暴かれるブラックな実態--Facebook「コンテンツモデレーション」現場の凄まじさ - (page 2)

人間の「邪悪さ」に身を晒し続ける(年収2万8800ドル=約308万円)

 前掲の動画に聞き手役で登場しているCasey Newton記者は、The Vergeでソーシャルメディア分野をカバーしている。Facebookのコンテンツモデレーションの現場の実態については、2019年初めにアリゾナ州フェニックスの拠点での話を報じたことがあった。

 今回のフロリダ州タンパの話はその続編だ。「フェニックスよりもこっちのほうがさらにひどい」という現場で働く派遣労働者からのタレコミがきっかけだと説明している。

 前掲の動画に話を戻すと、秘密保持契約(NDA)違反を覚悟で「顔出し」したという元モデレータの中でまず、女性2人の話の中には、児童虐待を撮影した動画――双子の赤ん坊を繰り返し床に落とすサウジアラビア人の母親の動画を目にしたというものがある。一方、男性の方は、間に入っているCognizantという派遣会社から、コンテンツモデレーションの仕事とは知らされずに(だまされて)この仕事についたが、もともとメンタル面がさほどタフではなく、事前にわかっていればこんな仕事はしなかった、などと説明している。

 またこの男性、以前に動物愛護のボランティアをしたこともあるという気持ちの優しい人物だそうだが、この仕事を始めてすぐに、イグアナを地面に叩きつけ続けて殺した若者たちの動画を繰り返し見させられたという。繰り返し見させられたのは、そんな動画を非公開もしくは削除する権限が本人に与えられていななかったためで、その判断は警察が動いた後でないとできないといったおかしなルールがあるため(勝手に削除すると「表現の自由」云々でまた別の問題が生じてしまうのだろう)。そうした事情から、「未処理」のフラグが立てられたその残虐な動画が同じ人間のタスクリストに何度も繰り返し表示されてくる、という仕組みらしい。

 「イグアナは叩きつけられるたびに悲鳴を挙げていた」「そのうち息絶えて静かになった。その時には血まみれになっていた」などと涙ながらに説明しているこの男性は、やがてPTSDと診断されたが、そうした例は珍しくないそうだ。

独ベルリンにあるFacebookのコンテンツモデレーションセンター
独ベルリンにあるFacebookのコンテンツモデレーションセンター
提供:Soeren Stache/Getty Images

 さらに、もっと悲惨な例では、仕事中の突然死という、普通なら「労災」に該当しそうな話も出ている。亡くなったこの男性(42歳で妻と2人の子供が残されたとある)は沿岸警備隊の出身者だそうだが、ある日職場のデスクに突っ伏して動かなくなり、病院に担ぎ込まれたが助からなかった。そして、さらにひどいのは、このことを下請け会社が隠ぺいしようとしたというところ(外部だけでなく、内部=他の派遣労働者に対しても)。「バレたらまずいこと」を隠し通せると考えるようなレベルの管理者しか下請け会社側にいなかったということだろうが、Facebook側の責任者はどこまで承知していたのだろうか。

 そんな過酷な仕事だから、下請け会社は人集めが大変で、犯罪歴の有無に関するチェックもなしに人を採用したり、本当の仕事の中身を明かさずに(騙して)仕事に就かせたりといったことも横行している。さらに、利益重視・効率優先で――所詮は「使い捨ての人員が相手」と割り切っているのだろうか――労働者の教育も行き届かず、また環境整備もいい加減。その結果、汚れたままのトイレとか、(勤務時間帯が異なる)何人かがシェアするデスクの上に隠毛(pubic hair)があったとか、あるいは職場での性的行為(訴訟とあるから、中身は推して知るべし、といったところか)、いずれにしても「タコ部屋(sweatshop)」とはまさにこういうところを指すのだろう。

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