京浜急行電鉄(京急)とサムライインキュベートは11月21日、新規事業の創出を目指す「KEIKYU ACCELARATOR PROGRAM」の第2期を、同日より開始すると発表した。
このプログラムは、京浜急行電鉄グループの持続的発展に資する事業開発を、さまざまなプレーヤーと連携しオープンイノベーションによって進めるもの。第1期は、2017年10月にスタート。187件の応募から7件を採択し、うち4件の実証実験や事業連携を実現している。
今回のアクセラレータプログラムでは、京急とサムライインキュベートが連携して展開。「移動」「くらし・働き方」「買い物」「観光・レジャー」「テクノロジーの活用」の5分野に分けてテーマを募集する。京急のアセットを活用した実証実験の実施、サムライインキュベートからの出資の検討、投資家を中心とする外部メンター・アドバイザーの支援を受けられる。ベンチャー・スタートアップ企業と顧客体験を高める新しいサービスを生み出すほか、鉄道を中心とした移動インフラと、各サービスや沿線地域をシームレスに繋ぐ「地域連携型MaaS」の実現を目指すとしている。
京浜急行電鉄 新規事業企画室 部長の沼田英治氏は、アクセラレータプログラムを展開する背景を「生産年齢人口の減少や高齢化の進行、労働力不足の深刻化など、事業上の課題に直面しているため」と説明した。特に京急の鉄道路線沿線は、同業他社の沿線と比較し、高齢化が早い段階で見込まれる地域なのだという。また、第四次産業革命によるデジタル化や、業種の枠を超えるイノベーションの進展などの外部環境の変化なども含め、社会構造が大きく変化していることを指摘。事業全般において付加価値を高め生産性を向上させる必要があるほか、事業展開に柔軟な対応が求められるため、外部企業との連携が必要だと解説した。
また沼田氏によれば、沿線住民の高齢化のほか、羽田空港発着枠拡大による訪日外国人の急増、品川地区大規模再開発など、これまでに経験のない大規模プロジェクトの遂行といった課題があるという。京急では、これらの問題を成長の好機と捉え、ベンチャーやスタートアップ企業、投資家のほか、異業種の企業や大学、自治体などとともに、オープンイノベーションによって事業を進めていくとしている。
従来、大手私鉄の事業戦略は「郊外にベッドタウンを建設し、住宅地の周辺に商業施設などの付加価値を作るもの」だったと解説した沼田氏。しかしながら、このビジネスモデルは昨今の老齢化や人口減少の進行により限界を迎えており、これからはエリア間での競争になると分析する。これに対して、住む魅力や訪れる魅力、訪れる際の利便性をユーザーにわかりやすく伝え、箱としてのMaaSだけでなく、沿線エリアで得られる魅力をどのように有機的に連携させて展開できるかが重要だと説明した。
京急では、地域連携型MaaSの実現のため、2つの戦略を実行している。そのうちの1つは、成長期にあるビジネス・テクノロジーとの事業連携を目指すアクセラレータプログラム。そしてもう1つの戦略が、創業期の有望なビジネス・テクノロジーを発掘・育成するものだ。スタートアップ企業の創業初期は不確実性が高く、また今後を展望するには専門的知見が必要となる。この点についてはシードベンチャーキャピタルファンドへの戦略的出資を実行し、ファンドと連携することで目的を達成するとしている。
シードベンチャーキャピタルファンドへの戦略的出資については、サムライインキュベーションが設立する6号ファンドに数億円規模を出資し、連携を深めていく。成長期のスタートアップとの事業連携については、主にアクセラレータプログラムを通じて実施するが、6号ファンドの投資先企業からの選択による連携も視野に入れるほか、6号ファンドからのアクセラレータプログラムの選択企業への出資も積極的に検討していくとしている。アクセラレータプログラムとファンドへの出資、それぞれのメリットを生かし有機的に連携させ、成長初期と創業期のビジネス・テクノロジー双方を取り入れる枠組みを推進していくとしている。
サムライインキュベート 代表取締役 共同経営パートナーの榊原健太郎氏は、京急は都市から郊外といった日本の縮図といえる多様なアセットと課題を持っているとし、「われわれが投資する会社やアクセラレータプログラムで生み出した会社などと共に、新しいモデルや世界を作り上げれば、日本全体ないし世界のモデルとなるような街ができるのでは」と展望を語った。また、「日本の大企業は新しい事業へ踏み出さない、事業展開のスピードが遅いといった例が数多くあった」とする中で、「京急のアクセラレータプログラムとファンドへの投資を両展開していくのは今までにないケース」だと語った榊原氏。今回のケースが、日本の大企業とスタートアップの新しい見本となるのではと希望を述べた。
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