シャープ 代表取締役会長兼社長の戴正呉氏が12月10日、毎月恒例の社長メッセージを社内イントラネットを通じて配信した。
メッセージの冒頭には、この日が冬季賞与支給日になったことを示しながら、「今回の賞与は、12月1日に開催した全社人事評価委員会において確認された業績評価(上期実績+下期10~11月見込)に基づき支給した。この期間の業績が振るわず、低い評価となった部門がいくつかあるが、課題と対策を明確にしたうえで、全力を挙げて挽回に取り組んでもらいたい。下期通期で成果を上げることのできた部門には社長特別賞の支給を予定している」とし、信賞必罰による賞与支給を実施したこと、さらには社長特別賞を年度末に支給することを示した。
今回の社長メッセージのタイトルは、「社内外のリソースを掛け合わせ、成長力を強化しよう」とし、子会社化したPC事業を行うDynabook株式会社(2019年1月1日に、東芝クライアントソリューションから社名を変更)などについても言及した。
最初のテーマは、競争を勝ち抜くために必要となる「企業の力」。これが、中期経営計画の完遂に向けて重要なものであると位置づけた。
戴会長兼社長は、企業の力を示すさまざまな指標のなかで、次の6つの視点で、企業の力を分析することが重要だとした。
(1)成長力:売上拡大を牽引する事業があるか
(2)収益力:十分な利益を稼ぐことができているか
(3)技術力:イノベーションを創出できているか
(4)持続力:信用や経験を積み重ねているか
(5)適応力:環境変化に柔軟に対応できる基盤があるか
(6)予見力:将来を見据えた明確なビジョンがあるか
これらの項目について戴会長兼社長は、シャープを自己評価してみせた。「上期には半期単位で過去最高の利益率を記録。また、ディスプレイ技術やエレクトロニクス技術など、世界最先端のさまざまな技術を保有している。さらに、早川徳次創業者の『5つの蓄積』の考えのもと、100年を超える歴史を積み重ねるとともに、皆さんの不断の努力の結果、筋肉質な経営基盤の構築も進んでいる。そして『8KとAIoTで世界を変える』という明確なビジョンもある。このように、“収益力”“技術力”“持続力”“適応力”“予見力”の5項目については一定の評価ができると考えている。だが、上期売上高が公表値未達となったように“成長力”には課題を残している」と総括した。
さらに、「量から質へ(Quality & Profit over Quantity)」、「8KエコシステムとAIoTワールドの構築(8K Ecosystem & AIoT World)」、「グローバル事業拡大(Global Business Expansion)」という3つの重点戦略に取り組み、さまざまな8K関連機器やデバイス、AIoT機器やサービスの開発や、これらを融合したスマートホームやスマートオフィス、スマートファクトリーの創出により、事業ビジョンである「8KとAIoTで世界を変える」ことの実現に取り組んでいる現状に触れながら、「こうした取り組みを推進する上では、『新規事業の創出』、『空白市場への参入』、『M&Aや協業などによる社外リソースの取り込み』を実行していくことが、極めて重要であると、いくども徹底してきたが、依然として十分な成果が出ているとは言えない。ビジョンの実現に向けて、各責任者は、いま一度、これを肝に銘じるとともに、自らの事業を、6つの視点でしっかりと分析し、必要な対策を即刻講じてほしい」と、施策の徹底を呼びかけた。
2つめのテーマが、「SHARP×Dynabook」である。2019年1月1日から、Dynabook株式会社(DBI)に社名変更する東芝クライアントソリューションは、シャープグループ傘下に入ってから、初めての記者会見を12月3日に開催した。この日は、シャープ 取締役副社長の石田佳久氏(DBI会長を兼務)が新たな事業ビジョン「コンピューティングとサービスで世界を変える」について説明。さらに、DBI 代表取締役社長の覚道清道氏から中期経営計画の骨子について説明したことについて振り返った。
戴会長兼社長は、「DBIは、米国の科学者であり、パーソナルコンピュータの父とも呼ばれるアラン・ケイ氏が、1970年代に提唱したダイナブックビジョンである『人に寄り添い、人を支える、真のパーソナルなコンピュータ』との構想に共感し、1989年に発売した世界初のノートパソコンを『DynaBook』と名付けた。この原点から30年の間、dynabookは、世界初のVGAカラー液晶搭載モデルや世界最薄・最軽量モデルなど、ハード面を中心とした進化を遂げてきた」と前置きし、「だが、これからのdynabookは、2つの方向に進化していく」と宣言した。
1つは、「dynabook as a Computing」。これまで培ってきた強みをさらに強化し、人や社会を支える真のコンピューティングを追求していくことになる。もうひとつは「dynabook as a Service」であり、ユーザーを起点に考えた新しいサービスを創出し、さまざまな分野に展開していくことになるという。そして、「これらを融合させ、より快適な社会や生活を実現する。これがDBIの目指す事業の方向性であり、この実現を通じてdynabookブランドをさらに磨き上げ、3年後の株式上場を目指し、企業価値を向上させていく」と、成長戦略に前向きな姿勢をみせた。
