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日本のITベンチャーが続々と「オランダ」に進出する理由--WHILLなど3社に聞く

岡徳之 山本直子2019年02月09日 09時00分
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 ここ数年、日系IT企業によるオランダ・アムステルダムへの進出が相次いでいる。欧州のハブ都市と位置付けられているほか、英国のEU離脱問題「ブレグジット」の影響でロンドンのビジネス環境に不安が広がる中で、アムステルダムの優位性が高まっていることが背景にある。最近オランダに拠点を設けたヌーラボ、WHILL、TAMの日系3社に、これまでの海外展開の推移やオランダでの事業展開について話を聞いた。

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左から、WHILL Europe B.V. 社長の香田章吾氏、TAMアムステルダム代表の飯島章嘉氏、ヌーラボ 代表取締役の橋本正徳氏はビデオ通話で参加した

 ヌーラボでは、「チームで働くすべての人に」をコンセプトに、チームのコラボレーションを促進し、仕事が楽しくなるようなサービスを開発。ブラウザ上で作図するためのソフトウェア「Cacoo」、チャットツールの「Typetalk」、プロジェクト管理ツールの「Backlog」を取り扱う。福岡、東京、京都、米国、シンガポール、オランダに拠点を構える。

 WHILLは、車椅子ユーザーの声から開発された、パーソナルモビリティ「WHILL」を製造・販売する。「すべての人の移動を楽しくスマートにする」をミッションに、機能性のほかデザイン性を重視。空港、駅、遊園地などでWHILLを使った新しいMaaSサービスの構築にも取り組んでいる。日本、米シリコンバレー、台湾に拠点。2018年8月、オランダを拠点に欧州法人を設立した。

 TAMは、ウェブ制作を中心に、デジタルマーケティングのフルサービスを提供。オリジナルのマーケティングフレームワーク「PGST」を使って企業の達成すべき目標や評価指標を共有し、戦略を共に考える。東京、シンガポール、サンフランシスコ、ロンドン、台湾に拠点。2018年からオランダ拠点Tamsterdamを設立し業務を開始している。

各社がオランダに拠点を構えた理由

――各社とも複数の国に進出されていますが、各国への展開の順序や規模を教えてください。

香田氏 : WHILLは2012年に創業し、日本と米国に拠点を置いており、2018年に欧州に進出しました。これまではパーソナルモビリティというハードウェアの開発に特化してきましたが、これからは「Mobility as a Service」ということで、MaaS事業を展開していくステージに来ています。

橋本氏は今回、本社・福岡からリモートで座談会に参加
橋本氏は本社の福岡からリモートで参加

橋本氏 : ヌーラボは日本国内ではプロジェクト管理ツールの「Backlog(バックログ)」が有名ですが、海外では作図ソフトウェアの「Cacoo(カクー)」で知られています。2012年にシンガポール、2014年に米国、そして2018年にオランダに進出する運びとなりました。

飯島氏 : TAMは国内で創業27年になりますが、海外進出は2012年のシンガポールに始まり、2014年にサンフランシスコ、2016年にロンドン、2017年に台湾、そして2018年からオランダ事業を準備し、2019年1月にアムステルダムで会社を設立しました。各拠点に1〜5人が駐在していて、現地の日系企業のデジタルマーケティングをサポートしています。

――オランダ進出にあたってはどのような課題やきっかけがあったのでしょうか。

香田氏 : WHILLでは欧州を重要な市場と位置付けています。欧州は世界的にも最も高齢化が進む地域の1つであり、60歳以上の人口は2017年に全体の25%を占めており、2050年までには35%を占める見込みです。今後、高齢化に従って、歩行が困難と感じる人が増加することが予想されます。また、高齢化社会に直面する欧州主要国の大半において社会福祉制度が充実しており、福祉用具の利用における公的補助などが期待されます。すでにイタリアと英国で販売しており、間もなくフランス、スペイン、オランダで順次販売を開始する予定です。

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橋本氏 : ヌーラボの場合は、Cacooが世界中で使われるようになり、まずは近場のアジアに進出しました。時差もあまりないし、アジア市場のハブということでシンガポールを選びました。その次はニューヨークです。最初にCacooをプロモーションしたのがニューヨークだったので、ここはどうしても出したかった。グローバルな人材が集まっているのも魅力です。ただ、時差の関係で日本とワーキングタイムが重ならないのと、家賃や人件費が高いのが課題点でした。

飯島氏 : TAMはデジタルエージェンシーとして支援させていただく日系企業が多く進出している市場がターゲットとなります。ロンドンと台湾に進出し、社長が次の進出先を考えていたタイミングで、私が手を挙げたことがきっかけですね。私は前職で短期間だけオランダ企業に在籍した経験があり、オランダが好きになったので、兼ねてから「オランダ進出の際はやらせてください」と言っていたのです。

――欧州各国の中でもオランダを選んだ理由は。

橋本氏 : ユーザー数で考えるとフランスなのですが、英語が通じるとか、欧州の国々へのアクセスの利便性とかを考えると、アムステルダムという結果になりました。それから、ニューヨークに次いで多様な人種がいることも大きいですね。世界に向けてサービスを展開するので、人種の多様性と英語ができることは重要です。あとは、会社を設立するのに資本金などの費用があまりかからない点も利点です。

飯島氏 : 確かにオランダはB.V.(株式会社)を設立するのに費用があまりかかりませんね。最低資本金が個人事業主の場合と変わらず、手数料が少し上乗せされるぐらいでした。

