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「よなよなエール」成功裏にあるデジタルとクリエイティブの真髄:後編

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 日本を代表するクラフトビールメーカー・ヤッホーブルーイングは8年間連続の赤字の時期があり、そこから脱出するきっかけとなったのがインターネット販売だった。その経緯は前編を参照してほしいが、その後のターニングポイントが「コンビニでの販売」だった。最近ではローソンから若者向けビールの開発を依頼された。若者向けビールは大手も長年取り組んでいるテーマながら、これまで成功例がなかったマーケットだった。井手社長らはどう取り組んだのか。株式会社ビズリーチCTOの竹内真氏が聞く。

竹内氏:ローソンから依頼があったのが「若者向けのビール」ということ。大手ビールメーカーも長年取り組んでいたテーマですよね。なぜ、ヤッホーブルーイングに依頼があったのでしょう。

井手氏::コンビニでビールを買う世代は40、50代が中心です。一方、コンビニで「よなよなエール」を買っているお客さんは30代がメイン。女性比率が多いのも特徴です。僕らの商品アプローチをさらに進めることで、もっと若い世代向けの商品ができるのではないかというのがローソンの期待でした。

 「よなよなエール」を買う人たち、「ビールを買わない」人たちに対してネットやリアルでヒアリングしていくうちに分かったことがあります。そもそも、ビールを飲まない人たちは、既存のビールの味が苦手なんです。これはビールメーカーとしては認めたくない事実なんですが(笑)

ヤッホーブルーイングの井手直行社長
ヤッホーブルーイングの井手直行社長

竹内氏:ビールが嫌いな人にビールを作るというのは難題ですね。

井手氏::はい。だから「ビールじゃないビール」であればいいんです。正確に言えば、これまで日本にはなかった味がいいのではないかと考え、「SAISON(セゾン)」タイプのビールに目をつけました。苦みを抑え、フルーティーな香りが強いもの。すっきりしていて欧州では夏の時期に飲まれていたビールです。ネーミングもビールらしくないものを考え、「僕ビール、君ビール。」にして、缶にはイラストのカエルを描きました。

竹内氏:世の中にあるビールとは味もパッケージもかなり違います。ビールと書いてなければ分かりませんね。

井手氏::はい。当時、ローソンの担当者さんも「いいのか悪いのかも分からない」と言ってました(笑)。それでも「僕らに商品開発を依頼するということは、こういう差別化を期待されたからでは」と主張したのです。そもそも若者を狙った製品なので、僕たちの世代が分かる段階で売れないんですから。

 この担当者は社長をはじめ役員の方がたに説明するときも、普段なら大量に用意する資料をこの時はほとんど用意せずに、「私には説明できませんが、どうかやらせてください」とお願いして、企画を通してくれたんです。

竹内氏:すごいですね。ヤッホーブルーイングさんのこれまでの実績、クリエイティブを全面的に信頼した決断ですよね。

井手氏::でも、これ、単にひらめきだけで造ったものではないんです。味からデザインもすべて、調査や検証しながら作り上げてます。味も「ビールじゃないみたい」だから評価が高かった。「なんで、ビールのカエルのイラストなの?」と言えば、「カエルの絵がターゲット層から人気だったから」。ほかにもカタツムリとかロボットとか候補はあったんですが、圧倒的にカエルが人気だったからです。ビール的なイメージ、デザインから離れたものだからこそ、若い人たちが手に取ってみたいと思ったんですね。

世の中にないものを造り続ける難しさ

ビズリーチのCTO 竹内真氏
ビズリーチのCTO 竹内真氏

竹内氏:「これまで世の中にないもの」って成功するかどうかなんて分かりませんよね。それでもリーダーは「売れる」「できる」と周囲を説得しながら事業なりプロジェクトを進めていく必要があります。そんな時、井手さんはどう思いながら仕事をしているのでしょう。これは特に聞きたかったのですが。

井手氏::かつて「地ビール」ブームが突然終わって、何をやっても売れなかった最悪の時期に「このままでいいのか」と迷っていました。大手企業が成功していると聞けばついつい真似してみたくなるんです。でもそれは最悪の決断なんですね。みんなと同じことをやれば埋もれてしまう。お客さんの印象にも残らない。失敗する確率が高くなるだけです。失敗の道を選ばない。その代わりに、不安に耐えることができるかどうかなんですね。そのためにも成功すると「信じきる力」があるのか、続けたいと思う意思があるのか、それがあれば「成功する可能性」はあがるし、なければそれまで。そういう覚悟はいるんだと思います。

ビール造りとデジタルイノベーション

竹内氏:最後に、デジタルイノベーションについてお伺いしたいんですが、ヤッホーブルーイングではどう取り組んでますか。他社よりも進んでいる部分はありますか。

井手氏::製造工程に関しては、大量生産を前提とした巨大資本の大手メーカーの工場の方が、仕組みも設備も進んでいますよ。その一方でヒトの働き方、仕事の効率化という意味では、大企業よりも早くデジタルコミュニケーションツール、ITツールを導入できているし、実際、成果をあげている部分があると思います。長野と東京とに分かれている組織内では、会議のためのコミュニケーションツールやプロジェクトを共有するためのリモートツールなどを2013年頃から導入しています。チームビルディングなど「チームでの働き方」についても、関心があるテーマなので、IT企業さんと一緒にトライアンドエラーは続けています。

竹内氏:井手さんはIT業界と近しい印象がありますよね。

井手氏::楽天でネット通販を勉強していた時代(前編参照)に教わった先生とか、ネットサービスでお世話になった企業を通じて、IT業界の知り合いは増えていますね。最近では、国内外のIT関連のイベントに呼ばれることもあります。そもそもうちの会社はビール製造サービス業であり、ITとは全然関係ないんですけどね(笑)。それでも、フードテックという言葉があるように、今後は業界の垣根とか関係なくなるし、一緒に新しいサービスに挑戦できる時代が来るのかもしれませんね。

アルコールが入っていたからか、終始和やかに、そして熱く語り合った両者
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