子会社を「時価総額」でランク付け--サイバーエージェント流の新規事業の育て方

  朝日インタラクティブが運営するITビジネスメディア「CNET Japan」は2月19〜20日の2日間にわたり、ビジネスカンファレンス「CNET Japan Live 2019 新規事業の創り方--テクノロジが生み出すイノベーションの力」を開催した。

 ここでは、サイバーエージェント(CA) 新規事業マネジメントシステム「スタートアップJJJ」の責任者である飯塚勇太氏による講演「サイバーエージェントの新規事業の創り方、育て方」の模様をお伝えする。

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サイバーエージェント(CA) 新規事業マネジメントシステム「スタートアップJJJ」の責任者である飯塚勇太氏

スタートアップ子会社を「時価総額」で評価

 飯塚氏は、学生時代に写真共有アプリ「My365」を開発し、それをCAに譲渡する形でCAグループ会社としてシロクを設立。現在同社を運営しつつ、「スタートアップJJJ」という新規事業マネジメントシステムの責任者としてグループ内の会社を支援している。

 CAは定期的に先行投資をして、投資を回収する形で成長を続けている。社内では、原則設立2年以内の事業を「スタートアップ」と呼んでおり、「約400人がスタートアップ新規事業に関わっている」(飯塚氏)という。CAの事業は、「メディア」「インターネット広告」「ゲーム」が3本柱だが、新規事業ではそこに関わらない事業もかなり展開しており、現在グループ会社は106社を数える(2018年9月期)。「毎年多くの会社が生まれ撤退もしている。これだけ大きな規模で子会社を作っている企業は珍しい。チャンスがあれば会社を作り、人材を抜擢し、投資をしている」(飯塚氏)。

現在グループ会社は106社におよぶ
現在グループ会社は106社におよぶ

 スタートアップJJJの「JJJ」は、「事業」「人材」「時価総額」の略。CAでは、「スタートアップの子会社を営業利益や売上高で判断するのは厳しい」(飯塚氏)ため、独自基準による時価総額で評価している。評価ランクを「シード」「アーリー」「シリーズA」「シリーズB」「上場前夜」の5種類に分け、時価総額が50億円以上になると、後述する「CAJJ」に昇格する仕組みだ。

 
子会社のランク付けの仕組み
子会社のランク付けの仕組み

 スタートアップJJJに所属している子会社は約30社で、毎月集まって事業報告会を実施する。その際に事業の進捗を発表するのだが、時価総額が高い順に座るため、一目で事業の評価がわかるようになっている。1人あたり2〜3分でプレゼンし、質疑応答をする。業績がいいところがあれば情報をシェアし、悪いところがあれば飯塚氏や取締役が質問するなどして改善を促す。

 時価総額はクオーターに一度変動する。3カ月に1度、サイバーエージェント代表取締役社長の藤田晋氏が参加し、外部の会社に投資している部門の人間も参加して、「CAがこの会社を買うならいくら出すか」という視点で評価額を算出するという。「例えば今ならば、Vtuberの事業会社は市場自体が伸びているから時価総額も高くつく。上場企業が競合なら他社との比較で評価し、シビアにつけている」(飯塚氏)。

 こうした会議に普段参加しない現場のメンバーにも、「自分も新規事業作りに参加していて、上を目指す」という意識を持たせる取り組みも行っている。JJJに携わっている子会社の全社員を集めてイベントを開き、時価総額1位や昇格している会社を発表して祝う。そして、その表彰を祝うポスターをビル内に張り付けたり、社内ポータルで紹介したりしているという。「スタートアップのサービスや規模はCA内ではそこまで影響が大きくなく、売り上げだけでは目立たないため、盛大に目立たせるようにしている」(飯塚氏)のだという。

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新規事業を「撤退」するタイミングも判断

 スタートアップJJJには、盛り上げるのと同時に、適切なタイミングで撤退できるようにするという側面もある。撤退基準のルールは、「資金ショート」「6Q連続赤字」「4Q連続時価総額1億円以下」「3Q連続時価総額減少」の4項目。撤退しそうになるとイエローカードが出され、会議でも紙が張られて周囲も気付くようになっている。