香田氏 : 英語がどこでも通じるのは大きいですね。オランダは、人口・国土ともに小国、かつフランスやドイツといった大国に囲まれてきた背景から、自国の経済成長のため必要にかられて多種多様な人材を寛容に受け入れてきた歴史的経緯があります。また、人口・国土ともに一定のサイズを有し自国内である程度の経済規模を維持できるフランスやドイツよりも、インターナショナルな環境が備わっています。加えて、オランダの法人税が25%(2019年1月時点)とフランスやドイツなどより低い点と、製品輸入時の輸入VATの一時払いが不要となる点、つまり税務面のメリットも大きいです。

 さらに、オランダは外資の法人が運営しやすいと思います。「アムステルダムインビジネス」(アムステルダム首都圏の国際企業サポート組織)が外資の誘致に積極的で、早く会社設立が進むように銀行口座を開くための推薦状を書いてくれたりして、側面支援してくれました。その時に「アジアで事業展開するなら、タイやインドネシアではなくシンガポールが拠点となる。欧州ではオランダがシンガポールのような立ち位置だ」という説明を受け、「なるほど」と思いました。

――これまで欧州拠点先にロンドンが選ばれることが多かったですが、「ブレグジット(英国のEU離脱問題)」の影響で拠点をアムステルダムに移す動きも出てきました。オランダ進出の際にブレグジットは意識しましたか。

橋本氏 : 少し意識しましたね。EUマーケットを狙いにいくことを考えると、英国ではなくなってしまう。ユーザー数をEUと英国で比べると、1地域と1カ国の差は比べ物にならない。ソフトウェアビジネスではGDPR(EU一般データ保護規則)の絡みでEUのほうが実際は面倒ですが、EUは先行しているだけで、将来的に全世界でGDPRが導入される可能性を考えると、先に面倒を経験しておいたほうがいいとも思います。

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ヌーラボ 代表取締役の橋本正徳氏

香田氏 : ブレグジットについては、当社のようにハードウェアの物流をともなう事業を展開する企業からすると、このタイミングでEU加盟国との輸出入の手続きが煩雑になりうるUKに、あえて拠点を置く選択肢は採りえなかったですね。また、UKはシェンゲン協定(欧州国家間において国境検査なしで国境を越えることを許可する協定、欧州26カ国が加盟)の非加盟国なので、他欧州各国からの入国時にいちいち入国審査を受けなければならない点も、欧州域内出張時に地味に面倒だと思いました。

飯島氏 : 税金面でも、今まではEU式だけでやってきたのが、ブレグジット以降はロンドン式とEU式の両方に対応しなければならないのではないでしょうか。

オランダ進出の「メリット」と「デメリット」

――実際にオランダでビジネスを始めてみて手応えはいかがですか。

香田氏 : 期待していた通り、何かとストレスが少ないですね。オランダ人そしてオランダの企業はとにかく考え方が合理的なので、きちんとビジネスのメリットさえ伝えられれば話がスムーズに進みます。これが例えばイタリアやスペインやフランスでは、日本同様にある種特殊なハイコンテクスト文化が存在しており、これまでの関係性がないと懐に入り込めない空気感があります。今、オランダのスキポール空港で「WHILL自動運転システム」の導入を検討・協議していますが、空港側に導入のメリットを伝えたら、すぐに具体的な話に入れました。

飯島氏 : 今のところ現地の会社とのコミュニケーションがそれほどないですが、前職での経験を言うと、オランダではやはり理屈が通っていれば「やらない理由はない」ということになります。それに、何か新しいことをやろうとした時、何にでもデメリットはつきものですが、何はともあれ、「コンセプト・ドリブン」でメリットに目を向ける。デメリットに対する解決は、それに付随した何かでカバーしていけばいいという、これもやはり合理的な考えですよね。

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――どのようなシーンで合理的だと感じますか。

飯島氏 : これはビジネスだけでなく、生活面でもよく見られることで、たとえば、オランダは運河だらけなのに柵がない。これはデザインの観点からこのほうが気持ちいいということなんでしょうが、この柵がないことによって生じる危険は、小学生が着衣泳を学んでディプロマ(証書)を取る、ということで解決されている。つまり、コンセプトを実現するうえで、ルールを厳しくするのではなく、ある程度市民の自己責任にゆだね、それをカバーする仕組みが用意されているわけですね。

香田氏 : 美術館もそうですね。オランダだとかなり近くまで寄って作品が見られますよね。

橋本氏 : 欧州全体でその「自己責任」の雰囲気は感じますね。ホテルの洗濯機も「責任の範囲でご自由にお使いください」などと書いてあります。日本で言う自己責任とはちょっと違って、あくまで自由を守るために責任を果たしましょう、という合理的で、やさしさのある自己責任という感じがします。

飯島氏 : でも、ある意味それは表裏一体で、日本は安全策を2重3重に敷いているから柵がなくならないわけですが、逆にそれがないと日本の良さがなくなるのではないかと思います。どこに行っても人が親切だったり、コンビニが便利だったり。オランダ人がビジネスで数週間日本に来ると、皆さん「東京はすばらしい!」とおっしゃる。おそらく個の生活や自由を大切にするオランダの人が、あのような統制のとれたきめ細かいサービスを提供することは起こりえない気がします。

――逆にオランダのデメリットは何でしょう。

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