2019年1月8日(現地時間)から米ラスベガスで開催されたCES 2019の会場で、日本メディアの共同インタビューに答えたパナソニック 代表取締役社長の津賀一宏氏は、「パナソニックは、くらしアップデート業に変化しないと、今後10年、20年と生き残れない」などと発言した。2018年10月に開催した100周年記念イベント「パナソニック
クロスバリューイノベーションフォーラム」において、パナソニックの目指す姿を「くらしアップデート業」と表現した津賀社長は、この方針を推進する姿勢を見せる。インタビューでは、くらしアップデート業への取り組みのほか、8Kテレビをはじめとする将来の家電製品の考え方、自動車産業への取り組み、今後の技術トレンドに対する姿勢などについても言及した。パナソニックの津賀氏のインタビューを、2回に渡って掲載する。
――CES 2019の会場では、8Kテレビの展示が相次ぎましたが、パナソニックは8Kにどう取り組むのでしょうか。
8Kは、テレビの話と、モニターの話に分けて考えています。8Kモニターは、プロフェッショナル向けやBtoB向けということで存在するマーケット。ここはニッチなマーケットであり、パナソニックが直接それをやることはない。だが、プロジェクターについてはやる可能性があります。8Kは大画面で、多くの人が見られる点にメリットがあると考えています。ここにおけるパナソニックの強みは、高輝度プロジェクター。高輝度プロジェクターの8K対応をしていくことは重要視しています。東京オリンピック、パラリンピックのパブリックビューイングなどでの活用が想定され、パナソニックは、がんばる領域に位置づけています。8Kそのものは使い方によっては、いい技術になると考えています。
一方で、8Kテレビは、パネルを買ってきて、回路をつければ製品化できますが、放送のソースが限られているなかで、そのソースだけで商売をすることはできない。今は意味がないと考えており、様子見の状況です。
――CES 2019の展示を見てどう感じたか。他社とパナソニックの家電の違いはどこにあるか。
CES 2019で、他社ブースを視察したが、白物の多くにAIが搭載されていたのが印象に残っています。しかし、家電にAIを搭載する、あるいはネットワークに接続するのは、第1フェーズの取り組みであり、家電の機能の延長線上にすぎない。それに対して、パナソニックが打ち出した「くらしアップデート業」で扱うハードウェアは、従来のような製品ごとに縦割りとなった家電の形から変わっていくものになります。
そして、この言葉で重要なのは、アップデートという部分です。完成品を提供することは一見素晴らしいですが、これは結果としてコモディティ化につながる。これからの時代は、お客様が暮らしのなかで、自分が思ったような「暮らし」に近づけることを、自ら楽しんでもらえるような環境にしなくてはならない。これを実現しなければ、「くらしアップデート」の概念が成り立たちません。
そう考えると、サムスンやLG電子になくて、我々にあるものとは、家そのものを構成する電材、部材、設備といった商材を持っていること、家電のほかに、照明や空調といったものも持っていることです。そして、それらの製品を、一つひとつを単品で見るというやり方が従来のスタイルであるのに対して、製品をトータルに捉えて、環境を変えていくことが「くらしアップデート」のスタートとなり、それに取り組める環境にあるという点です。
自分が暮らしやすいように変えたり、自分の好みにあわせたり、生活スタイルが変わるのにあわせて、環境を変えていけるような企業に変わることが、「くらしアップデート業」になります。
では、これをどうやって実現するのか。たとえば「クルマ」。メカニカルなクルマの時代は、クルマをアップデートするのは現実的には無理でした。しかし、クルマが、EVやコネクテッド、オートノマスになると、コンピュータそのものに変わる。コンピュータになれば、アップデートが可能になります。
家電や住環境も、それぐらい大胆に変えていく覚悟がないと、従来の域を出ることができません。今の段階で、どうやって変えるのかに対して、私のなかに明確な答えがあるわけではありませんが、そういう方向に行かなければ、企業がお客様視点でお役立ちを続けていくことが難しくなるのは確かです。
