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「売れなかった事実」が財産--キングジム宮本社長のユニーク製品の生み出し方

阿久津良和 別井貴志 (編集部)2018年12月07日 12時00分
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 キングジムと言えば、キングファイルやラベルライター「テプラ」を代表とする文房具メーカーとしてのブランドと同時に、デジタルメモ「ポメラ」を初めとするアイデア商品を数々世に送り出してきたイノベーティブな企業でもある。

 実際には、そうしたアイデア商品のなかには、ひっそりと市場から消えていくものが少なくない。しかし、キングジムは続々とアイデア商品を世に送り出している。なぜ新しい製品を生み出し続けられるのか、代表取締役社長の宮本彰氏にうかがった。

キングジムの代表取締役社長である宮本彰氏
キングジムの代表取締役社長である宮本彰氏

創業者は風変わりな町の発明家だった

――「ポメラ」をはじめとして、とてもユニークな製品を次々と生み出し続けており、それはキングジムの文化に見えます。その文化はどのようにして作られてきたのでしょうか。

 メーカーとして世の中にないものを作ることが一番面白くて楽しいと感じます。「キングジムの製品は面白い」などと褒めていただくと大変嬉しいですし、そのために世界で初めてと言われるようなものを常に目指すことが社風になり、文化になっているところがあります。

 弊社の主力商品はファイルとテプラですが、このような従来からある製品カテゴリーの新製品は当社にとって本当の新製品だとは考えておらず、これはリニューアルでしかありません。

 本当の新製品というのは、まったく今までなかった、市場が存在しない、市場開発型商品です。例えば「ポメラ」は、それまで世の中になかったものです。そういう商品を生み出すことこそ我々が一番やりたいことで、そこが生き甲斐なのです。

――それはいつから始まったものなんでしょうか。

 キングジムは私の祖父が昭和2年に創業したのですが、祖父はいわゆる「町の発明家」で、ちょっと変わり者でした。そういう人なので失敗作もたくさんありましたが、なかには当たる製品があって、それが世の中に認められてきて、今のキングジムにつながっています。会社の生い立ちからして、世の中にないものを作ってきた会社なのです。

 だから、世の中にないものを作らないとキングジムには存在意義がない。そのくらいの考え方を全社員が持っていて、歴史的にDNAとして受けつがれています。

新製品開発はホームラン狙いの1割打者

――1990年に発売された「ダ・ビンチ」(感熱紙にプリントできる白黒デジタルカメラ)はデジカメの先駆けともいえる製品でした。そうした今までにない新しいものはどうやって発想し、販売することころまでもっていくのでしょうか。

 アイデアが出る最初のプロセスはいろいろあります。製品を見たり聞いたり、展示会で見つけたりした中で感じたものや考えたことがアイデアに繋がります。それを開発部の人間が企画としてまとめ、部内でブラッシュアップし、それを通ってきたものを役員全員が出席する商品開発会議に諮られます。この会議でGOが出れば、商品化へ進みます。

 ところが商品開発会議そのものは、実は形式的なものなのです。というのも、それが売れるか売れないかは、社長にも役員にもわかるわけがない(笑)。わからないからこそ、商品化してみよう、ということになるのです。開発部内の会議を通ってきたものは、ほぼ全部、製品化してみる。そのかわり、出してあまり反応が良くなければやめる、といった撤退の判断も早いです。

 弊社の商品開発では、マーケットリサーチにお金と時間をかけるよりもまず、実際にアイデアを商品化して、市場の反応を見ることを推奨しています。もし、市場の反応が良くなかった場合でも、市場の反応がどのようなものであったか、改善点はどこにあるのかなど、製品化したことにより得られた市場の反応が財産になるのです。

 そもそも新規商品商品は10個に1個当てればいいと言っています。1割打者でいいからホームラン狙え。バットを思いっきり振れ。9個も失敗するから、逆に良い商品ができるんだ、と。だから売れなかった商品は、会社内においてみんなで検討会をし、「なぜ売れなかったのか」という経験を皆の共有財産にしています。これがとても大切なのです。そうなると、売れない商品を作った人間も恥ずかしくない。財産を作ったのですから。

