関西電力の社内イノベーションから生まれた都市型モビリティ「iino(イイノ)」が、大阪府下の公道では初となる自動運転車の実証実験を含む走行デモを実施し、100名を越える人たちがその乗り心地を体験した。
iinoは時速5kmで自動走行する車両。開発しているのはドイツを拠点とする自動走行制御技術のベンチャー企業で、オープン・イノベーション支援企業ナインシグマ・アジアパシフィックを通じ、2018年11月より共同開発パートナー候補として研究開発を開始している。2月に最初のプロトタイプを製作し、改良を重ねて今回の走行実験を実現させた。今回の実験データを元に実用化に向けた開発を続けていくという。
今回の実証実験は5月25日に開催されたまち歩きイベント「北船場茶論2019」の会場で行われた。大阪御堂筋の淀屋橋から本町、東は北浜へと拡がる北船場エリア内に走行エリアを設け、計3タイプがそれぞれ異なる実験をした。
1台は乗り降りしやすいオープンなボックスカートタイプの自動運転車で、PCやライダーを使用して時速5kmの安定した速度で走行する。距離は1ブロックだけと短いが、オフィスビルが密集する公道を使用し、試乗した人たちからは「想像以上に安定している」「ゆっくり街を見渡せるのが新鮮」と好意的な感想がよせられていた。
もう1台は、膝くらいの高さの低層カートを2台連結したスチールタイプの自動運転車で、同じくフロント部分に搭載したセンサー類を利用して、記憶させたルートをプログラミングした通り走行できる。オフィスビルのファサードから歩道の間にある柱の周囲をゆっくり八の字で走行できる旋回性能を検証。試乗ではなく走る車両と一緒に3人のダンサーがパフォーマンスするというユニークなデモを披露し、通りすがりの人たちの注目を集めていた。
さらにもう1台は人が運転するタイプの車両で、モビリティと街とのコミュニケーションをどのような形で行えるかという実験が実施された。ゴルフ場などの施設で見かけるような4人乗りのカートで走行ナンバーを取得しており、北船場エリア内にある店舗や目的地に送り届ける。
同日には、落語家の桂弥太郎氏が同乗し、乗客と交流しながら目的地まで移動するという体験会も開かれた。車両には近隣の店舗とコミュニケーションするための情報端末も搭載され、地域の人たちとやりとりする実験もあわせて実施した。
このように今回の実証実験では、開発車両のテストだけでなく、モビリティ体験のテストもしていたことがわかる。自動運転かどうか、さらには目的を移動だけにすることにもこだわらず、iinoならではのユニークなアイデアでモビリティの新しい形を創り出そうとしている。しかも、短期間で実用化に近い開発を実現しており、そのためのネットワークも国内外に拡がっているようだ。
iinoの開発メンバーの1人であるIT戦略室の児玉純平氏は、モビリティの実用化は地域との交流が重要であり、「今回これだけバリエーションのある公道実験を同時に行えたは北船場エリアの方々の協力があってこそ」とコメントした。
iinoは今後も観光施設やショッピングモールなどでの実証実験を予定しており、ヘッドスパサービス「悟空のきもち」とコラボレーションした新しいサービスも実施に向けて開発を進めている。移動全般を1つのサービスと考えるMaaSが世界で注目される中、iinoのスピード感ある大胆な取り組みが市場全体に影響を与えるのは間違いだろう。移動だけでなく地域の交流や活性化にも積極的につなげていこうとするiinoのチャレンジが、これまでにないモビリティのあり方を見せてくれそうだ。
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