、「#asmrfood」は40万5000件、「#asmrslimesounds」は9万9000件など、多数投稿されている。
TikTokでもASMRは人気が高く、「#ASMR」は執筆時点で45億回も再生されている。タイヤで色々なものをつぶしていく動画、ものをきざむ動画、ものを食べる動画など、様々な動画が見つかる。
実はASMRは、流行しているだけでなく、具体的な効果もあることが知られている。
英シェフィールド大学の研究チームによると、ASMRを経験した人たちは心拍数が低下したり、リラックスしたり、社会的な結びつきなどのポジティブな感情が高まっていることが確認されたという。ASMRには、リラックス効果が期待できるのだ。
テスティーの「10代のASMR視聴実態調査」(2019年3月)によると、ASMRを知っていて聞いたことがある10代は38.7%と約4割に上る。ASMRを聞くタイミングについては、「暇なとき」(56.6%)、「寝るとき」(40.8%)、「くつろいでいるとき」(33.6%)となった。
雨音や波の音などのヒーリングBGMなどを聞くと落ち着くという方もいるだろう。実はこのような気持ちが良くなる音はASMRに含まれ、「雨音のASMR」も存在する。ASMRは若干広い範囲を指す用語のようだ。
同調査でASMRを聞く目的について聞いたところ、男女ともに「寝る前にリラックスするため」「ストレス解消」などリラックス目的が多かった。一方女性では、「食欲を抑えるため」「ダイエット時に代わりに食べてもらうことで満足感を得る」という回答が挙げられていた。
これは、YouTubeで大食い系の動画が人気な理由とも重なるはずだ。自分がしたいけれど(金銭面・体力面・健康面・ダイエットなどの理由で)できないことを叶えてくれ、擬似的に体験することで満足感を得る代替効果があるのだ。
また学生の中には、「ASMRを流しておくと集中して勉強できる」と言っていた子がいた。図書館や喫茶店など、多少の雑音がある方が集中できるという人は多いだろう。このようなやり方で自分なりにアレンジして使うのは、今どきの若者と言えそうだ。
企業でも、湖池屋が「スコーン」を若者にPRするために、スコーン咀嚼音を「スコ音」としたスコ音BEATMAKERを発表したり、人気韓国コスメ「ペリペラ」でASMRをテーマとしたシリーズが出るなど、ASMRは注目の分野だ。読者の皆さんも、ぜひ自分でも体験したり、子どもたちとのコミュニケーションのきっかけに使ってみてほしい。
高橋暁子
ITジャーナリスト。書籍、雑誌、Webメディア等の記事の執筆、企業等のコンサルタント、講演、セミナー等を手がける。SNS等のウェブサービスや、情報リテラシー教育について詳しい。
元小学校教員。
『スマホ×ソーシャルで儲かる会社に変わる本』『Facebook×Twitterで儲かる会社に変わる本』(共に日本実業出版社)他著書多数。
近著は『ソーシャルメディア中毒 つながりに溺れる人たち』(幻冬舎)。
ブログ:http://akiakatsuki.hatenablog.com/
Twitter:@akiakatsuki
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