特殊冷凍でフードロスに挑戦するデイブレイク--フードテックの新形態を目指す

別井貴志 (編集部) 阿久津良和2019年05月31日 12時42分

 急速冷凍コンサルティングや特殊急速冷凍機の導入支援を中心に事業を展開するデイブレイクは、「“食”で世の中を明るくする」を社名に掲げ、「急速冷凍×IT」で食品流通の課題解決を目指している。これまで企業向けオフィスサービスとして展開してきたフローズンフルーツ「HenoHeno」が、2019年5月7日から都心部のナチュラルローソン40店舗限定で販売していることから、実店舗で見かけた読者諸氏もおられるだろう。今回は同社代表取締役“食品流通革命児”木下昌之氏へ事業展開を中心に、なぜ急速冷凍でフードロスを減らせるのかを聞いた。

デジブレイク 代表取締役“食品流通革命児”木下昌之氏
デジブレイク 代表取締役“食品流通革命児”木下昌之氏

――デイブレイクの成り立ちから教えてください。

 創業の由来ですが、私たちはフードロスを解決するため冷凍技術を扱っています。もともと父も祖父も冷凍業務に携わっており、約70年前に祖父が神奈川県横須賀市で氷屋から冷凍機に携わる業務に移行しました。父の代は神奈川県平塚市に移転し、官公庁やコンビニエンスストアなどで冷凍冷蔵設備の設置・保守業務を行っています。本来であれば私が3代目を継ぐことになりますが、当時扱っていたのは通常の冷凍技術でした。

 食品を冷凍すると「まずくなる」という印象をお持ちの方が大多数でしょう。通常の冷凍技術では顧客やエンドユーザーの課題を解決できず、「ハッピーにできない」のではないかと思うようになります。現状を一歩推し進めるには既存業務では不可能だと判断し、15年ほど務めた先の業務からは身を引きました。

 技術や国家資格はあるものの、何に手を付けていいか分かりません。ちょうど海外旅行していた際に、フルーツロスを目の当たりにしました。もちろん肉も魚もロスは生じていましたが、フルーツが印象的だったんです。「自分なら何かできるのでは」と思い、6年前に守下(デイブレイク 最高執行責任者“食品流通開拓士”守下和寿)とデイブレイクを始めました。

 繰り返しになりますが、前職では冷凍機の導入・保守を扱ってきましたが、業界の課題感を吸い上げたとの、自分自身“やりきった感”を得た気がします。冷媒の配管や施工管理は、私でなければ務まらない業務とはいえません。この違和感がデイブレイクを始めた理由の1つです。当時の売り上げは4人程度で3億円ほどありましたが、大手の取り引き口同士がケンカしたことで、1億2000万円の仕事が一瞬でなくなりました。自分自身で「人の下で仕事をしていたらダメなんだ」と気付かされました。これも理由の1つです。

 東京でさまざまなネットワークを作りました。約1万人と名刺交換すると、皆IT経営者や医者、弁護士という肩書きを持っていますが、そのときの自分は「設備屋」です。「自分みたいな人間はスタートアップ近辺にいないのでは」と思うと同時に「自分と同じく思考する人間は誰もいなかった」ことに気付きました。自分だけが実現できる何かという観点から、冷凍でフードロスを解決できるのでは、と現在に至ります。

――デイブレイクのウェブサイトには、5つのキーワードが掲げられています。これらの意味を教えてください。

ウェブサイトに掲げられた5つのキーワード
ウェブサイトに掲げられた5つのキーワード

 まず「一日一笑」ですが、よくIT企業というと1人でキーボードを延々と叩いているイメージがありますよね。もちろん一日中ヘラヘラしていろとはいいませんが、笑顔があふれる会社を目指したかったんです。社員の間に笑顔が波及するような意味を込めて付けました。「あったかい心で」は「感謝」「ありがとう」という意味を、自分なりの言葉に置き換えています。「革命児たれ」は自分が“食品流通革命児”と二つ名を付けたように、各スタッフはそれぞれ革命児の二つ名を持っていることが由来しています。「心眼を開け」は本質を見抜くために必要な要素として加えました。私自身が戦国ものが好きなので。最後の「心想共創」は1人ではなく皆でデイブレイクを作っていくという意味を込めました。また、相手を思いやりながら一緒にチームを作っていこうという気持ちも表しています。

――デイブレイクはどのような事業を手掛けていますか。

 多数の特殊急速冷凍機を扱う専門商社です。製造業などがメーカーに問い合わせた場合、当然のように自社製品をアピールしますが、顧客は判断材料を持っていないので、自社製品との相性など選定に迷う場面が少なくありません。そのため、中立的な窓口となる企業が必要です。そこで、デイブレイクは特殊急速冷凍のコンサルティング業務と特殊急速冷凍機の販売を行っています。

 たとえば、「こんにゃく成分でできたゼリー」を冷凍庫に入れた場合、数時間経っても凍りません。しかし、特殊急速冷凍は8秒ほどで表面の水分が氷晶核に変化します。肉や魚など水分を含む食材は、マイナス1~5度の温度帯で氷晶核に時間を掛けて変化するため、氷晶核が拡大して周りの細胞膜を損傷させてきました。これがドリップ(旨味成分)を流れ出させてしまう原因です。この温度帯を素早く通過させるには、氷晶核を小さいまま保つ特殊急速冷凍技術が欠かせません。

