大阪商工会議所と大阪府、大阪市が「空飛ぶクルマ」をテーマにした講演会を開催。最新動向や国内事業者の開発事例を紹介し、空の移動革命に関連する新たなビジネスチャンスの到来について解説した。
経済産業省と国土交通省は2018年8月、日本での“空飛ぶクルマ”の実現に向けた「空の移動革命に向けた官民協議会」を設立し、同年12月に開催された4回目の会合でロードマップを発表している。2030年代の実用化に向けた試験飛行や実証実験も2019年から実施される予定で、利活用に向けた動きが加速している。
2025年に万博を開催する大阪は「未来社会の実験場」をコンセプトに、革新的な技術を実験できるフィールドや資金を支援する「実証事業都市」を目指し、すでに取り組みをはじめている。空飛ぶクルマもその対象にすることで、世界からビジネスチャンスを呼び込み、話題づくりにもつなげようとしている。
経済産業省 製造産業局 航空機武器宇宙産業課 係長の高橋橋拓磨氏は基調講演で、空飛ぶクルマの利活用としては主に、(1)渋滞が深刻化する都市内での活用、(2)救助ヘリの代替となる災害時の活用、(3)日本ならではの事情として離島や山間地域での活用、の3つが想定されていることを説明。実現には(1)技術開発、(2)インフラと制度整備、(3)サービスを中心とした事業者発掘、(4)社会受容性の向上という4つの課題があると話す。
実用化については、「大阪に関わらず地域でユースケースを作り、ビジネス面も含めた具体的な検証をする必要がある」としている。また、地域の思いがないと実現しにくいため「万博という気運の高まりと様々なプレイヤーが集まる状況を利用し、終了後も社会インフラとして運営できるよう計画するのが望ましいのではないか」と述べた。
デロイトトーマツコンサルティングの山本晴一朗氏は、今後移動の3~4割が空になると予想され、航続距離が100kme程度でヘリと同等の速度が出るeVTOL(電動式垂直離陸機)を中心に普及が始まると説明。「機体の開発とあわせて新たな離発着設備が必要になり、運用を支援するグラウンドハンドリングをはじめ様々な産業へビジネスチャンスの波及が見込まれる」と言う。
海外ではUberをはじめ、大企業やスタートアップの動きが加速し、巨額の資金も集まっている。日本はドローンスタートアップ特化型投資ファンドの設立はあるが、世界に比べると規模は小さい。海外に比べて安全性に厳しくハードルが高いこともあり、市場を形成するには「ユースケースを使って信頼性を得る方法があり、大阪万博という場が活用できるのではないか」と述べた。
空飛ぶクルマはパイロットに依存しないため、現在のエアラインよりも完成度の高い技術が必要になる。飛行機と自動車の両方を開発するスバルでは、そうした技術の開発への具体的な取り組みとして、自律飛行技術では小型飛行機を改造したOPV(Optionally Piloted Vehicle)システムを開発している。他にも無人機が有人ヘリを自動で回避する衝突回避技術、避雷などの気象影響リスクを減らす予測システム、故障をいち早く見つけてメンテナンスできる自動検査技術などを開発していることが紹介された。
航空宇宙カンパニー技術開発センターの岡田悟史氏は「3次元の空に“見えない道路”を敷いて、空の道路交通法で仕切るのが空飛ぶクルマの実現要件になる」と説明。都心では特に安全性が求められるため、水路の上を飛べる大阪は立地として有利で、「貨物や宅配の無人飛行機とあわせた実証が可能ではないか」と提案していた。
2020年に空飛ぶクルマのデモフライト実現を目指す有志団体のCARTIVATORは、航空、自動車、ドローン技術者の連合チームで、地上走行も可能な世界最小でドアツードアで移動できる機体を開発している。その開発と製造と販売を担当するスタートアップのSkydriveでは、2023年の発売と26年の量産化を目指している。同社代表取締役の福澤知浩氏は「費用対効果と安全面からまずは有人で東京と大阪の海上飛行ルート案を検討している」と説明した。
講演会を主催した大阪からは、関西にはeVTOLに必須な蓄電池関連の企業が集中し、貝塚市には実験に使えるドローンフィールドがあり、ドクターヘリの先駆的事業社などキープレイヤーが揃っていることが紹介された。会場ではそうした企業との交流の機会も設けられ、実証事業支援策の応募方法も紹介された。府内での先端技術の実証が対象だが、府外の企業も応募可能で、補助金の上限は1件あたり50万円となっている。
最後に経産省の高橋氏は「海外では機体開発が中心だが、運行管理システムはこれから開発が進み、そちらの方がビジネスとしてうま味があるかもしれないという点で国も注目している」と話した。管制システムもまだ検討段階で誰がプラットフォーマーになるかはこれからなため、万博でそうしたビジネスへの機運を高めるのは大事だという。
一方で技術の進化は早く、2025年は空飛ぶクルマが当たり前になってるかもしれないことも懸念すべきとも述べた。「世界に向けたインパクトを作るにはバランスが大事で、時代遅れにならないよう留意しながらプロジェクトを進めたい」と話した。
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