イノベーションラボでは、アイデアから事業化までのプロセスを「テーマ発掘」「テーマ選定」「探索(試作品)」「検証」「事業化構想」「事業化」の6段階に分割する。だが、「やることなすこと初めてのことばかり」(宇野氏)のため、戸惑いもあった。現在はすべての案件において外部の各企業とパートナーシップを組んで進めている。
その結果として設立から1年経った現在では30件以上のアイデアが検討可能になった。その中から具体化した事例としてライオンは、「口臭ケアサポートアプリ(RePERO)」「VISOURIRE(ヴィスリール)」の2製品を披露。同社が2016年7月に実施した口臭意識調査によれば、ケア効果に不安を感じるのは68%、SNS解析による同調査では、相手に自身の口臭を気づいてほしいと回答したのは65%にもおよぶ。
ここから"口臭チェック行動"という新たな価値を創出し、スマホアプリ(スマートフォンアプリケーション)の開発に至った。スマホのカメラで舌を撮影し、数値化したデータをAI(人工知能)解析で口臭リスクを判定するというものだが、現在は接客業などB2B向けの展開をPoC(概念実証)を重ねて推し進めている。
VISOURIREは、スティック状の機器を口内に入れて内側からほほを押し上げて使う美容家電だ。ほうれい線やほほのお手入れといえば外部から化粧水クリームなどを使うのが一般的だが、「口の中に対して土地勘があった」(宇野氏)と説明する。ライオンは、「ほほの筋肉は口内からアプローチした方が圧倒的に早い」という論文を元にして開発に着手。2018年8月からクラウドファンディングを実施し、713名が支援、約1176万円の資金が集まり生産決定に至った。支援者には2019年6月ごろの発送を予定し、年内の事業化を目指している。
イノベーションラボは、前述した他にも多くの取り組みを進めている。078kobe.jpでは親子のアイデアソンを開催し、「妹がすぐ迷子になって困ってしまうお姉ちゃん」のアイデアを実現するためにハッカソンに取り組んだ結果、迷子防止フットウェア「NOSSY」をNoMpas 2018へ展示。靴にデバイスを取り付けると特定の場所で象の歩みやバネが弾む音が鳴り、近くにいる親のバンドにも震動が発生することで、子どもが迷子にならない仕組みを構築した。ライオンは「ビジネスになるか分からないものの、このような取り組みも続けている」(宇野氏)と説明する。また、下着にセンサーを取り付けることでウェストサイズがしきい値を超えるとアラートを発する「ながら腹囲チェッカー」もNoMapsではコンセプトモデルとして合わせて展示した。
利用者に運動や食事制限といったアクションをうながすのが目的だが、「範囲を広げすぎている嫌いもある。だが、試してみないと分からない。次世代ヘルスケアに関わっていればOK」(宇野氏)との判断でフィードバックを集めながらPoCを進めているという。また、SAP APJ Innovation Challenge 2018では、奥歯をかみしめることで瞬発力を発揮できるという仮定を元にしたIoTマウスピースを発表。「データを解析してアスリートのパフォーマンス向上に寄与」(宇野氏)するという。こちらも現段階は試作機でヒアリングを重ねて開発を続けている。
新規事業創出という文脈では、「まだまだ事業化に至らず、右往左往している状態だが、振り返ると良かったことキツかったことがある」(宇野氏)とイノベーションラボ設立から現在までの経験を次のように語った。「社内では新規事業創出の方法を誰も知らず、社外のスタートアップの方々と話をしていても彼らのスピード感についていけない」(宇野氏)という。
それでも新規事業創出に取り組むため膨大な決裁書・契約書を社内で回し、あらゆる話を通しに関連部署に行ったという。利点については「当初は僕らが空回りしている感覚で、たまに歯車が合致して一気に進むケースが増え始めた。この歯車がかみ合う場面が増えればスピードも加速し、アイデアの質が向上して、最終的には顧客が喜んでくれるような事業が生み出せるようになる。この『継続的なイノベーション』の発生が、(保守的や老舗といわれる企業において)新規事業を創出する企業文化につながるだろう」(宇野氏)と語った。
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