 100%は不可能ですが、「ほぼ生」の状態に戻すことも可能です。たとえば伊勢海老は5月~8月ごろ禁漁期間となりますが、4月に水揚げした伊勢海老を特殊急速冷凍し、適切に保存すれば、数年経ってもお刺身として提供できました。さらに伊勢海老の価格も禁漁前は安く、おせち料理シーズンを迎える年末になると大きく高騰します。そのため安価かつ品質がよい時期に水揚げすれば、1年を通じて安定供給も可能でしょう。

 他方で急速冷凍機に特化したオウンドメディア「春夏秋凍」も手掛けています。創業6期目を迎えますが、月80社ほどの問い合わせをいただいてきました。食品業界で何らかの課題を持つ方々からご連絡をいただき、これまで5000社ほどの相談実績を蓄積しています。そのうち約2割が各メーカーの小型冷凍機器を設置したテストルームを訪れていただき、冷凍機の性能を検証されました。

オウンドメディア「春夏秋凍」を通じた顧客とのコミュニケーションを実践
オウンドメディア「春夏秋凍」を通じた顧客とのコミュニケーションを実践

 顧客は凍結速度や解凍後の品質を実際に確認できるため、各メーカーの自社アピールに迷うことはないでしょう。このような業務を有償でコンサルティングしています。とはいえ、冷凍機の販売が主軸ではありません。我々の目的は「顧客」「情報」「資源」です。テストルームを訪れた顧客との関係性構築や、正しい情報の提供に重きを置いてきました。ネットの情報はある意味不正確な面もあります。生産者や食品企業の担当者とお話しすると、よりディープな情報を多く聞けて、ネットの浅い情報とは比較になりません。正しい食品業界の情報を吸い上げ、提供する狙いがあります。3つ目は、顧客との間に構築したパートナーシップから資源を得られるということです。たとえば顧客が「売り上げ向上」という課題を抱えていた場合、我々はECサポートや他社とのマッチングという手段を用意しています。食品流通に関与し、市場の課題解決が背景にあります。

 比較データを所有しているのも大きな利点ですね。メーカーは基本的に自社製品のデータしか所有しておらず、「この急速冷凍機の性能を引き出すには数キログラムが適切」といったデータを持っています。冷凍・解凍に対する知見、運用のノウハウを含めたビフォアーアフタープランを提供してきました。

――「HenoHeno」はどういった事業なのでしょうか。

 2019年3月18日から、オフィス向けサービスとして提供を開始したフローズンフルーツ事業です。その前にフードロスの現状を説明させてください。日本で出るフードロスは約640万トン。事業者と家庭から出る割合は半々です。後者はモラルの問題なのでテクノロジーだけでは対応しきれませんが、前者は対応可能だと思いました。内訳を見ますと、果物は31.3%、野菜は40.9%と圧倒的に多いんですね。そして、まずは果物に挑戦しました。

 私自身も本事業に着手するまで、日常的に果物を食べませんでしたが、厚生労働省の「平成28年国民健康・栄養調査」によれば、20~40代は果物類の摂取量は平均を下回ります。中でもビタミン類が多く含まれる果物は摂取すべきという意見も間違いではないでしょう。その果物を手軽に食べられれば食品ロスも減り、ユーザーも健康になるとの考えからHenoHenoを開発しました。ちなみに名称はハワイ語で「愛らしい」という意味で、製造担当者が「ゆくゆくは海外へ進出したい」という背景を持って名付けています。果物はすべて国産ですが。

 不揃いの形状や流通過程での品質劣化など、まだまだ美味しく食べられる状態でありながらこれまで破棄されていた果物を、特殊冷凍技術で新食感に作り変えた商品です。生産現場である川上から特殊冷凍でおいしさを閉じ込め、9割のパフォーマンスを引き出せます。前述した伊勢海老であれば流通時間を踏まえれば、冷凍した方が鮮度がよくなる場合もあります。HenoHenoは現在オフィス向けに提供するサービスが中心ですが、5月からナチュラルローソンで扱っていただくことになりました。将来的には野菜ロスにも挑戦したいと思いますが、市場動向や需要を見据えつつ、2020年までには何らかの形で着手できればと考えています。

――今後の事業展開もお聞かせください。

 ロス食材問題を改善しつつ、生産者へ収益を還元できるシステムを実現したいですね。果物生産者をハッピーにする循環モデルです。一昨年あたりから青果市場の卸売業者や各自治体を通じて、理念に共感していただいた農家さんと提携しました。現在はテストルームで果物をカッティングしていますが、将来的には外部委託で地方の雇用を生み出すなど、「フードロス削減プラットフォーム」の構築を目指しています。

――なぜ、農家さんに会いに行かれたのですか。

 提携だけではなく、生産者の声を直接聞きたいと思っていました。実際に会ってみると、果物ロスはすべてを破棄しているわけではなく、ジュースの原料などに使われるそうです。しかし、「ロスだからと買いたたかれ、もうからないから捨ててしまう」「安定供給保障を求められ、正規品を回すことも」といった生産者の苦労が多いのです。生産者が段ボールに果物を積めて送るだけで完結できるようなビジネスモデルを将来的に実現したいと考えています。

 また、受発注や決済を容易にする仕組みも考えています。特殊急速冷凍機は高額なため、購入できない果物農家や卸売業者に対して、弊社の「ロス管理クラウドシステム」に参加していただくだけですべてが容易になるようなプレットフォームを構想しています。我々としては「一緒に事業化しませんか」というスタンスで、物事を簡単にする仕組みを提供したいと思います。

生産者が受発注や決済を簡単に行えるようなプラットフォーム「ロス管理クラウドシステム」を構想
生産者が受発注や決済を簡単に行えるようなプラットフォーム「ロス管理クラウドシステム」を構想

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