また「今後は、商品カテゴリーやラインアップを広げ、海外を中心に事業を拡大するとともに、コンピューティングやサービスを支えるテクノロジーを一層強化し、パソコンだけではない新たな事業の創出に取り組んでいく」とし、「こうした取り組みを確実に実行していくうえで鍵となるのが、SHARPとDynabookのシナジーの最大化である。商材や販路の相互活用、経営ノウハウの共有といった『足し算』のシナジーに加えて、コンピューティングやAIoTをはじめとした両社の技術、アイデアを掛け合わせて、まったく新しいものを創出する『掛け算』のシナジーを次々と生み出していくことが重要である」とした。
さらに、「『SHARP×Dynabook』は、両社の持続的成長のキーワードである。ともに力を合わせ、新しい未来を切り拓いていこう」と述べた。
3つめのテーマは、「8Kエコシステム」である。ここでは、12月1日から開始した新4K8K衛星放送について触れながら、「放送開始に合わせて、シャープは、11月17日に、8Kチューナーを内蔵した世界初の8Kテレビ『AQUOS 8K AX1シリーズ』を発売し、シャープマーケティングジャパンの総力を結集して、約2000店の量販店や地域店に一斉に商品展示を行った。発売後3週間の販売は順調な滑り出しとなっている。今後は、リニューアルした特設サイトの活用やウェブ動画の充実、8K4K体感キャラバンカーによる出張視聴会、量販店における体験イベント、店頭展示の強化、8K4Kデビューキャンペーンなど、さまざまなPR活動を積極的に展開し、さらなる販売拡大につなげていきたい」と述べた。
また、30カ所以上の事業所や営業拠点にも、8K放送の視聴環境を用意したことを紹介。「各拠点の皆さん自身の目で確認するとともに、来社したお客様にも積極的に紹介し、8Kの素晴らしさを体感してもらってほしい」とした。
さらに「5Gを利用した8K映像伝送の実証実験」に、NTTドコモと共同で取り組んでいることにも触れ、「11月28日には、走行するSLをシャープ製8Kカムコーダーで撮影すると同時に、SL車内に設置した8Kテレビにライブ映像を5Gで伝送する実験に成功した。今後もさまざまな実験を積み重ね、5Gの早期実用化を実現したいと考えている」と語った。
一方で、2017年12月7日に東証一部復帰を果たして、ちょうど1年が経過したことにも言及。その記者会見に出席した5人の役員全員が、「8K+5G」と書かれた赤い帽子をかぶって登場したことを振り返りながら、「これは、8Kと5Gを組み合わせて、人々に新たな生活やより豊かな社会を提案していくという当社の宣言でもあった。そして、私たちはこの目標に向け着実に歩みを進めている。今後も全社一丸となって、8Kエコシステムの構築に取り組もう」と呼びかけた。
4つめのテーマが「グローバル事業拡大」である。2018年9月の社長メッセージでは、ASEAN、欧州、中国での展開を順次強化し、グローバル事業拡大に大きな流れを作ることを宣言したが、それから約3カ月を経過したことを振り返り、「いずれの地域においても、売上拡大と適正利益確保のバランスを取った事業経営が着実に進展している」と、その成果を評価した。
11月7日に台湾の国立故宮博物院と8Kコンテンツ制作に関する共同プロジェクトの開始を発表したことや、11月2日に中国・成都、12日にマレーシア、27日に台湾で、それぞれシャープ製品のラインアップを一斉に提案する新製品発表会を開催したこと、12月12日にはベトナムで新製品発表会の開催を予定していることを紹介。「海外でも絶え間なく積極的なPR活動を継続展開していくことになる。各発表会は、さまざまな現地メディアに取り上げられるなど、大きな反響があった。とくに、台湾で開催した新製品発表会では、12月1日付で私に代わって、ASEAN代表を兼務することになったシャープ 常務執行役員社長室長の橋本仁宏氏から、シャープの8KおよびAIoTの取り組みについて説明するとともに、AQUOS 8Kやスマートフォン、空気清浄機、美容家電をはじめとする8つのテーマで、70機種以上の新製品を発表した。ここでは、シャープ製のOLEDパネルを搭載したスマートフォンのAQUOS zeroが大きな注目を浴びた」と報告した。
さらに「これまでは、台湾およびASEANのスマートフォン事業は、ブランドライセンスでビジネスを行ってきたが、今回のAQUOS zeroの発売を皮切りに、今後は、シャープ自らが、商品企画や販売を主導し、スマートフォン事業の本格拡大に取り組んでいく。日本を中心に事業を展開してきた通信事業本部にとって、これは大きな挑戦になる。何としても成功させ、通信事業のグローバル化を実現していこう」と、海外スマホ事業の新たな展開に意気込みをみせた。
メッセージの最後に触れたのが、下期計画を達成する上で、第3四半期(10~12月)が重要であると認識している点だ。
戴会長兼社長は以前のメッセージでも、第3四半期を「勝負の3カ月」と位置づけていたが、「そのなかでも、12月が最も大切な1カ月になる。いま一度、社員全員が気を引き締め、年末商戦を全力で戦い抜いてほしい。そして、2019年のさらなる飛躍を果たし、中期経営計画の達成につなげていこう」と社員に呼びかけた。
2019年度は、シャープの中期経営計画の最終年度を迎えることになる。この下期の成果が中期経営計画達成に向けた試金石になる。
CNET Japanの記事を毎朝メールでまとめ読み(無料)
ZDNET×マイクロソフトが贈る特別企画
今、必要な戦略的セキュリティとガバナンス
ものづくりの革新と社会課題の解決
ニコンが描く「人と機械が共創する社会」