「よなよなエール」成功裏にあるデジタルとクリエイティブの真髄:前編

 日本を代表するクラフトビールメーカーであるヤッホーブルーイング。「地ビール」ブームで成長するも1999年を境に売り上げが激減。8年続いた暗黒時代から脱したきっかけが「デジタルだった」と言う。井手直行社長自らネットビジネスを学び、メルマガをつくり、サイトサービスを整えた。ネットに集う熱心なお客さんを核にリアルな飲み会「よなよなエールの超宴(ちょううたげ)」を開催、今では5000人以上が集うイベントにまで成長した。ファンの拡大とともに業績も絶好調だ。

 デジタルとリアルの2つの世界の面白さと難しさについて、株式会社ビズリーチCPO兼CTOの竹内真氏が、「よなよなエール」を代表するビールを製造販売するヤッホーブルーイングの井手直行社長に聞いた。

仕事仲間、友人の間で「よなよなエール」を飲んでいる人が増えている

竹内氏:では、グラスにビールを注いで…乾杯! よろしくお願いします。今日は東京・虎ノ門にできたばかりの「よなよなエール」の公式ビアレストラン「YONA YONA BEER WORKS」に来てます。ヤッホーブルーイングが飲食店を出すのはここが初めてなんですか。

ビズリーチのCTO 竹内真氏
ビズリーチのCTO 竹内真氏

井手氏:クラフトビールメーカーとしてネット通販を中心に販売してきたんですが、実店舗を始めたのは5年前からです。ここで8店目になります。アンテナショップとして活用するため繁華街に展開しているんです。

竹内氏:そうなんですね。実は、最近、僕の仕事仲間や友人の間で「よなよなエール」の話題がよく出てくるんです。みんな熱心なファンというか、「よなよな飲むのって、普通だよね」という感じで普通に飲んでいる。気が付けば身近にあるという事実が凄いなと思っていました。

 これまで大企業が強かったビール市場で、ヤッホーブルーイングはネット販売だけじゃなくスーパーやコンビニ、そして今度は飲食店でと……リアルな世界でも拡大していますよね。商品コンセプトの作り方とか、消費者とのネットやリアルでのつながり方とか見ていると、井手社長はブランディング戦略を相当考えていらっしゃるのではないかと思ったのですがどうでしょうか。

井手氏:ありがとうございます。でも、すべて計算してやってきたわけじゃないです。むしろ「明日潰れるかもしれない」「どうすればお客さんが振り向いてくれるんだろう」と思いながら試行錯誤してきた結果できたものばかりなんです。

 もともとは素人集団です。いまから22年前ですが、「規制緩和」の一環で、小さな会社でもブリューワリーを構えることができるようになりました。そこで、ヤッホーブルーイングは1997年に長野県軽井沢で創業しました。ビールを造るのも売るのも初めての集団でしたが、米国の学校で勉強し1年かけて「よなよなエール」を完成させました。「地ビール」では初めて缶ビールとして出したこともありよく売れたんですよ。ところが3年後の1999年をピークに途端に売れなくなったんです。

竹内氏:売れなくなったのはなぜですか。

井手氏:「地ビール」は希少価値がある、珍しい、個性的という特徴で注目されたんですが、しばらくたつと大手と商品で競合するようになりマイナス面が目立つようになったのです。値段が高い、品質が安定しない、マニアック……。いったん市場に逆風が吹くと、「どのメーカーの商品もダメ」というレッテルが貼られしまい、僕らも何をしても売れなくなったんです。そんな状態が2003年まで続いたんです。いろいろやったんですが、すべてダメ。それで最後に残ったのがネット直販だったんです。

背水の陣ではじめた「ネット通販」

竹内氏:ネット販売が「起死回生」の手段だと。

井手氏:いえいえ。「これで浮上する」なんて確信はなかった。起死回生というか、背水の陣ですね。当時、ネットでビールをまじめに売る会社はありませんでした。ネット通販ってどうやっていいのか分からない。なので、軽井沢から東京の「楽天大学」に通ったんです。当時37歳。人差し指でパソコンを操作するレベルながら、サイトやメルマガをゼロから見直しをはじめました。

ヤッホーブルーイングの井手直行社長
ヤッホーブルーイングの井手直行社長

 お酒の業界って卸や問屋さんとの付き合いはあっても、お客さんと直接接することはほとんどないんです。いまもそう。だから何を求めているのかが実際には分からないんです。一方、ネット通販って1人ひとりのお客さんの声が聞こえるんです。これは本当にすごいことで、セールスのヒントをいくつももらいました。

竹内氏:どんなヒントを得たのですか?

