クルマは、苦労することなく流れに乗ってルートを進んだ。フェニックス都市圏の道路はおおむね広くて標識の整備も進んでおり、地形や天候が特に厄介なわけではない。それでも、どこに行っても道は複雑なもので、たくさんの歩行者や自転車をよけなければならなかった。
その辺の対処は問題なかった。車線を変更するときには前もって方向指示を出すし、曲がるときのライン取りはスムーズで迷いがない。人によっては、一言一句まで法令を順守するのが煩わしく感じられるかもしれないが、交差点に差しかかるたびに何秒か余分に待たされるのもほとんど気にならないということに驚くだろう。運転は任せきりで、きれいな座席にくつろいで座っていればよく、配車直前に運転者が助手席の下にしまい込んだ食べかけのランチの匂いが残っていたりすることもない。
すっかり、このクルマの動作に満点をつける気になっていたが、出発地点に戻る最終行程の途中で、時速60km以上の走行から急ブレーキがかかった。一瞬だけ、迷ったような間があったあと、クルマは再び加速し、スムーズに走り出した。筆者には、何が起きたのか分からなかった。
だが、目の前のディスプレイにステータスが表示されて、その謎は解けた。Waymoのシステムは、少しだけ流れから突出した別のクルマをハイライトで示していた。そのまま進めば衝突の危険があると警告してくれたのだ。筆者はメモを確認しながら、カメラに向かって実況を伝えていたところだったので、そのクルマに全く気づかなかった。だがWaymoのセンサ群とシステムは気づいたというわけだ。
その程度で急ブレーキをかけるのは慎重すぎないか、と思ったが、理由が分かれば納得できた。
私たちは、人がハンドルを握っている前提でクルマに乗ることに慣れきっているので、運転手のいないクルマに初めて乗るときは、ハーネスを付けずにハンググライダーに乗るような気分になるかもしれない。生身の運転手が乗る普通のクルマなら、千鳥足の歩行者や気ままに走行する自転車に運転手が気づいたことを、乗客もひと目で見て取れる。一方、運転手が車体に搭載されたGPUで動くソフトウェアルーチンにすぎないとなったら、実体の反応がなくて不安になるだろう。
この問題に、Waymoは2つの方法で対処している。まず、安全のためのオペレーターを運転席に戻した。オペレーターはそこでクルマを監視し、万一問題が起きた場合には運転を引き継ぐ。Waymoはクルマを高く信頼していたためオペレーターを助手席に座らせていたのだが、運転席に誰もいないと不安になるという乗客の声を受けて、オペレーターを運転席に戻したのだ。
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