見直される電子メールとポッドキャスト--デジタルメディアの温故知新 - (page 2)

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手作り感満載のポッドキャスト広告

 この記事には、The Ringerのポッドキャスト広告の料金レートも出ていて、具体的には「視聴者1000人あたり25~50ドル」だそうだ。The Ringerはスタート当時、ウェブ広告についても試していたことがあり、当時はMedium(Evan Williams氏が立ち上げ・運営するブログプラットフォーム)の軒下を借りる形、つまりシステムに乗っかる形でやっていたので、広告営業はMedium側にほぼ任せていたはずだが、結局うまくいかず、それでポッドキャストのほうに軸足を移した、という経緯だったと思う。

 そんなポッドキャスト広告というのが、アナログメディア、それも1950~60年代のテレビを思い出させるようなもので――「シャボン玉ホリデー」の番組中にあった牛乳石鹸の生CM、といっても若い人には伝わらないか――、番組の始まりや途中で本人たちが考えたと思われるメッセージを司会者が広告主に代わって読み上げる、というもの(アドリブを挟むこともめずらしくない)。そして、たとえば「いまなら初回利用者に限って20ドル割引」といったインセンティブを聴取者に示し、「このサイト(URL)にアクセスして、次のプロモーションコードを打ち込んでください」という形で費用対効果を測るある種のダイレクト・レスポンス広告である。

 そういう古めかしいやり方、つまり雑誌に付けたクーポンの回収率で効果を測るのと同じようなやり方でもうまくいっているというのは、それなりの反応があるということだろう。なお、広告主の多くはオンラインビジネス、たとえばウェブ直販のマットレスのメーカーやSquarespaceのようなウェブサービスなどだが、なかにはGillette(P&Gの剃刀ブランド)やCallaway (大手ゴルフクラブメーカー)のブランド広告のようなものもあったと記憶している。

 たぶん1、2年前のことだったか、英語媒体の主だったところがいっせいにポッドキャストに力を入れ始めた時期があり、いまでもその流れは続いている。このベースには、片道1時間以上かけて自動車で通勤する人たちの生活習慣があり、またスマートフォンの普及でポッドキャストのコンテンツを車内に持ち込めるようになったという変化があると私は睨んでいる。また「音声版のディスプレイ広告」のようなやり方、つまりあらかじめ吹き込んだ(出来合いの)広告メッセージを番組途中に挿入する、あるいは内容や聴視者の属性にあわせて複数のポッドキャストに配信するという「よりスケールしそう」なやり方をしているところもいまだにある(ESPNあたりはそうだ)。

ひとりで100万ドル以上を稼ぐStratecheryと「スマイリングカーブ」

 ところで、このSimmons氏=The Ringerの現在の成功を、3年以上前に予見していた人間がいる。台湾在住の米国人アナリスト、Ben Thompson氏だ。

 Thompson氏は、AppleやMicrosoftで働いた後、その経験と知見を生かして独立した業界アナリスト。近年ではCode Conferenceに呼ばれて話をしたりもしている人物だが、その主たる収入源と思われるのが「Stratechery」という有料ニュースレター(NL)。このNLもサービス開始からだいぶ時間が経っているが、最近になってちょっとびっくりするような話を目にした。

 2018年のクリスマス直前にWIREDに掲載されていたCraig Mod氏のとても長い記事のなかに、「Stratecheryの売上高は年間数百万ドル(100万ドル以上、1000万ドル未満)」であることを示すThompson氏本人のコメントが出ている(Mod氏については、『ぼくらの時代の本』という日本語の著書もあり、「『SmartNews』のUIデザインアドバイザー」という肩書きもあるので、名前くらいは見聞きしたことがある人もいるだろう)。

 基本的に本人ひとりで書いているはずのNL、購読料がひとり年間100ドル(約1万1000円)程度のNLがそこまでスケールしているというのがまずは驚きで、裏を返せばIT企業やメディア企業の経営戦略といったかなりマニアックな話題でも、わざわざお金を払って読む人間が少なくともこの地球上(英語圏)には数万人単位で存在する、ということである。

 なお1月半ばに「電子メールの復権」という話題を記事にしていたWSJのコラムニスト、Chris Mims氏も、Techmemeのポッドキャスト・インタビューでやはりThompson氏の成功例に言及して、同様の数字をあげていた。

 この記事には「ソーシャルメディアに満足できなくなった企業その他がオーディエンスを求めて古くからある代替手段に目を向けている」という意味の副題が付されている。

 Mims氏にしてもあるいはMod氏にしても、新しい流れの芽に敏感な「鼻の効く」人物だと私は認識している。そんな人たちが、ほぼ同じタイミングで同じ事象に着目している、というのはやはり注目に値することだと感じている。

 Thompson氏に話を戻すと、彼が指摘している「Smiling Curve」(スマイリングカーブ)というグラフがある。これは台湾のコンピュータメーカーであるAcerの創業者、Stan Shih氏が提唱したもので、縦軸に付加価値、横軸に製造工程(R&D~製造~マーケティング)をとると、笑った口元のように両端が高く中央が低くなるという考え方を表している。

 Thompson氏はこれをメディア業界に当てはめ、個人ライター・専門媒体(コンテンツの作り手)と反対側のGoogleやFacebookのような巨大プラットフォーム(コンテンツの発見)は価値が高いが、中間に位置する媒体社(コンテンツの配信)はそれよりも低いとした。みんなが薄々感じ取っていたことを整理し、あるいは納得しやすい形にして示したこのグラフは、最近あったBuzzfeedの人員削減などを思い起こさせるものでもある。

 The RingerにしてもStratecheryにしても、現時点ではあくまで例外的な成功例だろう。これが新たな流れまで広がるのかどうかはわからない。それでも、面白いコンテンツを作り出そうとしている作り手と、そんなコンテンツを強く求め続けるごく一部のユーザー(読者でもあるいはオーディエンスでもいいし、パトロンでもいい)にとっては、やはり期待の持てる実例だ。そうしてこういう新しい芽を察知して、自分の商売にどう活かせるかを考えるのは、世のマーケター諸氏にとってたぶん面白い仕事だろう。

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