8Kテレビになったとか、有機ELで画面が曲がるようになったのはすごいことかもしれませんが、暮らしという視点から見たときに本当にすごいことなのか。それは違います。それを皆が感じ始めている。イベントの展示では、それがすごいことに感じるが、我々はそれをぐっと我慢をして、原点に戻り、お客様視点で、暮らしの環境からやり直していくことにしました。そうなるとコンピュータの力を借りざるを得なくなる。コンピュータにすることで、アップデートが可能になります。そのアップデートをお客様自らがやっていくことが理想の姿です。だが、そういう話をしても、具体的な形が見えないため、なかなかピンとこない。しかし、それぐらい変えないとくらしアップデート業になることはできない。
くらしの統合プラットフォーム「HomeX」を搭載した「カサート
アーバン」という家は、すでに受注をいただいていますが、ここでは、すべての機能や性能がそろっていることを期待してもらうのではなく、一緒になって新たな暮らしを作っていくことを理解してもらって購入していただいています。これを「あえての未完成品」とし、アップデートしていく過程に喜びを見いだしていただけるようにした。そうしないと、くらしアップデート業は成立しない。
――くらしアップデート業の実現に向けて、パナソニックは、事業部制やカンパニー制は変えていく必要がありますか。
答えはひとつ。間違えなく変えていかなくてはなりません。変えて行かなくては「くらしアップデート業」にはならない。脳になる部分には、「ヨコパナ」と呼ぶ横軸の組織を置こうと考えています。これがビジネスイノベーション本部です。
一方で、縦の組織では、さまざまな機能や役割がありますが、ここを変えないと、横串を通しても成果が十分には得られません。今の事業部制の外でやるといったことも踏み出さないと変わらないでしょう。とはいえ、イノベーションジレンマではありませんが、今の組織は、今のニーズに最適化されており、その最適化したものを、まったく新しい「くらしアップデート」の考え方に変えるのは不可能です。だから、疑似的なくらしアップデート対応を、「HomeX対応」のような形でやっていくことになります。本当の意味で、「くらしアップデート対応」のエアコンを作るとなったら、エアコンカンパニーやエアコン事業部の外でやる意識でないと変わらない。
また、家電をコンピュータ化していくことがひとつの鍵になります。横串で通した時に、コンピュータ化をどうするかを考え、それによって、ハードウェアががらっと変わったり、家電がアップデータブルになったりといったことを進めなくてはなりません。その時に、コアとなるハードウェアは事業部門から持ってきて、それを外の組織が推進するソフトウェア制御で、家電を新たな枠組みに作り替えていくことをやらないと、くらしアップデート対応の製品や環境は生まれません。
住空間も、今の住宅施工のなかでは生まれてこない。施工そのものを変えていくことが必要になります。今は、きれいな家や、きれいなリフォームはできますが、お客様が自分でやりたいと思ってもできないことが多く、生活や気分にあわせて変化させようと思ってもできないことばかりです。家具を変えたり、カーテンを変えたりといったことに留まっており、間取りを変えることすらできない、手軽に照明の演出を変えることもできない。今の環境はそれだけアップデータブルではない。
これからは、アップデータブルな住宅の枠組みを作っていくべきですが、これは、私たちのような年寄りが考えるのではなくて、若い人たちが自分たちの暮らしをどうしたいのか、それを実現するにはどうするかを、一から作り出してもらうことが、くらしアップデート業を踏み出す一歩になります。経営陣が上から決めるような仕組みや組織では、くらしアップデート業はできません。若い人が中心になって、必要最小限のものからスタートして、それに少しずつ上積みし、経験を加えていく仕組みにしなければなりません。
――パナソニックは、「くらしアップデート業」によって、世界で存在感を発揮できる企業になりますか。
それはやってみないとわかりません。ハードウェアの世界は、原理原則がわかっていなくても、部品を購入してくれば製品化できる時代に入っており、これが家電のコモディティ化につながっています。たとえば、テレビは、パネルとチップセットを購入してくれば完成してしまう。これまでにパナソニックが長年培ってきたテレビのノウハウの積み重ねの上にはない商品になってしまいました。それを指して、家電事業というのであれば、我々は家電事業に固執する必要はありません。積み重ねがワークする領域を自ら作る必要があり、それが「くらしアップデート業」ということになります。
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