5月15日に発表されたKDDIの2019年3月期決算は、売上高が前年度比0.8%増の5兆804億円、営業利益が前年度比5.3%増の1兆137億円と、やはり増収増益の好調な決算を記録。営業利益では初の1兆円超えを実現している。
好調な要因の1つは通信事業の好調で、分離プランの「auピタットプラン」「auフラットプラン」導入で顧客流出の低下や通信料収入につながったほか、傘下MVNOの好調によりモバイルID数が2695万に増加。そして、もう1つはライフデザイン事業の好調で、「au経済圏」の流通総額が2.5兆円に達するなど大きな伸びを示している。
だがKDDIも、注目されるのは今期より来期以降の動向である。同社は今回の決算に合わせる形で、2018年4月に代表取締役社長に就任した高橋誠氏の体制になって初となる、中期経営計画を発表しているからだ。
その中期経営計画では、KDDIがかねてより掲げている「通信とライフデザインの融合」を実現するため、これまで4つに分かれていた事業セグメントを「パーソナル」と「ビジネス」の2つに集約。それとともに、新たに7つの事業戦略を打ち出している。
その通信とライフデザインの融合に関して、高橋氏は従来のID(ユーザー数)とARPA(1人当たりの月間売上高)を軸とした戦略に、新たに「エンゲージメント」の軸を加えると表明。通信サービスとライフデザイン関連のサービスをセットで契約してもらうことにより、解約率を低減するとともに、売上の拡大につなげていくという。
実際、「au WALLETクレジットカード」「auでんき」などの契約者は、auの解約率が大幅に低減する傾向にあるとのこと。そこでモバイルと固定ブロードバンド、そしてライフデザインをバンドルさせたサービスの拡大を推し進めていくようだ。
一方で高橋氏は、「業績予想の中にモバイル通信料のARPAは出していない。総合ARPAとして出していきたい」と話しており、今後は付加価値ARPAを含めた総合ARPAを重視していく考えも示している。KDDIも分離プランはすでに導入済みだが、先にも触れた通り同社は決算発表の2日前に、より安価で利用できるという新料金プランを発表するなどして、他社への対抗を打ち出している。そのため今後、通信料収入を大きく上げるのは難しいと見て、付加価値重視の戦略を取るといえそうだ。
さらにKDDIは、今回の中期経営計画で、3年間で1000億円規模のコスト削減を進めることを明らかにしている。同社はこれまで、コスト削減を積極的にアピールすることはあまりなかっただけに、こうした部分からも従来のビジネスだけで売上を伸ばすのは厳しくなっている様子を見て取ることができそうだ。
その一方で5Gに関しては、4月に実施された周波数帯の割り当てで、他社より優位性のある帯域の割り当てが受けられたことから、今後の展開で優位になると自信を示している。9月に5Gのプレサービスを提供するだけでなく、「2020年3月末までには端末を販売したい」と話し、5Gの具体的な商用サービスの時期を明らかにしたのも、5Gの取り組みで自信を持っていることの現れと見て取ることができそうだ。
また海外事業に関しても、現在展開しているモンゴルとミャンマーで、日本の実績を生かしたライフデザイン事業を拡大していくほか、東南アジアの他の国にも事業展開していきたい考えを示している。具体的な進出国に関して高橋氏は明言を避けたが、すでに何らかの検討を進めているとのことだ。
そうした中期計画を踏まえ、2020年3月期の業績予想は売上高が今期比で2.4%増の5兆2000億円、営業利益が今期比0.6%増の1兆200億円としている。新料金プランで競争環境激化に向けた準備を進めたKDDIだが、楽天や、ヤフーを有することとなったソフトバンクと比べると、まだサービス面では弱みがある。新戦略でその弱みを補い、真に通信とライフデザインの融合による業績拡大に結び付けられるかが注目される。
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