 ただし、その事業会社をいきなり撤退させることは少ないのだという。一番多いのは資金ショートだが、CAでは半年続くかどうか程度の資金を渡し、良さそうなら資金を追加するという運営をすることが多い。資金がなくなると責任者が投資委員会に出て、追加資金を得るためのプレゼンをして、取締役会に上がって資金が追加される。その流れの中で事業を変更して会社自体はつぶさないというケースが多く、当初とは全く違う事業をしている会社も多いという。

 昇格が難しい設計にしており、スタートアップJJJを開始して3年目だが、時価総額50億円を達成して昇格した会社はまだ2社しかないのだという。

スタートアップJJJからCAJJへの昇格の仕組み
スタートアップJJJからCAJJへの昇格の仕組み

CAJJでコア事業の評価とつながっていく仕組み

 スタートアップJJJは、元々あったCAJJの参加者が多くなりすぎて、「スタートアップと既存事業を横並びで評価するのはどうか」との判断で誕生したものだ。CAJJは、J1からJ3という形で評価、評価基準はクオーターの営業利益で、黒字運営かつ自律的に成長できることが前提だ。子会社だけでなく、インターネット広告などの事業部単位でも所属している。

 運営の仕方もJJJと同様で、事業報告会を行い順位が高い順に座り発表する。撤退基準は、2Q連続での減収減益だが現状ではあまりないという。このようにスタートアップJJJとCAJJは、「生み出すプログラムというよりは、生み出された新規事業の会社をどう評価するか、撤退させるかという育成プログラム」(飯塚氏)となる。

CAJJの3つのステージ
CAJJの3つのステージ

新規事業コンテスト「スタートアップチャレンジ」

 CA社内で新規事業コンテストを開くと、最も多いときは事業案が1000を超えるという。これは「調べた限り日本一」(飯塚氏)で、応募した社員は約300人とのこと。この状況を作り上げる秘訣は、「しらけさせないようにする」こと。具体的には、「勉強会を多く実施したり、新規事業をやりたいと思っている人に声をかけたり、案を出す合同合宿を行ったりしている」(飯塚氏)という。

 ただ新規事業コンテストを開いても、「そんなにいい案が出ることはない」と飯塚氏は明かす。普段の業務では事業アイデアを出すという脳の使い方をしていないため、多く出させることを意識して運営しているとのこと。

 同社では「スタートアップチャレンジ」というコンテストを開催しているが、その中で2018年に入社2年目の社員が優秀賞に選ばれサイバーリグという会社を作った。その2年目社員が社長となり、もう1名入社前の内定者が取締役で、その若い2名で会社を作っているという。「若手がたくさん参加するので、できるだけハードルを低くしている。新規事業コンテストはうまくいったらラッキーくらいの気持ちで、社員のチャレンジの機会を増やしている」(飯塚氏)。

決勝プレゼンの様子
決勝プレゼンの様子
社内での認知度は高く、決勝大会には毎回100人近い社員が来場するほか、離れたオフィスにも生中継する。「決勝大会に出られたら凄い」といわれるイベントに成長しているという。

ベテラン社員が参加する「あした会議」

 スタートアップチャレンジは若手社員が参加しやすい場であるのに対し、ベテランが新規事業や中長期的な経営課題を考える場として「あした会議」が存在する。年に1〜2回実施するもので、1泊2日の合宿をして、役員対抗のチームを組みCA全グループの中からドラフトによって社員を選んで事業案や課題解決策のプレゼンをする。合宿ではCA全体の経営を決めるほかに、新規事業の話もするという形だ。

 あした会議によってできた子会社、事業による売り上げは累計700億円、営業利益100億円にのぼるという。このように同社では、ベテランや幹部の社員も新規事業を日常的に考え、様々なところから新規事業が生み出されているという。

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