ラジオの常識を破る「J-WAVE」--テックイベントやAIアシスタントに挑む理由 - (page 2)

ライバルは「ラジオ局じゃない」

——J-WAVEでは、DMP(データ・マネジメント・プラットフォーム)の活用も進めているそうですね。

 2018年から2019年にかけて、ラジオ各社がデータマーケティングに力を入れ始めています。今後は放送局ごとにリテラシーの差が出てくるだろうと思いますし、力を入れないと置いていかれる時代になってきています。

 聴取率だけを論じても未来は明るくありません。電波以外でどんなプラットフォームが生まれていて、そこにどんな人たちが集まり、どんなコンテンツの人気があるのか。放送局もそういうところに目を向けていかないと、本当にマニア向けのニッチな産業になってしまいます。

——ラジオにおけるDMPの活用とは、具体的にどのようなことでしょうか。

 J-WAVEには50くらいの番組があり、今までは「平日の夜はこういう番組にすべきだろう」「土日はこんな番組かな」というイメージでタイムテーブルが決められてきました。しかし今、ラジオは番組内容を記したメタ情報が重要です。例えばそのメタ情報から番組ごとの類似性や特徴点を洗い出して、どの番組とどの番組が(内容的に)近いかを弾き出すんですね。そうやって似た番組をグルーピングしていくと、番組の近似性がわかってきます。

 それに加え、J-WAVEの公式ウェブサイト上のアクセスデータを元に、どの番組とどの番組に同じリスナーがアクセスしているかもわかるようにしました。番組のグルーピングとアクセス解析の結果を組み合わせると、リスナーがカテゴライズされ、特定の趣味嗜好をもったリスナーのセグメントができるわけです。

 さまざまなセグメントに分けるとターゲティングしやすくなるので、そこで新しい広告商材が生まれることになります。とあるセグメントのリスナーはこの時間帯とこの時間帯の番組を聴いている、それに合わせてCMを打ちましょう、といった広告商品設計ができるようになるんです。

キャプション

——まったく新しい番組編成の仕方になるわけですね。

 今まではそれを勘でやるしかありませんでした。でも、これからはデータを元に編成することができます。DMPを使うことで如実に傾向がわかってきます。こういった点をデータ化してまとめ、企画書としてもっていければラジオの武器になりますし、そのデータは編成にも生きてくるはずです。

 ただ、本当はそれだけではなく、ラジオとSNSや他のデジタルメディアをも組み合わせたメディアプランを提案していければ、ラジオの可能性はもっと広がりますし、ラジオ局の営業はコンサルタントになれます。今はそのための土台作りの段階ですね。もうライバルはラジオ局じゃないんだと。

“接し方”で音声コンテンツの作り方は変わる

——DMPの活用で、喋り手であるラジオパーソナリティや制作現場の意識に変化はありますか。

 データはよく見るようになりましたね。我々が、どんなデータを現場に提供できるかも大事なことだと考えています。

——DMPの活用による今後の展望を聞かせてください。

 我々編成局としては、ユーザーに今後リコメンデーションをちゃんとしていこうと思っています。ウェブサイト上で「あなたと同じ番組を聴いている他の人はこういう番組も聴いています」というようなものですね。ラジオを聴いてもらっている人に、もっと聴いてもらうために気付きを与える。こういった仕組みをウェブサイトにどんどん追加して、人の趣味嗜好に合わせて情報の出し分けもすれば、直帰率も改善されますし、聴取者も増えるでしょう。

——今後、音声コンテンツやラジオは人々の生活にどう溶け込んでいくと考えていますか。

 地上波ラジオやPodcastなど、あらゆる音声を「音声コンテンツ」という言葉だけで一括りにできないと思っています。自分のライフスタイルのなかでBGMとして流れている音声コンテンツと、自分が対峙して意図して聴こうとしている音声コンテンツはまったく別なんです。

 たとえば、J-WAVEを生活のなかで流して聴いているような状況だと、カッコいいジングル(コーナー合間の短い曲)が流れてくれると嬉しいし、その番組であることが分かりやすいですよね。けれど、スマートフォンでPodcastなどのコンテンツに向き合ったときには長いジングルっていらないんですよ。ジングルがかかった瞬間に離脱してしまい、(聴取を)やめるきっかけを与えちゃうんですね。これはデータを見て明らかになった事実です。

 つまり、リスナーがどういう接し方をしているかによって音声コンテンツの作り方もまったく異なってくるということです。今まではそれを一括りにして議論していましたし、有名なゲストを出演させればアクセスが上がるかというとそうではないという点もデータをもとに理解する必要があります。データを見ながら、きちんとコンテンツを最適化していける時代になってきたと考えています。

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