11月28日、企業のマーケターを対象にした「CNET Japan CMO Award & CNET Japan Conference 2018」を開催。モバイルシフトによる最新マーケティングトレンドとして「アプリで進化する新たな顧客体験」と題し、ヤプリのエバンジェリストである金子洋平氏とDoCLASSE(ドゥクラッセ)のCMOである藤原尚也氏が登壇。事例を踏まえたアプリの効果と可能性についてトークセッションを行った。
金子氏が所属するヤプリは、企業向けスマホアプリの裏側を支えるシステムを提供している。この2年間で導入企業を伸ばしており、国内280社ほどで利用されているとのこと。プログラミングが不要で簡単にアプリを更新でき、直感的なインターフェースの管理画面なため、誰でも操作できるところが特徴だ。
金子洋平氏(以下金子):アプリの市場予測では、2021年に約14兆円になると予想されています。これは、ゲームの課金やアプリ上で行われるeコマースの流通額も含まれた市場予測額で、まだまだスマホもアプリも伸びていきます。アプリというとゲーム市場が大きいと思われるかもしれませんが、いまはeコマースや店舗用アプリなどが急速に拡大し、非ゲームアプリがゲーム市場を追い抜いています。
そんなスマホ市場が伸びるなか、ヤプリはモバイル戦略をサポートするサービスとして注目を集めている。今回登壇したアパレルのDoCLASSEも利用している企業の1つだ。
DoCLASSEの藤原氏は、ツタヤオンラインやTサイトの立ち上げ、クーポンメールなどのデジタルマーケティングに携わり、その後化粧品会社でのマーケティングを経て独立。企業に入り込んでコンサル的な仕事を行っており、2018年からDoCLASSEのCMOとして活動。売上を伸ばすべくさまざまな戦略を打ちたて実行している。
その1つが、この秋から大量に投下している「マジカルサーモ・フードコート」のテレビCM だ。マスコットのようなブクブクしたCGが音楽に合わせ踊り、風船のように破裂した中から女性が現れ「ダウンにさよならスリムであったかい」のキャッチコピーが流れるものだ。目にした人も多いことだろう。
2017年から発売したこの商品は、累計2万着を売上げたが、2シーズン目となる2018年、藤原氏は社長から「18万着売れるヒット商品にしてくれ」と頼まれたという。そこでまず行ったのが上記のテレビCMというわけだ。
金子:最近はあまりテレビを見る人が減ってきているなか、シンプルで単価1万円弱の商品。CMで検索ボックスを表示させて、どのくらいの効果が得られたのでしょう?
藤原尚也氏(以下藤原):結論から言うと、既に販売数10万着を超えるヒット商品となり、新規顧客も大幅に増加となっているので大成功でした。
Google Analyzeですべて分析し、行動フローから、流入経路別の客単価まで調べるなどをし、9月にサイトをリニューアルした。さらに店舗への動線として、アプリを事前に準備してテストを行っていたという。テレビCMを大量に流することで、認知率のアップだけでなく、売上にもつなげたかったためだ。
藤原:テレビCM は、認知率を上げるために、映像のインパクトだけでなく音楽は”ドゥクラッセ”と連呼し、最初と最後にロゴマークを表示することで、印象に残るようにしています。
金子:実際、放映後の反応はどうでした?
藤原:当初は思ったほど反応は良くなかったですね。売れてはいましたが、もっとサイトへ人が来てもいいと思っていたんです。1時間おきにGoogleトレンドとインプレッション数(表示された数)、CTR(クリック率)、CVR(顧客転換率)をチェックしたのですが、CMを投下した番組との関係性を調べて、番組ごとにどう跳ね上がるのか分析しました。その結果、何回も接触してくると(フリークエンシーが上がる)、どんどん右肩上がりになって、いまでは10万着を超えるまで伸びました。
金子:店舗へ足を運ばせるためにアプリを作ろうとしたきっかけは?
