アシックス、スマイルズ、Z会が考えるブランド構築術--CMOはCGOへ - (page 2)

ブランド構築で重要なのは「信頼」

 ここからは朝日インタラクティブ 編集統括 CNET Japan編集長 別井貴志がモデレーターを務めたパネルディスカッションの様子をお伝えする。

--各プレゼンテーションについて感想および質問があれば述べてください。

マイルズ氏 (個人向けにカスタマイズする)パーソナライゼーションの時代になったと感じました。昔は良いものを作ればいいと比較的シンプルで、今でももちろん"もの作り"に関わる会社は反映させる必要があります。しかし、今は商品だけではお客様の心をキャッチできない。さまざまな観点から信頼を勝ち取る必要がある。本イベントはマーケティングをキーワードに掲げていますが、ブランド構築で重要なのは「信頼」だと思います。最近は大手企業でもCMOという役職から、新しい市場を切り開いていくCGO(Chief Growth Officer)に変化し始めました。これらの状況を踏まえますとマーケティングは広告宣伝だけではなく、顧客との信頼関係を築くと同時に、事業を拡大する重要な道具である点に注力すべきだと思います。

アシックス 執行役員 マーケティング統括部・統括部長 ポール・マイルズ氏
アシックス 執行役員 マーケティング統括部・統括部長 ポール・マイルズ氏

野崎氏 我々はマーケティングを否定している訳ではありませんが、突き詰めると「顧客と我々」「企業とブランド」をつなげる方法論だと考えています。2人の話を聞いて改めて感じたことは、どの企業も「核となる思いが明確にある」ということでした。ベクトルがあるからこそ直線を描くのか、蛇行線を描くのかがマーケティングであり、我々で言うところのクリエイティブだと思います。パーソナライゼーションの文脈における線も1本ではありません。もう少しお二人のお話を聞かせていただきながら、アナログもデジテルな手法も取り込めば面白い方法論を生み出せると思いました。

--せっかくですから質問なさってください。

野崎氏 では、ITで(Asteriaが備える解答の正誤や学習履歴、熟練度などのデータを活用して)個人に最適な課題を提示することが可能なのでしょうか?

野本氏 簡単に説明しますと正誤の履歴や費やした時間、過去の単元で学んだ問題などがナレッジグラフでつながっています。つまり「ここを間違ったということは、前段の部分でつまずいている可能性がある」のでレコメンドする、という仕組みです。大手ECサイトのレコメンドシステムに近く、それの教育版と思ってください。

野崎氏 なるほど。自分たちのコンテンツをどれだけ要素分解できているかでしょうか。我々の心理を分解する「n=1」と同じですね。参考になります。

野本氏 私も今日のキーワードとなったパーソナライゼーションに興味を惹かれました。「n=1」まで突き抜けられないものの、「100本のスプーン」に関する話は、私も2歳の(自分の)子どもが親の真似をしたがるのでよく分かります。過去の手法や当たり前を信じたマーケティング活動ではなく、「(スマイルズの)0ベース思考と100%実行」は膝を打つように納得できました。私もそのあたりの実例を詳しくお聞きしたいです。

--3社に共通するのはブランドメッセージがはっきりしている点です。その上で人によって扱いが異なるマーケター、マーケティングの定義と行うべき活動をお聞かせください。

マイルズ氏 今はマーケターにとって最高に楽しくもあり、難しくストレスが溜まる時代です。ツールは潤沢で国々の垣根も低く可能性は広がりますが、それだけに負担が増えました。ただ、ブランド=信頼ですから、「信頼を揺るがさない・失わない真っ直ぐな信念もしくは志」が必要です。データやデジタルはそれを実現するツールであり、(信念とツール)両方が欠かせません。例えば店舗を「ものを体験する場」と活用しつつ、すでにモバイルファーストではなくモバイルオンリーの市場も生まれたので、店舗をショーウィンドウ的な位置付けにすることで、新たな価値が創造され始めています。面白い時代になりました。

野崎氏 インタビューの際も答えさせて頂きましたが、統計的なデータを取らない理由として、1万人のアンケート調査を行っても、個人の人柄までは回答調査から見えません。あくまでも類推の域を超えないのです。「n=1」は顧客志向というよりも自分思考。自分が顧客であることを大事にしています。例えば「今日のお昼ご飯は蕎麦を食べた」場合、その心理・行動を理論的に説明できれば顧客行動が見えてくるでしょう。また、「幼少期のご飯を食べる体験」だけを切り取った瞬間、それはマスになります。

スマイルズ 取締役 兼 クリエイティブ本部 本部長 野崎亙氏
スマイルズ 取締役 兼 クリエイティブ本部 本部長 野崎亙氏

 この積み重ねで個々のユニークネスが構築されますが、瞬間(の行動)はユニークネスではありません。その上で弊社ブランドに当てはめると、所属=共感となり、共感性の高い心理を捉え得る可能性が高まります。だからこそ我々は実行結果を元に次なるステップを踏んできました。あくまでも思考は自分の中。実行の時点でリサーチが始まっています。マーケティングの原点として、自分の各行動や生活内の心理を把握することを重視して来ました。その上でモバイルやツールを活用するのは当然の流れだと思います。

野本氏 私はマーケティング担当になって1年程度なので、複雑な方程式に取り組んでいても情報が足りなくて解けないことが多い状態です。そのため、要素を分解してシンプルに考えることを大事にしてきました。その結果行き着いたのは、マーケティング=顧客とのコミュニケーションだと捉えています。我々にとっての顧客は意思決定者である保護者と学習に取り組むお子様の両方。そこで千差万別な学びの価値観に対してコミュニケーションを交わすことに集約されます。ここを丁寧に取り組むべきという結論に至ったのが、(マーケターに)就任して着手したポイントでした。

 確かに今はモバイルファースト時代ですから、スマホ(スマートフォン)から情報にアクセスするため、(Z会も)ウェブサイトや動画などを活用したPR活動をしていますが、あくまでもモバイルは第1段階。そのまま入会されることはほぼなく、次に紙の資料請求がかなりの割合で入ります。当初は「IT教材を訴求するのに紙のカタログが必要?」と思いましたが、このようにすべてがデジタルで完結しない難しさも相まって、顧客の声に向き合うことに注力しています。

 沢山の量をこなす方もいれば、1つの問題に長時間向き合う方、学び方は千差万別です。最終的に各顧客が抱えている課題解決に至るために「n=1」理論を約24万人に対して行うのは難しいものの、共通要素や学年などグルーピングで適切なメッセージを発信できるのでは、と思いました。

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