TIGはこのほかにも多数の機能をもつ。動画ではなく静止画の中にTIG付けする「TIGマガジン」がその1つ。電子書籍のようにコンテンツを閲覧することができ、そこで見つけた気になるアイテムをタップすれば商品に関連する情報が得られる。もちろん電子書籍内に動画へ遷移するTIGを埋め込むことも可能だ。
さらにECサイトでは、アカウント情報と結びつけることで、買い物カートと連携できる「TIGコマース」機能を利用できる。ほかにも「ストーリー分岐」という機能があり、動画の途中で選択肢を選ぶことで、それに応じたシーンをシームレスに再生することが可能だ。ルートが複数ある場合の道案内や、インタラクティブなドラマ番組などに活用できるだろう。
視聴者が動画内で頻繁にタップした箇所を色分け表示する「ヒートマップ」機能も備える。例えば、ファッションショーの動画では、視聴者がどこに注目しているのか、どの商品が人気なのかが分かるだけでなく、「どういう心理で人は物に興味を持って、行動しているのかが分かる」と小林氏は言う。実際に、モデルが背中を見せて会場から去っていくタイミングでタップが増えていることが分かり、視聴者がその洋服の“後ろ姿”も気にしていることが明らかになったという。
TIG動画の作成ツールでは、機械学習を用いた「自動トラッキング」技術によって、カメラや被写体の動きにTIG付けされたものが自動追従するため、利用者はより簡単にTIG付けした動画コンテンツを作成できる。動画内の商品タップ時にどの通販サイトで購入するかを選択できるようにする「マルチリンク機能」のほか、複数のTIG動画間でストックしたものを共有するWeb APIも整備済みだ。
動画配信というと、YouTubeやTikTokのようなプラットフォーマーの力が強大だ。こうしたプラットフォーマーに対して食い込めるかどうかも、TIGの今後の普及の鍵を握っていると言えるだろう。そのため、パロニムではすでにいくつかのプラットフォーマーに対してSDKという形で提供を始めている。TIGを積極的に活用し、パロニムに出資もしている中京テレビに対しては、動画プレーヤーレベルでTIG化を可能にするプラグインも提供している。
将来に向けた研究開発にも余念がない。CTOの上田氏は、画面のタップ操作や専用リモコンの操作なしに動画を制御できる次世代のインタラクションも検討している。これは、ユーザーの手や腕の動きを認識して、ジェスチャーだけで動画内に埋め込まれたTIGのストック操作などをできるようにするもの。
「プロトタイプのプロトタイプ」と上田氏が話すその仕組みは、Kinect for Windowsなどを用いて人物の動きを認識するもの。プロトタイプのわりにはレスポンス良く、かなり正確に反応してくれるのが印象的だった。もしかしたら将来は、一般の大型テレビにTIGが実装される日がくるかもしれない。
今後本格化する5G時代には、「非常に簡単に素早く、シームレスに動画編集できるようになるのでは」と小林氏は予想する。これまで映像・動画コンテンツにおいては視聴回数や視聴率のような指標しかなかったが、5G時代には「視聴者がそのなかでどういう行動をとったか、というところまで取れるようになる」と期待する。
小林氏は、TIGを通じて「言葉や検索のいらない世界を作りたい」と話す。その根底にあるのは、14~19歳まで満足に英語を話せない状態で単身カナダで暮らし、言葉が伝わらない悔しさや苦しさを味わった自身の経験だ。「海外ドラマの女優の服なども、言葉がわからないと調べようとも思わない。言語に依存せず、触れるだけで誰でも平等に情報に到達できる。それが我々の実現したいこと」(小林氏)。
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