マーケティングでのデータ活用が語られるようになって久しいですが、マーケターがデータをうまく生かせているかは企業によって差があるのが現状です。さらに、活用できるデータソースの幅も急速に増加し、マーケティングは日々高度化しています。本連載では、デジタルマーケティングの現状や問題点から、データドリブンなマーケティングを実現した事例を紹介することで、AI時代のマーケティングの今をお伝えします。
マーケターはもちろんビジネスパーソンの多くは、Excelを使って予算や経費、商品売上や購買者の属性データなどを集計・整理していることでしょう。Excelは、自分一人で独自にデータを整理・分析できる使い勝手のよいツールなので、なかなか手放せないことがあるのも事実です。
しかし、取り扱う商品や店舗数の増加、ECでのユーザー属性、各種プロモーションの効果検証といったデータが膨大になると、Excelでは扱いきれなくなってきます。手作業なのでミスが出るだけでなく、Excelの集計表はスマートフォンやタブレット端末にはあまり適してはいません。そのため、データベースに蓄積されたデータを一度、商品ごと・店舗ごとに要約する必要があるため、分析に必要な詳細なデータが抜け落ち、効果的な施策につながる示唆が得られにくくなります。
ビッグデータ時代より前では、週一程度での数字管理で問題ないケースが多かったのですが、スピードが加速する今日のビジネスでは対策が後手になり、致命傷になりかねません。データ量が多くなればなるほど集計・分析に時間がかかり、本来のマーケティングの施策立案にあてる時間が少なくなっていきます。ただでさえ業務量が多いマーケターがこうした業務に追われていては、働き改革どころではありません。
ビッグデータの中から、今後の施策に役立つ示唆を得られるようデータを集計・分析するためには、適切なツールを活用する必要がある時代になったのです。ただし、ツール選びには部門間のハードルが立ち塞がります。
データベースはIT部門の管轄であることが多く、マーケティング部門は必要なデータをIT部門から提供してもらうのが一般的です。しかし、CRMなどのデータベースが分断されていたり、IT部門がマーケター側のニーズを十分に把握できず、不十分なデータを渡されるケースも考えられます。また、現在のツールは技術者寄りのものが多く、マーケターが使い方を習得するには時間がかかります。
さらに、データサイエンティストが在籍している場合でも、彼らのミッションは売上高の向上が最優先のため、リコメンデーションの改善やアプリ開発に注力しても、マーケターのプロモーションに必要なデータを揃える優先順位は低くなってしまいます。
マーケーター自身が、データ集計・分析に時間を取られていては施策の立案に集中できません。さらに、要約したデータとナレッジに加えて、直感を頼りにしたこれまでの施策は、要約前のデータの裏付けがないだけにどこに落とし穴があるかわかりません。
入手できないデータは仮定で埋め、知見で補足するしかありませんが、ビッグデータを活用した施策の前では竹槍で鉄砲に向かうようなものです。そのため、ビッグデータから分析されたトレンドを捉え、どんな商品・サービスが必要とされているかを類推し、成長に寄与する施策がカギになるのです。
マーケティングのゴールは、売上を増大しブランド価値を高めることに貢献することです。その中でも、デジタルマーケティングは個別の顧客をよりよく理解し、パーソナライズされた体験を提供するための考え方や仕組みとなります。それぞれの適切な顧客体験を導くには、多方面から集まった膨大なデータの活用は不可欠であり、それを実現するために、マーケターは必要なデータを迅速に利用できるよう部門間の連携と並行して、施策を迅速に立案できるデータドリブンなツールが必要となってきたのです。
顧客とのやり取りは、潜在的な顧客に自社の製品・サービスを知ってもらうことから始まり、興味を持ってもらい、購入してもらうことで“お得意様”になります。繰り返し購入してくれるリピーターといったライフサイクルを通して顧客とやり取りすることで、それぞれの快適な体験が積み重なり、全顧客の体験の集合価値が、目には見えないブランドの価値として蓄積されます。
つまり、顧客体験とはブランドを介した顧客とのやり取りであり、優れた顧客体験の提供はブランド価値の最大化に貢献します。チャネルがオンラインかオフラインか、顧客が個人か法人かを問わず、共通のものにしなくてはなりません。そのためには、膨大なデータを活用し、潜在的な顧客がどういったインサイトを持っているのか、何に興味があるのか、デバイスをまたいだ消費行動の変化などを捉え、一貫しつつもパーソナライズされた顧客体験の提供が必要になります。
繰り返しにはなりますが、その体験の提供には適切なツールが必要となります。膨大なデータから顧客の関連性を見出すのに有効なのが、人工知能(AI)なのです。その結果、マーケターはデータの収集・分析の負担から解放され、ブランド価値を向上させる本体の施策立案に集中できるようになります。きっと、働き方改革にもつながるはずです。
次回は、部門間のデータ共有の壁をどう乗り越えたら良いのか、デジタルマーケティングでなぜAIが有望視されているのかをお伝えします。
小林 慎
Appier Japan エンタープライズソリューションセールス カスタマーサクセスマネージャー
明治大学卒業後、大手SIerで大規模プロジェクトにてPM、SEとして従事。開発工程を上流からリリースまで経験後、スタートアップへ参画。Sharp社のクラウド型Web会議サービス TeleOfficeやタタ・コンサルタンシー・サービシズの初代カントリーマネージャー率いるインド発の文書管理ソリューションでプリセールスやテクニカルサポート等を経験し、2018年1月にAppier Japanへ入社。AI による オーディエンス予測分析を可能にする データインテリジェンスプラットフォーム「Aixon(アイソン)」のカスタマーサクセスマネージャーを担当。
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