デジタルペンで作業をする──といえば、液晶画面や専用のタブレット端末などに画面を見ながら書く「2D(2次元)」の姿が浮かぶだろう。3D(3次元)ソフトで立体的なデザインをする場合でも、ディスプレイ上で作業する点は2Dだ。
そうした中、ワコムは新たにMR/VR/MRといったxR空間で、リアルタイムな3D作業ができるペンソリューションの取り組みを進めている。
個人からプロフェッショナルユースまで、幅広く使われる同社の技術だが、身近なアニメやマンガ、イラストの制作だけでなく、クルマなどプロダクトデザインの現場でも多く使われている。
中でも自動車業界では、クルマを3Dでデザインし、その延長線として確認のために粘土でクレイモデルと呼ばれる実物大のクルマをつくり、修正しながら1つのモデルを練り上げるという。
ワコム クリエイティブ ビジネスユニット プロダクト ストラテジー シニア バイスプレジデントの玉野浩氏は、「クルマのデザインには、リソースと時間とお金がものすごくかかっている。以前から3Dで最初から書き込んで作り上げられたらいろいろな工程をスキップできるのに、という声があり、技術的にもそろってきた」と開発した背景を説明した。
クルマをデザインするとき、液晶画面上だけでなくバーチャル空間や実際のガレージに実寸大のクルマを置いて作業できたら、また違うアイデアが浮かぶかもしれない。こうした技術はすでに現実のものになっている。実名は出せないが、これらのプロトタイプを取り入れているメーカーもあるという。
空中にペンで描く──といっても、なかなかピンとこないかもしれない。実際にVRとMRでのペン入力を体験したことをお伝えしたい。
まず、VRのペンソリューションは、VRや3Dのデザインソフトウェアを手掛けるグラビティ・スケッチと共同開発中のものだ。ヘッドマウントディスプレイ(HMD)を頭に着け、ペンの代わりとなる専用のコントローラーを握って操作する。使用しているHMDは、HTCのVIVEだ。
専用のコントローラーペンを使うので、まず操作性が通常のペンと異なる上、空中に描くので画面に描くような感触がない。実際に書く感覚とはだいぶ異なる操作感だ。試し書きをしてみると、絵の具のチューブを空間に浮かべたような3Dの線が現れて、これが3Dで描くということか、と驚いた。ワコムによれば、最初は戸惑っても、しばらく操作すると慣れるという。
なお、同社の液晶ペンタブレットCintiq(シンティック)シリーズと連携し、2Dのデータと行き来して作業もできる。作業しやすい方を選べるのもポイントだ。
次に、空間コンピューティングの先駆者であるMagic Leapと進めているMRのシステムを体験した。ワコムは2018年10月、米Magic LeapとMR領域で協業すると発表している。
Magic Leapが開発した「スペースブリッジ(Spacebridge)」と呼ばれるアプリケーションを使い、同社のMagic Leap OneとワコムのIntuos Proを連携させ、MR環境でのデザインや制作、編集などを複数人数で実施できるというもの。
まず、手のひらサイズの丸い端末をたすき掛けで腰に装着する。HMDは、HTC VIVEよりも軽く、装着もラクだ。タブレットとペンを手にして椅子に座ると、目の前に宇宙船が現れた。
ペンのボタンを操作し、空間に表示されるメニューをタップすると色を選べる。3人で宇宙船のデザインを仕上げるデモを体験した。描いたものがリアルタイムで反映され、MRなので周りで描いている様子もわかる。
以前「空間」を共有できるARアプリ「Graffity」で、友だちとビデオ通話でラクガキをしながら遊べる体験をしたことを思い出した。もちろん機能は比較にならないが、イメージとしては少し似ている。
ワコムがMagic Leapと進めている新システムは、バーチャルの世界と現実の世界の両方を見ながら同じ画面を共有し、場合によっては離れたところにいる人とも作業ができる。
まだプロトタイプの段階のため、動作がやや不安定な一幕もあったが、実際に体験できるところまで来ている。遠くない未来、クリエイターに新しいデザイン環境が開かれることになるだろう。
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