そもそもなぜ卓球ロボットをつくろうと思ったのだろうか。「オムロンのプライベート展示会を中国で開催したのがきっかけです。オムロンのR&Dとして、オムロンの将来のイメージを訴求できて、コア技術をわかりやすく伝えられる題材かつ中国で評判がとれそうなものが卓球だった」(八瀬氏)
出来上がってみると、実は卓球ロボットが同社の訴求ポイントとぴったりと合っていたという。
「卓球は、上手い人だと片道0.2秒~0.3秒の速い球が行き交います。それをロボットはセンサーで捉え、人間は目でとらえる。将来の球の予測など、オムロンの画像処理技術やロボット技術、AI技術がポイントになってきます。人が身体能力をフル活用してやっている中で、機械が追いつくのは難しいのですが、おもしろい。ほかのアプリケーションはないのかという話は毎年でてきますが、結局卓球に落ち着きます」(八瀬氏)とし、将来は分からないが今のところは卓球を軸にしていると説明した。
フォルフェウスが持つ現在の卓球レベルは、「温泉卓球の人には勝てると思いますし、ちょっとかじっていたという人にも勝てると思う」(八瀬氏)。将棋のプロに勝つAIが話題になったが、フォルフェウスはいかに人間に勝つかを目指すものではないという。
「勝ち負けが大事ではなくて、いま目指しているのは、金メダリストのようなトップレベルの人とも対等にラリーができること。エキサイティングなラリーをすることで、その人のモチベーションも上げられます。また初心者をそこに近いレベルまで早く上げられる“人と機械のインタラクション”をいかに実現するかがゴールだと思っています」(八瀬氏)
今後の課題は「まだ山積み」だと笑う。「いまは、瞬間的なその人のことしかわかりません。人が上手くなっていくときの過程を分析し、どうしたらその人の成長曲線を最大化できるのか。たとえば、筋肉の構造とか、血圧などの人体の情報を組み込んだときに、人の成長はどう評価できるのかは興味があります。人間は成長する瞬間があると思っていて、そのコツとはなんだろう。たとえば、機械に教えるなら肘を30度に開いて、それを初速2mで動かして──となるのですが、人には『もっとシュッと振る』というような感覚的なものが多い。感覚と数値のギャップをどう分析し、人の成長につなげるかもおもしろい」(八瀬氏)
フォルフェウスは、現状ではアームの動きが限られるため、バックができないといった課題も多い。「ロボットの動作として、まだ人の上手い人のようなしなやかな動きができません。人のスイング速度のほうがロボットよりも圧倒的に速いんです。構造の強度としては人の方が圧倒的に弱いはずなのに、人のほうが速いスイングができて、すごく速い速度で振っても腕がちぎれない。機械と人間の違いをどうやって埋めるか。どうやって人に近づけるか。いろいろ伸びしろがあると思っています」(八瀬氏)
取材協力:オムロン
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