 先ほど、商品開発会議ではほとんどの企画にGOを出すと申し上げました。では、なぜ形式的にでも会議を開くのかと言いますと、これは社長以下役員全員が企画に賛成したと言う事実を作るためです。

 皆が疑心暗鬼で「これ売れるのか?」と思うときもあるけど、一応全員の賛成を持って商品化決定と言うことになっているから、売れなかったら皆の責任だし、一番責任があるのは最後に判子を押した社長です。だから、売れない商品を作った人の責任ではないんです。

 そこまでやると、社員が失敗することを恐れなくなり、どんどん思った通りの商品を作ってみる、何でもかんでもやってみようという気になることが、私は一番大切なことだと思っているんですよ。

「売れるかもしれない」ならGO

――最近は、クラウドファンディングを活用した製品開発を展開しており、2017年10月にはモニタリングアラーム「トレネ」や、2018年10月には気づかせメモ「カクミル」の支援をMakuakeで募集し、成功させています。「カクミル」については開発会議にてプレゼンした際、社内で反対にあったと開発担当者が語っています。

 先程ご説明した通り、開発会議に出た企画のほとんどは承認します。しかし「カクミル」のように開発会議で承認を得られなかったということは、かなり希なケースです。ただ、担当者が製品化を諦めませんでした。その熱意があるということは、同じようにこの製品を必要としてくださるお客様がいる可能性があると思ったのです。これが大事で「売れるかもしれない」は、キングジムではGOなのです。

ダメ社員でも1つの成功でヒーローになる

――クラウドファンディングでも大きな役割を果たした御社の公式Twitterアカウントは、非常にユニークで人気です。そこにも製品開発と同じDNAがあるように見えますが、こうしたDNAをどのようにして継いできたのでしょうか。

 それは過去の成功体験の積み重ねによって継いできたと言えます。キングジムは世の中にない新しいものを作り続け、創業の時からここまで来ました。現在の社員も皆、そういうものを作りたいと思っています。

 実際に、そうやって過去に開発をしてヒットを打った人が、成長してヒーローになっています。「ポメラ」を開発した社員は元々、なかなかヒットの出ない開発者でした。

 弊社には年間で一番活躍した人をお正月に表彰する、社長賞という賞があります。ヒット商品を生み出した開発者はもちろん、営業部門で大口契約を取ってきた人なども対象です。表彰と共に金一封の商品があり、受賞資格は部署であったりチームであったり個人であったり、とにかくすべての社員に受賞する権利があります。その年のヒット商品となった「ポメラ」の開発担当者にも、社長賞を授与しました。

 他にも、「ポメラ」に関する取材は社長である私ではなく、開発担当者を前面に押し出すなどして、開発担当者を一気にヒーローとして扱ったのです。なかなかヒットの出なかった社員がたちまちヒーローになった姿は、他の社員への良い刺激になります。ちなみに当時の「ポメラ」開発者は、今では「ぼん家具」というグループ会社の社長をしています。

「会議に出てきたものが売れるかどうかは、誰にもわかりません。しいて言えば、分かるのはその人の商品にかける情熱くらい。本当に、とにかくやってみることが大切です」と宮本氏
「会議に出てきたものが売れるかどうかは、誰にもわかりません。しいて言えば、分かるのはその人の商品にかける情熱くらい。本当に、とにかくやってみることが大切です」と宮本氏

――2018年の中期経営計画には、企業買収と新規事業に注力するとあります。この対象は、従来の事業範囲でのことなのでしょうか、またはまったく新しい分野を想定しているのでしょうか。

 新規事業はまったく新しい分野を想定しています。ペーパーレスの時代ですから、ファイルがいつまでも売れる時代は続きません。キングジムでは、そういった考えから「テプラ」の開発をきっかけとして電子機器に参入してきまして、一般文具と比べるとだんだん電子機器の比率が高くなってきています。