藤原:いかにターゲット層を増やしていくのか。しかしお金をかけたくない。デジタルで最低限の運用するにしても、お店をもっとうまく活用しようとしました。そこで、お店のお客さまからサイトへの新規獲得とお店のリテンションになるような試行をしました。
金子:なぜヤプリを選んだのですか?
藤原:とにかくスピードです。デジタルは思ったときにやらないと効果がなくて、企画提案から実行まで半年もかかっていたら全然ダメ。アプリで何かやろうと思っても開発に時間がかってしまいます。コストを掛けず、開発に時間もかからずできたのがヤプリでした。運用の操作性も重要で、それも含めて決めました。
実際、開発は1ヵ月ぐらいで始められ、あまりリソースを割かずにできたという。1年間やってダウンロード数は7万6000ほど。LINEもやっているが、アプリのほうが店舗でも使えるので、新規率は高い。LINEと比べて、アプリのほうが3倍効率よく新規を取れているそうだ。ただ、ターゲットが40代以上なので、お客さまがアプリの導入に戸惑わないかという点が気になるところだ。
これに対して藤原氏は「今回通常のQRコードでの案内だけでなく、SMSを活用したフリーダイアルからのDL用ページ誘導を用意。結果、QRコード利用者と変わらない利用率がでたので、年齢に合わせたサービスを展開しました」と説明した。
DoCLASSEの売上全体に対して、アプリの売上は4%程度とまだまだ少ないが、ヤプリに支払う額は初月で解消したとしている。さらに、テレビCMのおかげで勝手にアプリの利用者が増え続けているそうだ。
アプリとLINEとの違いについては、「LINEは1つのまったく違うプラットフォームだと思っています。そのなかで、どうやって新規のお客様を捕まえ、どうリテンションかけるかを一気通貫で見ています。それに対してアプリは、店舗といったリアルのお客を捕まえるためのもの。お客様にどう効率よくお店で購入して使ってもらえるかに重きをおいており、考え方を分けてやっています」(藤原氏)
たとえば今回LINEスタンプをやったら一気に360万人の友だちが増えたという。その人たちにメッセージを送ることで新規顧客を獲得し、そのあとLINE連携によってセグメント配信を行えば、それを見たお客さまが、商品商材を見たのか、カートに入れたのか、最終的に買わなかったのかを分析して、リターゲティングメッセージを送る。こうするだけで、数週間で数千万の売上がすぐ上がったそうだ。メールとは違うメッセージングならではの効果と言える。
藤原:アプリもLINEも違うチャネルであり、利用動機も違うので、それぞれの特長を活かしたコンテンツやサービスをこれからも模索し続けたいですね。
オムニチャネル(店舗やデジタルなどのチャネルを問わず、あらゆる場所でお客さまと接点を持つ戦略)の時代と呼ばれているが、昔からそれに近いことをやってきたと藤原氏。
藤原:ツタヤ時代の2000年に、店舗受取りを始め、翌年には在庫が見られるというのをやりました。さらに翌年には店舗でもデジタルでも買った商品が画面で見られるようにしたんです。しかし、それらをやったからといって、売上が上がったかというと、そうでもありません。そんな機能よりは、お店に行ったときにお客様に喜ばれるようなことに投資したいと思っています。目指すはアマゾンのアプリのような使い勝手がよくサクサク買えるアプリですね。
金子:最後に今後、どんなチャレンジをしたいですか?藤原:今回、徐々に売上が上がっていくのを見ていく中で、ページの遷移を観察すると、店舗のリスト検索がすごく増えていました。これは、着たいし触りたいというアパレル特有のものかもしれません。店舗への動線は見直したほうがいいと感じました。テレビも店舗もサイトもすべてのデータをつなげて出店からプロモーション、そして購入というアクション、その後の服を着た体験のシェアまでストーリーを作り、今後も売上を拡大していきたいですね。
藤原氏の戦略は、テレビCMによってブランディングや認知だけでとどまらず、しっかり顧客獲得までつなげられるよう、アプリ開発やサイトの見直しまで用意周到に進めているところに注目したい。
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