Chromebookを導入した自治体として町田市の事例も聞くことができた。登壇したのは、町田市教育委員会 指導室長の金木圭一氏だ。同市は2017年度から4カ年計画でLTE環境のChromebookを4500台導入する計画を進めている。具体的には、市内の小中学校全62校にそれぞれ40台の端末と、全教職員2000人に対して1人1台のChromebookを配備するというのだ。
金木氏は、Chromebookを選択した理由について、コスト面も魅力のひとつではあるとしつつ、重要視したのは「キーボードがあること」「端末にデータが残らないこと」「タッチパネルであること」だと述べた。そしてさらに、「社会に出たときにも活用できるように、G-Suite for Educationを使うことで、1人1IDを実現したかった」と語った。
とはいえ、学校にChromebookを導入するにあたり、課題となるのはネットワーク環境だ。町田市の場合は、以前に整備した無線LANでChromebookを使用する場合、増強しなければならず、その費用は莫大だった。そこで、LTE環境でChromebookを利用することで初期投資を軽減した。さらに金木氏は、「これからの時代は、教室以外の場所で学べることも重要。校外学習や持ち帰りなど、端末を教室外、学校外の場所で使うことも考慮してLTEを選択した」と述べた。
そして、もうひとつ。町田市の取り組みで注目したいのは、教員が使うコンピュータもChromebookを導入したことだ。一般的に多くの学校では、校務用と授業で使う教務用のコンピュータを分けているが、町田市はChromebookから校務系Windowsネットワーク上に仮想環境を構築し、1台の端末で校務用と授業用のデータに接続できる環境を実現。これにより、教員たちが時間や場所にとらわれず、いつでも、どこでも仕事がしやすい環境を整備した。まだ取り組みを始めて間もないが、学校に遅くまで残る教師は確実に減っているという。
前出の町田市もネットワーク環境にLTEを選択したが、近年は無線LAN環境を整備するよりも、代わりにLTEを選択する自治体や教育機関が増えている。これにはさまざまな理由があるが、筆者が取材を通して聞くのは「LTEはいつでも、どこでも、必ずつながるのが魅力」「無線LANの整備に比べて初期投資が削減できる」「少子化の影響を受けて学校統廃合が進んでおり、無線LANの整備投資がむずかしい」といった話が多い。
そうした課題を抱える教育関係者が多いのか、NTT Groupのブースもグーグルと同様、とても賑わっていた。ブース内では、LTEモデルのタブレットを活用する自治体などのセッションが設けられたが、なかでも注目したいのは熊本市だ。同市は、2018年に2万4000台のLTE版iPadを導入。全公立小中学校134校に対して、3クラスにつき1クラス程度のLTE版iPadを整備するとともに、教師全員にも1人1台の同端末を配備した。同市教育センターの教育情報室 山本英史氏が登壇し、その内容を語った。
2016年に大地震に見舞われた熊本市は、復旧・復興をきっかけに学校のIT環境整備にも着手した。当時の熊本市は、政令指定都市の中でもIT環境が下から2番目と低かったが、未来のためには必要な投資との考えから大規模な投資をトップが決断した。LTEを選んだ理由として山本氏は、震災を受けて既存のネットワークをもとに無線LANを構築するのが困難であったこと、無線LANの設計やトラブルの原因究明に時間を要することを挙げた。
熊本市では、2万4000台のiPadを有効活用するために、教員研修に最も力を入れている。研修内容としては、全教員を対象にした「導入研修」、校長や副校長を対象にした「管理職研修」、各学校でITを推進する教員を対象にした「推進チーム研修」の3種類を実施し、全員で取り組む“チーム学校”のマインドを大切に進めているという。ほかにも、熊本市、熊本大学、熊本県立大学、ドコモの4者が協力し、産学官連携でプロジェクトを支えているのも取り組みがスムーズに進められている要因だと山本氏は述べた。授業では、課題解決型学習を重要視しながら、ITの効果的な活用を進めているという。
教育現場におけるIT環境整備は、ChromebookやLTEなど新たな選択肢が加わり、2020年に向けて取り組みも広がってきている。とはいえ、多くの関係者が抱える切実な課題は、現場でIT環境整備を進める人材もノウハウも足りていないことだ。筆者は過去の取材で、ある地方自治体を訪れたとき、“教育委員会には7名しかおらず、ITが分かる人材は誰もいない”という話を聞いた。そうした自治体にとって、必要な情報をフォローしながら、環境を整備していくのは非常にむずかしいのが現状だ。
同様の課題を抱える自治体は、全国に多いだろう。そんな状況を打破するひとつの解決策として、Lenovoが提供する教育ITパッケージプランも注目したい。同プランは端末の導入から、教材コンテンツの提供、保守サポート、環境構築、IT支援員の派遣、端末管理など、教育現場に必要なサービスを全部引っくるめて、定額制で利用できるプランだ。端末も、Lenovo製のWindowsとChromebookから選択することが可能。“どうやって進めていけばいいか分からない”と頭を抱える関係者も多く、こうしたサービスも選択肢のひとつとして有力だろう。
以上のように、ChromebookやLTEなどEDIXのトレンドを紹介しながら、教育IT分野の動向を紐解いてきた。現場は2020年に向けて、取り組みを加速させているが、課題は山積している。
長期的な課題として関係者ら、特に教育委員会を悩ませているのは、学校で児童生徒が使用する端末を行政が整備し続けるのは限界があるということだ。一自治体で、端末とインフラ、保守サポートまで、整備し続けるのは、今の地方自治体にはとても厳しい。いずれは、家庭にある端末を使うBYODを導入すべきではないか、との声も関係者から聞く。現に、スマートフォンを活用するといった事例も、そうした課題が背後にあるのだ。
1人1台の実現に向けて、乗り越えなければならない課題や価値観は多い。しかし、それでも学校でコンピュータが利用できる環境は、子どもたちの未来には必要だ。子どもたちの環境を作ることは大人にしかできない。
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