6月19〜21日にかけて、教育IT分野における国内最大級の展示会「第10回 教育ITソリューションEXPO (以下EDIX)」が開催された。同イベントでは、IT機器やデジタル教材、プログラミング教材、校務支援システムなど、教育分野に関わる企業のソリューションが一同に展示される。第10回目となる2019年は、教育関連企業430社が出展。開催期間中は、全国から約3万人もの教育関係者が訪れた。
今年注目したい点は、2020年度の新学習指導要領実施に向けて、IT環境の整備がラストスパートの段階にきていることだ。新学習指導要領では、情報活用能力の育成やプログラミング教育など、ITを活用する内容が多く盛り込まれているが、学校現場ではそれを実践するための環境を2020年までに整備しなければならない。教育関係者らはどのような製品に興味があるのか。イベントの模様をレポートする。
EDIXの内容をレポートする前に、現在の教育IT分野の状況について整理しておこう。学校現場は、2020年度から実施される学習指導要領に向けて、IT環境の整備が求められている。新学習指導要領では、大学入試改革におけるCBT(Computer Based Testing)や eポートフォリオの導入、小学校ではプログラミング教育の必修化や英語の教科化、またアクティブ・ラーニングの実施など、ITの活用が多く盛り込まれているからだ。これからの時代を生きる子どもたちにとって、もはや情報活用能力の育成は必須との考えから、このような教育が重要視されている。
一方で、学校現場におけるIT環境はどうか。現在、文部科学省では2022年度までに教育用コンピュータを3クラスにつき1クラス分程度整備するよう地方財政措置を講じているが、取り組みは進んでいない。EDIXの後日になるが、同省が発表した資料によると、2018年3月時点で学習者用コンピュータは5.6人に1台。前出の3クラスにつき1クラス分の整備を達成するには、全体で185万台も不足しているという。つまり、まだまだIT環境の整備に着手できていない自治体や教育機関は多く、2020年を前に本気で取り組まねばならない段階にきているのだ。
そうした中、EDIXにおいては出展企業のブースを熱心に見てまわる来場者の姿が印象的だった。出展企業も製品を展示するだけでなく、実際にどんな授業ができるのかを体験できるハンズオンセミナーや、IT活用に取り組む教育者らが登壇するセッションなどを用意し、来場者の関心を誘った。
2019年のEDIXで、来場者らの関心を最も集めたのは「グーグル」のブースだ。同社は今年がEDIXへの初出展となるが、低価格で管理しやすいChromebookは教育関係者の注目を集めた。ブースでは、Chromebookの展示や、同社が教育機関向けに提供するソリューション「Google for Education」の紹介、プログラミングのハンズオンセミナーやChromebook導入事例を紹介するセッション、さらには教育系のYouTuberらが登壇するプログラムも用意され、開催期間中は多くの来場者で賑わった。
Chromebookを展示したコーナーでは、各メーカーの端末を見ることができた。なぜ、教育関係者はChromebookへの関心が高いのか。その理由は「低価格」「キーボード付き」「端末管理がしやすい」の3点だ。そもそも、全国の教育機関でIT整備に予算をかけられる自治体や学校はほとんどない。多くの教育機関は限られた少ない予算で、いかに端末の台数をそろえるかが課題となっており、3〜5万円台の低価格なChromebookは魅力だ。おまけに、Chromebookは堅牢性とバッテリーのもちも優れているので、学校現場でも扱いやすい。
さらに昨今は、大学入試改革や英検で導入されるCBT(Computer Based Testing)やプログラミング教育を考慮して、タブレットではなくキーボード付きの端末を重視する教育関係者が増えている。筆者の取材でも「低学年はタブレットでもいいが、ローマ字を習った小学3〜4年生からはキーボードのついたコンピュータを触らせたい」と話す関係者が多く、Chromebookへの関心が高まっている。
Chromebookの特徴である「端末管理のしやすさ」も、教育関係者にとっては大きなメリットだ。これまで教育機関における端末管理はMDM(Mobile Device Management)を使うのが一般的であったが、ランニングコストがネックだった。しかし、Chromebookでは、クラウド型管理コンソール「Chrome Education」を用いて端末を管理することが可能で、しかも、その費用は1台あたり4200円の永続ライセンスとなる。この費用感は、端末の台数をそろえたい教育機関にとって、コスト削減につながる大きなメリットだ。
ほかにも、ブースの来場者にChromebookのメリットを聞くと、「OSアップデートなど手間のかからない点が良い」「ICT支援員を増やさなくても端末管理ができそうだ」といった話も聞かれた。
Googleのブースでは、Chromebookの展示のほかに、さまざまなセッションやハンズオンセミナーが開催された。Google for Educationマーケティング統括部長 アジア太平洋地域のStuart Miller氏は、「Google for Educationの紹介」と題したセッションに登壇し、自ら来場者にその魅力を伝えた。
同氏によると、Chromebookのユーザーはグローバルで3000万人、共同編集ツール「G-Suite for Education」のユーザーは8000万人を超えたという。また多くの教育機関でChromebookが選ばれている理由として、「簡単」「手頃な価格」「高い汎用性」「高い効果」の4つを挙げ、サポート作業や端末管理の面で大幅な時間削減の効果が出ていると語った。
同氏は「ChromebookもG-Suiteもすべてはクラウドベースであり、クラウドを活用することが教育のさまざまな面に効果をもたらす」と主張。日本でもChromebookを選択する教育機関は増えているが、クラウドの活用を広げることが重要だと強調した。一方で、G-Suite For Educationについては、授業でどう生かしていいのか分からないと話す教員たちが多い。その点については、教員に対するサポート体制も用意しており、多くの教員にChromebookを使ってほしいと伝えた。
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