SXSWの公式マップスポンサーに選ばれた京都発ベンチャー「Stroly」--創業者が語る“地図×ストーリー”

 デジタルの地図サービスは目的地までのルートを調べるのには便利だが、もしコンテキスト(文脈)のある地図があれば人の“行動”も決めることができるのではないかーー。そう考えているのが、新しいデジタル地図の可能性にかけている京都の企業Stroly(ストローリー)だ。

 3月にテキサス州オースティンで開かれたSXSW(サウス・バイ・サウスウエスト)では、そのアイデアが評価されて公式マップスポンサーに抜擢。さらに、SXSWのピッチコンテストでは日系企業として唯一エンターテインメント&コンテンツ部門のファイナリストにも残った。

Strolyの共同創業者兼CEOの高橋真知氏
Strolyの共同創業者兼CEOの高橋真知氏

 Strolyの共同創業者兼CEOである高橋真知氏に、Strolyが提案する新しいデジタル地図の可能性について話を聞いた。

訪問した人が“没頭”できる地図を作りたい

ーー地図サービス「Stroly」でできること、そしてビジネスモデルについて教えてください。

 Strolyは、Story(物語)とStroll(散歩)を組み合わせた言葉です。ユーザーは自分のこだわりをテーマに地図を作成できます。スイーツマップ、アニメのテーママップなどが作成されています。非公開にして一部で楽しんだり、ゲストハウスのホストがゲスト向けに地図を用意するようなケースもあります。

 事業側であれば、自分たちの街やエリアを魅力的に案内できます。現在の位置情報がわかるので、訪問者を効果的に誘導できます。例えば観光案内所などがアナログの地図を作っています。エリアの魅力を紹介した素晴らしい地図ですが、紙なので置いてあるところに行かないとその存在がわからない。検索もできません。

 Strolyなら、鳥瞰図、手書き地図、古地図など正縮尺の地図じゃなくてもデジタル化して訪問者に提供できます。大阪にある「四ツ橋」は、昔は橋が4つあったからついた名称なのですが、古地図でその歴史を紹介できます。奈良の平城京のプロジェクトでは、CGの地図上に現在地を表示して、歴史解説を音声で聞けるサービスを作りました。1300年前の空気感を味わうことが可能です。

地図サービス「Stroly」
地図サービス「Stroly」

 我々はBtoBモデルで、地図の企画・制作をするほか、地図の利用傾向も分析しています。プランは「アシスト」と「プレミアム」の2種類の有料プランに加えて、無料でアカウントを作成して自分が作成した地図をオンラインにアップできます。

ーーなぜ、Strolyを作ろうと考えたのでしょうか。

 私が京都の国際電気通信基礎技術研究所(ATR)に勤務していた時に、博物館のガイドシステムなどを手掛けるプロジェクトに関わっていました。そこで京都の映画村のガイドシステムを作って欲しいという依頼があったのですが、Google マップで見ても映画村のような感じがしない。訪問した人が没頭できるような地図を作れないかと思ったのがきっかけです。

 研究成果のレコメンドエンジンの技術を応用して、博物館のガイドシステムを作っていたので、コンテキストとコンテンツを一緒に見せることの重要性は理解していました。通常の地図サービスでは、映画村というコンテキスト(文脈)が失われるのです。そこでプロトタイプを作ったのですが、映画村だけでなく、様々な地図で使えるのではないかと思い、古地図ばかり入っているアプリ「こちずぶらり」なども作成し、しばらくは自治体を中心に地図を作りました。

 当初はATRの下でやっていたのですが、プラットフォーム化にチャレンジしたいと思い、ATRからMBO(マネジメント・バイアウト)しました。2016年のことです。その後の資金調達もうまくいき、2018年には2回目の資金調達に成功しました。2回目の調達額は総額約2億5000万円となり、引受先としては大和ベンチャー、UNICORNファンドなどに加え、JTBにも出資いただきました。JTBとはインバウンドなどで業務提携も結びました。

ーー企業はどのようにStrolyを利用しているのでしょう。

 利用例としては映画村などのテーマパークや、自治体やDMO(Destination Management Organization)の観光・インバウンド対応、京阪電鉄のような鉄道会社や、イベント、不動産、商業施設などがあります。企業にしてみれば、これまでコストをかけて地図を作成して配っても、利用者からのフィードバックはありませんでした。Strolyでは地図の利用傾向の情報を得ることができます。スタンプラリー機能など、回遊をうながす施策を企画すると、同じ場所でも違うテーマでリピートしてもらうことができます。

 紙の地図、駅の前などに置かれている地図にQRコードを貼って誘導できます。QRコードだけでなく、URL、iframeにも対応しており、ページの中に地図を埋め込むことなどができます。これまでエリアマーケティングとかエリアブランディングと言われてきても、なかなか進んでいないのが現状です。SXSWオフィシャルマップで得た知見をもとに、エリアマーケティングに適した機能を拡充させることも考えています。

Strolyでできること
Strolyでできること

ーー資金調達の成功を経て、開発人員の採用、海外への拡大を進めるとのことですが、現在の最優先課題は。

 プロダクトの開発は今後も継続していきます。代表を務める私が取り組んでいるのは、地図でマーケティングができる、コミュニケーションができるといった新しい地図の使い方の啓蒙です。YouTubeが登場したばかりのころ、動画の市場はありませんでした。地図は現在、正確に最短ルートや距離を教えてくれるツールと考えられています。まだ地図の本当の価値に気が付いていない人が多いので、何ができるのかを説明している段階です。

 SXSWはイベントの例となり、大規模かつ知名度のあるイベントで公式マップスポンサーとなったことで大きな一歩になりました。実際に利用価値を見いだしてくれるクライアントがおり、それをもっとわかりやすく我々の提供したい世界を見せて、ビジネス展開することが直近の私の課題です。裾野はとても広いですが、リーチまでにはまだ時間がかかると感じています。

SXSWではイベントマップにQRコードを添付してサイトに誘導、複数のテーマの地図を楽しめるようにした
SXSWではイベントマップにQRコードを添付してサイトに誘導、複数のテーマの地図を楽しめるようにした

ーー組織作りはどうでしょうか。

 新しい調達に成功したこともあり、現在社員は約20人体制です。京都本社のほか東京にもオフィスを構えています。海外でリモートで働くスタッフがフランスと米国に1人ずついます。日本人以外の国籍の人もいる、多様性のある組織です。

ーー将来、Strolyで目指すものは何ですか。

 プラットフォームとして世界中に使ってもらうという願いが土台にあります。大規模な企業案件が増えていますが、最終的にはStrolyが提案する世界観を理解してもらい、ロングテールなサービスにしていくことが理想です。

 地図を作ってもらうクリエイターを増やすために、日本でも「地図カフェ」というコミュニティイベントを何回か開催しました。2018年末には台湾でも開催しましたし、SXSW直後にはメキシコでも開きました。草の根的な活動ですが、地図を作ってアップロードしてみよう、自由な発想で作っていい地図があるんですよ、と伝えています。クリエイターが提案してくれることもあり、少しずつ動いています。地図のマーケットプレイスのようなものを作ることができれば、面白いなと思います。

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