 ペーパーレスがさらに加速しつつあるため、文具にこだわらずに日用雑貨や家具、キッチン周りの商品など、キングジムのグループ会社を始めとして、広く色々なものに取り組んでいこうと思っています。

負け続けても負け慣れさせないのが大事

――文具メーカーとしてのキングジムが、この先どんな会社に変わっていくのでしょうか。電子機器というカテゴリーでなくても、多くの分野でテクノロジーを使わない製品はあり得ない状況になっていますが。

 それは私もわかりません。テクノロジーのお話ももちろんですが、当社は「世の中にないもの」を作りたい。今までになかった新しいアイデアであれば何でもやっていきたいとは思っています。ですので、そのためにテクノロジーの力を借りることもあるかと思います。

 しかし、そのような場合でも、AIのような最先端は必要ありません。枯れた技術というような言い方をすることもありますが、古くから存在する技術だけど今は使われていないものなど、いろいろな技術を組み合わせることによって新しい技術を見つけ出し、「世の中にないもの」を作るヒントにしています。

 「ポメラ」がまさにそうで、電源をいれたら2秒程度ですぐに文字が打ち込めます。これがすごい技術だと言われますが、実は高度な技術を使用しているわけではなく、電子機器って本来はそういう物なのです。PCをはじめ、最近の電子機器では、高機能だからこそ起動に時間が掛かりがちです。一方で、「ポメラ」は機能をシンプルにすることで起動の速さを実現しました。高度な技術ではありませんが、それがすごく便利だと言ってくださる方がいらっしゃるのです。

――新しいことにチャレンジしていくとき、ブルーオーシャンとレッドオーシャン、どちらを目指すのでしょうか。また、チャレンジするというDNAを継いでいくために必要なことはなんでしょう。

 市場としてはブルーオーシャンを目指しています。そして、繰り返しになりますが、失敗を許す雰囲気がチャレンジするDNDを継いでいくのに必要だと思っています。新しいことにチャレンジすると、どうしても成功する確立は低くなりがちです。それを「必ず成功させないといけない」という感覚でやったら、何事も上手くいきません。「もしかしたら売れるかも」というくらいの姿勢でチャレンジすることが大切です。

 売れたら大成功ですが、、売れなかったときにどうするかも重要です。そこは、やはり、「今度こそいいものを作ろう」「なぜこれが売れなかったのか皆で考えよう」という雰囲気を作り、失敗を財産にするようにしています。

 逆に売れたときは、思いっきり開発担当者をヒーローにします。社長に取材依頼が来ても、この商品の取材なら担当者へと回します。そういうメリハリは、すごく大事だと思います。

 もちろん、これが難しくて、失敗してもよいというわけではなく、失敗したら悔しいという気持ちをもつことが大事なのです。ずっと負け続けると負けることが悔しくなくなってしまい、負け慣れしてしまう。それが一番マズいのです。

 ですので、負けることは悔しい、勝ちたい、と言う気持ちが大事です。9回三振しても10回目でホームランを打てばいいのですが、普通は9回も三振したら次も三振だと思ってしまいます。しかし、そんな風に本人に思わせない、上司も思わない、誰も思わない。どれだけ失敗しても「次こそきっと上手くいくに違いない」と信じること。ここが一番難しいですね。

――失敗することは怖いし、それを繰り返すことはもっと怖いものです。普通は10回も失敗を繰り返せないでしょう。

 そこが頓智かもしれません。もちろん、全員が全員そう上手くいくわけではなく、10回以上失敗してもヒットが出ない人もいて、なかなか理想通りにはなりません。しかし、実際に9回失敗して10回目に「ポメラ」で成功した開発担当者というヒーローが居るのです。みんなヒーローを目指して欲しいと思います。

 繰り返しになりますが、会議に出てきたものが売れるかどうかは、誰にもわかりません。しいて言えば、分かるのはその人の商品にかける情熱くらい。本当に、とにかくやってみることが大切です。

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