井手氏:皆さん、「ビールが欲しいんじゃない」ということです。友達と楽しみたいとか、料理を楽しみたいとか、ビールの先に大事な楽しみがあるんです。当時、三木谷浩史会長兼社長が「ショッピング イズ エンターテイメント」といっていましたが、お客さんがどう楽しみたいのかを考えることで、いろいろな企画が浮ぶようになりました。ビールのウンチクとか書きたくなるし、ユーモアというかバカバカしい企画も提案したくなりました。僕らの価値は、ビールを通じて楽しんでもらっているかどうか。ビールメーカーじゃなくビール製造サービス業にならないといけないんだと思いました。

商品の価値はお客さんにちゃんと伝わっているか

竹内氏:ネットの世界でヤッホーブルーイングが先行した理由はどのようなところにあったのでしょうか。

井手氏:中途半端な我流を捨てたことですね。知識がなかったので、まずは専門家の知見やノウハウには素直に従いました。まず自分で勉強し、専門家が「やるべき」と教えくれたことは全部やるようにしました。中途半端に工夫をして失敗するよりも、最初に、全部自分でやってみたことがよかったです。

 一方で、「商品」に関してはネットだからといって変えませんでした。例えば、「よなよなエール」は20年間ネーミングもデザインも味も替えなかったんです。そんなビールは珍しいんです。8年間赤字を出し続けた頃、「商品を替えるべきじゃないか」という議論をしました。よなよなエールは「アメリカンペールエール」というしっかりした味のクラフトビール。それを248円という価格で実現したことに特徴があります。でも、売れないなら、もっとライトな味にするとか、値段を安くするとか、考えるべきではないかと……。

竹内氏:守るべきか、変えるべきか、この判断は難しいことですよね。

井手氏:そうなんです。ネットの使い勝手、商品が届くまでの物流、お客さんへの対応などサービスに係る部分はどんどん変えていけばいい。でも僕らの主力商品は企業の顔だけに難しいだけに意見は分かれましたね。

 創業者で初代社長だった星野リゾート代表・星野佳路は商品を変えることには慎重でした。「商品コンセプトは間違ってないし、商品力もある」「価値がちゃんと伝われば飲んでみたいと思う人たちもいる」。であれば「まだ伝えるべき人に伝わってない」「ぜんぶやりきってから考えよう」と。

竹内氏:ネット通販は、それを確かめる方法でもあった。

井手氏:はい。「伝えるべき人にどうすればちゃんと届くのか」「どうすればもっと喜んでもらえるのか」、そればかり考えてました。売り上げの数字は結果で後からついてきたんです。

リアルな飲み会「超宴」には5000人も集まる

竹内氏:お客さんとのコミュニケーションの究極の形が、ファンとの飲み会「超宴(ちょううたげ)」ですね。

井手氏:最初はコアな数十人ぐらいのお客さんと一緒に飲みたい、という程度の発想だったんですが、次第にネット上で話題になり、飲み会が100人、500人と増え続け、今では5000人規模の飲み会というかイベントに育ってきました。

 米国のバイクメーカー、ハーレーダビッドソンの日本法人が、熱烈なユーザー同士が日本中から集まり一緒に走るイベントを開催していますが、これを参考にしており、うちの社員とユーザーさんの交流の場にもなっています。準備には時間も手間もかかりますが、それでも社員1人ひとりに得るものは絶大だし、会社としても何十億円分のPR効果もあります。

竹内氏:ネットからリアルへの展開という意味では、通販だけじゃなく、スーパーやコンビニエンスストアに販路を広げていますよね。

井手氏:2006年にローソンさんとの取り引きを機にコンビニ各社さんの扱いが始まりました。それで2014年からはローソン専用ビールも手掛けるようになりました。商品コンセプトは「若者が飲みたくなるビール」。いまのビール需要の中心世代は40、50代が中心で若者は飲まなくなっているといいます。その中で「若者が手に取りたくなるビール」を開発してほしいとの相談でした。

――「若者向けのビール」は大手ビールメーカーも取り組んでいる開発テーマ。後編ではこの開発の話から伺います。

後編に続く

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